宝塚歌劇月組「春の雪」@日本青年館

約一年ぶりの宝塚観劇。「ミー&マイ・ガール」でジャッキー役を見て以来ご贔屓の明日海りおさんが主演とあれば見逃すわけにはいきません。しかも公演ポスターの衣装が学ラン! マント! 否が応でも期待が高まります。

原作は三島由紀夫の「春の雪」なので、主人公の清顕はそれはまあこじれにこじらせた面倒くさいことこの上ない男。幼馴染の令嬢・聡子のことを好きで好きでたまらないのに、ちょっと思わせぶりなことを言われたくらいでカッとなって「俺はお前のことなんてなんとも思ってないんだぜ! 風俗行って童貞捨ててきたぜ!(意訳)」的な手紙をしたためて投函、しかし投函してから悶々と懊悩したあげく本人の元に出向いて「手紙は届きましたか! あれを読んではダメです! 手紙が届いたら必ず火中して燃やして下さい!」などと言ってみたり。彼女がお見合いすると「ふ、ふん。聡子のことなんかなんとも思ってないんだからね!」と強情をはり、周囲が「いいの? このままお見合い進めちゃって本当にいいの? 今なら間に合うよ?」と何度も言っても「いいもん!」とつっぱねておきながら、実際に結婚が決まった瞬間に手のひらを返したように「やっぱり俺アイツのことが好きー!」と間男して彼女を孕ませる始末。もうね、こじらせるにもほどがあるでしょうという自意識過剰さと面倒くささ。こんな男に愛されたせいで出家するハメになった聡子はお気の毒さまとしか言いようがない。三島の美しい文章だから純愛ラブロマンスになるのでしょうが、やってることはもう完全に昼ドラなお話。

まあそれはそれとして当事者ではなく傍観者であれば見ていて楽しい(といっていいのかどうか)舞台です。なんといっても清顕が着ているのが「学ラン」「学ランにマント」「三つ揃いスーツ」「白シャツにサスペンダー」など、男役をカッコ良く見せるクラシカルな衣装の数々。明日海りおさんのキレイな顔立ちは「ああこれはもう面倒臭い男になっても仕方ないなあ」と思わせるスキの無い美貌。歌も文句なしに上手く聞き惚れます。

作・演出の生田大和氏は若手なんですかね、いままであまり観たことないような。演出に強烈な個性は感じないものの、強いていうなら小池修一郎さんや謝珠栄さんあたりの影響を感じたり。日本が舞台の作品なのに無国籍風衣装を着た抽象ダンサーがやたら群舞して登場人物の心理をダンスで表現、な演出。まあヅカ慣れしてる人には華やかでいいんですが、ヅカ初心者が見たら「なぜ踊る…」「この人たちは誰…」「明治末期の日本なのにこの衣装は一体…」といった気持ちでいっぱいになりそうな気はしました。しかしまあ脚色や演出は総じてソツがなく悪くない作品だったと思います。