サンセット大通り@赤坂ACTシアター

私はドラマ「glee」が大好きなんですが、シーズン2でカートがサンセット大通りの「As If We Never Said Goodbye」を歌うのです。ああいかにもミュージカルっぽいけどイイ曲だなあなんて思いながら、「サンセット大通りって馴染みがない作品だけど何?」と調べてみたのがこの舞台を知ったきっかけ。そうかアンドリュー・ロイド=ウェバーの作品なのか。しかし何で日本で上演されてなかったのかとググッてみると、どうやら四季が版権を持っていながらノーマ役にふさわしい人間がいなくて長らく上演できなかったらしい、そしてようやく版権を手放してホリプロ主催で上演されることになったらしい、という話。

   *   *   *

物語:(以下公式サイトから引用)
ハリウッドのサンセット大通りに面するある邸宅のプールに、若い男の死体が浮かんだ。“彼”は自分の死の真相について語り始める―
売れない脚本家のジョー・ギリス(田代万里生)はある日借金取りに追われ、荒れ果てた不気味な豪邸に逃げ込む。そこにはかつて一世を風靡した大女優ノーマ・デスモンド(安蘭けい)が、怪しげな執事マックス (鈴木綜馬)と共に、過去の夢に生きていた。ジョーが脚本家だと知ったノーマは、彼女の主演映画のシナリオを住み込みで書くよう命じる。「私は今でも大女優、小さくなったのは映画よ!」寝食にありつけると依頼に飛びついたジョーだったが、志を同じくする脚本家ベティ・シェーファー彩吹真央)と心を通じていく一方、仕事はおろか私生活まで束縛するノーマに次第に嫌気がさし始める。大晦日の晩、屋敷を抜け出して仲間との新年パーティーに出席していたジョーに「ノーマが手首を切った」とマックスから電話が入り…
大女優の悲哀と孤独、ハリウッドの光と闇を描いた、内幕物の決定版がついに日本上陸!

   *   *   *

上記のあらすじは第一幕のもので、二幕のあらすじをざっくり言うと。ノーマとマックスがずぶずぶの関係になってくこと、ノーマがいよいよハリウッドのスタジオに戻るものの必要とされていたのは彼女が所有するクラシックカーであり、本人はそれに気づかず女優復帰の妄想は暴走すること、ジョーはベティとの仲も深めていくが一線は超えられないこと、いよいよ耐えかねたジョーがノーマの家を出ようとしてノーマに撃ち殺されること、警察がノーマを逮捕しにくると、すっかり妄想の世界に逃げ込んだ彼女はそれを撮影だと思い込んで登場すること、が描かれております。

感想。ロイド・ウェバーの音楽がとにかくキャッチーで耳残り良くて生オケにうっとり。物語は「大人の薄汚い欲望と俗悪で自己中心的な恋愛模様」なのに、メロディが美しすぎて時々うっかりすごくイイ話を見てるような錯覚に陥る。主要キャストはみんな歌える人ばかりなので、新鮮味のあるキャスティングではないものの安心して見ていられる感じだった。

ノーマ役の安蘭けいさんは歌もうまいしさすがの安定感。でも往年の大女優やるにはまだちょっと若いよね、悲壮感が薄れる気が。大竹しのぶだったらどうかなと想像したら芸風が頭に浮かび過ぎて観劇の邪魔になったり。あと麻実れいさんとかで観たい、と思った。もうサスペンス通り越してホラーになるはず。想像するだけで震える。

(後でぐぐって分かったが麻実れいさんと鳳蘭さんがこのノーマ役をやりたいと対談で話していたよう。たしかに年齢的にはこのふたりのほうが適任。どう考えても麻実さんのほうが作品としては収まりがいいと思うけれど、安蘭さんになったのは動員重視の興行的な問題か)

あと安蘭けい(41)が50歳の大女優役で、彩吹真央(39)が22歳の若手脚本家役、というのはちょっとびっくり。ほとんど同世代のタカラジェンヌという印象があっただけにこのキャスティングはいかがなものかと。同じジェンヌさんを使うのなら早く退団した娘役をベティにするべきだったんじゃないかとね。キャラ的にもベティは元男役よりは娘役のほうが合う役のはず。あと私は田代万里生さんの出演作を二本しか観てないのに、宝塚OG三人とキスしてるってどういうこと、とかどうでも良いことが気になった(ちなみに前に観たのはマルグリット)…。

まあなんやかやいいつつもラスト、壮絶な大女優オーラを発しながら階段を降りてくるノーマの狂気を演じきった安蘭さんには「さすが元宝塚トップ男役…!」と思いましたよね。あれは凄かった。頭にかぶったショールが階段にひっかかって、ノーマのカツラが一緒におちてしまい、真っ白な銀髪が現れる…という演出も良かった。けど、銀髪は銀髪でキレイなのよ安蘭さんまだ若いから。もう少し老けた感じに見えると凄みがましたんだけど。

まあ「老い」を切実に見せずにファンタジーにまぶした演出とキャスティングなのかなあ、ともちょっと思ったり。なにしろメインターゲットの観客は30〜40代のミュージカルファンの女性なわけで、「女性が老いて必要とされなくなる」「過去の美しさと栄光に縋り付くことのみっともなさ」という切実すぎるテーマは、そんなもん1万円以上のチケット代払ってまで観たくないよ! って話だからね…。もうほんとリアルにやられたら終演後にサカスで食事するような気力はなくなると思う…。

ちなみに冒頭で書いた「As If We Never Said Goodbye」、gleeでは転校先からマッキンリー高校に戻ってきたカートが「やっと自分の居場所に帰ってきた」という歓喜の意味合いで歌い上げる曲なのですが、このミュージカルではハリウッドのスタジオに戻ったノーマが高々と歌いあげるのをスタジオの人々は冷ややかに見守る、というなんともシニカルな意味合いの曲でした。ものすごい歌い上げ系の曲なのに感動できないという…