劇団☆新感線「シレンとラギ」@青山劇場

公演概要が発表された日、TwitterのTLのザワつきは朝から晩までやまないほどでした。まあなにせ「新感線に出て欲しい俳優」ランキングがあるとしたら多分上位3位には入ってるだろう藤原竜也が客演、そして何より主要劇団員がほぼ完璧に揃うってんで、それはもう期待値は半端無く上がっておりました。

で、先に大阪公演を見た人の感想を聞いてるとどうも「完成度は高い、でも…」とちょっとモニョった感想もちらほら。少なくとも絶賛ってテンションではなかった。実際に自分で観て納得。なるほど、「ドロドロな物語だが救いはあるし完成度も高い、でもカタルシスに欠ける」といったところか。開幕前の期待値が高すぎたのも、ちょっとスッキリしない感想の原因だったかも。以下、あらすじと感想です。

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あらすじ(がっつりネタバレありの長文)。

第一幕:物語の舞台は北と南に別れた王国。北の王国を支配するのはギセン将軍(三宅弘城)とその母トウコ(村木よし子)を傀儡として擁するモロナオ(粟根まこと)とヨリコ(山本カナコ)、モロヤス(吉田メタル)。侍所のキョウゴク(古田新太)とその息子・ラギ(藤原竜也)が王宮の宴会で警護についていると、南からの暗殺者が現れてシレン永作博美)に仕留められる。南の王国のゴダイ(高橋克実)を病気に見せかけて毒殺したシレンは暗殺者集団・狼蘭族の人間であり、ラギにとっては憧れの存在だった。ところが20年前に毒殺したはずのゴダイが生きているとの情報により、シレンはラギと共にふたたび南の国へ向かう。

南の国を支配するのはゴダイの教団。妻のモンレイ(高田聖子)は夫が仮死状態に陥って以来ショウニン(右近健一)とデキていて、娘のマシキ(中谷さとみ)は若い男を欲している。仮死状態から蘇ったゴダイにかつての圧倒的なカリスマ性も記憶も無く、気の弱い子どものようになっていた。教団幹部のシンデン(北村有起哉)はゴダイの希望によりナナイ(=南の国におけるシレンの名前)を探していた。シレン密偵として働くヒトイヌオ(河野まさと)の案内により、自らシンデンの前に現れ、教団の内部に入り込む。マシキがラギに惚れたこともありとりあえずは受け入れられるふたり。

一方北の国では、キョウゴクが娘のミサギ(石橋杏奈)をモロヤスの妾として差し出すのを拒んだがために、モロナオたちに謀反の罪をでっちあげられていた。追い詰められたキョウゴクを助けたのは南の国でかつて共に戦った仲のダイナン(橋本じゅん)。キョウゴクにいろんな意味で惚れ込んでいたダイナンは、ゴダイとモロナオを倒して南北を統一し、新しい国を作ろうと提案する。キョウゴクはその提案に乗って南を目指す。

南の国へ現れたキョウゴクの密告により、暗殺者だとバレたシレンとラギは、毒煙で追手を巻いて逃げ落ちる。この毒が毒消しとして作用し、ゴダイは記憶を取り戻す。シレンと手傷を負ったラギは南の国のはずれにある隠れ家で養生する。かつてシレンはゴダイの子を産んだが赤子はすぐに奪われておそらく死んだ、という話を聞いたラギは暗殺者としてのシレンの運命に同情し女性として愛するようになる。その熱意にほだされたシレンは心と身体を許す。やがてゴダイたちがお忍びで桜見物をするという情報を得たふたりはケリをつけにノジレ川に現れるが、そこでシレンとラギは母子だということが明らかになる。シレンはキョウゴクの剣で谷へ落ちる。

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第二幕:南の王国ではゴダイが死に、そのあとをロクダイの名でラギが継いでいた。ゴダイは出生の秘密を知ったラギを挑発して剣を交え、死に際にラギを新しい教祖として崇めるよう信者に言い渡したのだ。キョウゴクに連れられて南へやってきたミサギもキョウゴクとは袂を分かち、信者としてラギを崇めている。一方、キョウゴクはダイナンに『娘への親子として以上の愛情』を見透かされ、ダイナンを殺しその首を土産に北の国へ投降する。

花見の際にキョウゴクに殺されたと見えたシレンは、マシキとモンレイが手当をして「最後の切り札」として牢に閉じ込めていた。ロクダイ=ラギの教義についていけなくなったシンデンはシレンを探し当て、ラギに会えとシレンを開放する。北の国へ戻ったキョウゴクはギセン王を操るようにしてモロナオ、ヨリコ、モロヤス、トウコを殺させ、実権を握る。

再会したシレンとラギは何かを確かめ合うように剣を交えるが、そこへ北の国からの猛毒の煙による攻撃を受ける。毒消しの血をもつシレンとラギ以外はみな一斉に毒に倒れてしまった。その毒の攻撃はキョウゴクによるものだった。愛する娘を我が物にできなかったキョウゴクは毒殺した彼女を蝋で固めて永遠に自分の物にしようとする。ラギはキョウゴクと剣を交えて倒す。傀儡としての王の立場から解放されたギセンは虫を追って森へ消える。自分たちの血に毒消しの効果があることを知ったシレンとラギは、毒に倒れた南の人々に自らの血を与えるため、戦うのをやめて歩き出す……

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ふう、あらすじ長かった…。
まさにハムレットででオイディプス王身毒丸で蛮幽記で黙阿弥で311な、「シェイクスピアギリシャ歌舞伎」な話だったなあと。いろんな古典を思い出す作品でした。
この話ではいわゆる「ラスボス」が存在しないのがカタルシスに欠ける一因だったのかも。いのうえ歌舞伎ではたいてい「最後に倒すべき巨悪」としてのラスボスが存在するんだけど(あるいは主人公自身が最後に倒される巨悪だったり)、ラスボス感を感じさせたゴダイは二幕冒頭で消えてしまう。古田さんの演じるキョウゴクが最後までシレンとラギの敵として残るけれども、劇中の存在感としてはカリスマ性としても気迫としてもゴダイのほうがキョウゴクより上だったし。キョウゴクは強いのは強いけど信念ブレまくりだし、最後に毒煙まく理由もとっても個人的という器の小ささ。ラギがゴダイとキョウゴクのふたりの父を殺す物語なんだけれども、どっちかというとゴダイに最後まで残って欲しかったなあ。

とはいえそういった「いままでのいのうえ歌舞伎のお約束」を壊して、より人間ドラマを深く描くという試みだったんだろうなあというのは伝わって来た。インタビュー記事でも「今回はブレる人ばっかりで小さい人たちが悩みながら右往左往するドラマ」ってのは読んでたし。なにより最後のひとこと「その言葉は母として?それとも女として?」「いいえ、人として」の台詞ありきのラストだったんだろうなあと。ラストで南の国にまかれた毒煙という『大きな災厄』は、どうやったって311の震災を想起させるものだったし、「どんなに強い想いも、それぞれ生き様も、大きな災害の前には一瞬で無になる」というあの瞬間はやはり寒々とした気持ちになったものだった。終演後にも色々と考えさせられてしまったし。

役者。まず印象的なのはゴダイの高橋克実さん。レッドカーペットやトリビアでのとぼけた司会ぶりとか一瞬で吹き飛ぶようなバイオレンスとエロな色気! かっこいい! こんなカッコイイ克実みたことないよ! ハゲがむしろフェロモンだよ!
残念なのは北村有起哉さんや三宅弘城さんや橋本じゅんさん。演技が残念というわけではなく、出番が少ないのだ…もっと見たいよ! まあ大人数出る以上見せ場が分散されるのは仕方ないんだけど。三宅さんとじゅんさんは短いながらも笑いが取れるキャラだからまだいいんだけど、北村さんとかもう別に北村さんじゃなくてもいいじゃんくらいの役だよ! もう!

あと古田さん、たぶんもう東京公演では既に自分の役に飽きてた(笑)。もっと狂気じみててもいい役なんじゃないかと思うんだけどなー、「娘への異常な愛情」とか「南北どっちの権力者に転ぶかわからない危うさ」とか「娘を蝋人形として側に置くために国ごと毒ガス攻撃の狂ったスケール感」とか、もっとイっちゃった感じでもいい役だと思うんだよー。古田新太の本気見せてよー、と思うんだけどね。ファンとしてはあまり悪く書きたくないが、正直この作品に対する物足りなさの何割かは「古田新太の魅力が味わえなかった」点に関する不満だと思う。まあファン以外の目には手を抜いてるようには見えないとは思うけども。うん、まあ、ネタ物やRHSと違ってあんまり好きなタイプじゃない役だよね…知ってる…。千秋楽のカーテンコールでは「あーやっと終わった!長かった!」って気持ちがアリアリと出てたしね。

まあ次は五右衛門ロック3なんで、次は「歌と踊りと笑いと殺陣」な新感線の王道が見られることでしょう!