レ・ミゼラブル(映画版)

※「舞台版にはない映画版ならではの演出」に触れたネタバレがありますので、映画みる予定の舞台ファンの方はご注意下さい。

公開初日に映画館に足を運んだのは久しぶりです。なにせ予告編の短い映像だけで「ああ!これは期待できる!」というクオリティ。キャストはイメージ通りだし美術も衣装も期待以上の素晴らしい出来。試写を観た人からも絶賛しか聞こえてこない。これは大きいスクリーンと音響のいいハコで観なければ、と座席数600強のTHX規格の小屋へ。ハンドタオル握りしめて泣く準備も万端です。

いやー、良かった。
コレだけ舞台版ファンの期待を裏切らなかったミュージカル映画は近年無かったんじゃないでしょうか。シカゴのように「歌の場面は妄想」みたいな演出も無くド直球に「ミュージカル!」な演出なので、正直ミュージカルファン以外の人には評価が別れるところじゃないかとは思うのですが。ご存知のとおり舞台版は長大な原作小説をバサバサカットしてる分、唐突な展開も多いのですが、その唐突さも(多少の補足はあるものの)ほぼ踏襲。それだけ舞台版を尊重した作りなので、ファンには相当満足度高いんじゃないかと。

美術や衣装がいちいち素晴らしい。特に衣装はコスプレ好きにはたまらないんじゃないかと。そして役者がみな歌も上手いし本当にそれぞれのキャラのイメージどおり。歌はスタジオ別撮りじゃなくて撮影時にライブ撮りしたというから凄い。ここは本当にミュージカル映画の歴史を変えてしまったポイントかも。後からサントラをよく聴くとソロの曲に関しては「歌の上手さ」よりも「感情表現」を優先したようなところもあるけれど、映画を見てる間は気にならないしむしろそっちのほうが正解なんだろうな。なおテナルディエ夫妻は東宝版キャストのイメージとは違う感じだったけど、この解釈はコレでアリだな、と新鮮な気持ちに。まあテナ妻については森公美子さんの印象があまりにも強すぎるという話もある…(テナルディエは笹野高史さんのイメージ…)

映画ならではの場面で良かったのは、まずオープニングの造船所で囚人が船を引くシーンのスケール感。そして独白を歌い終えたバルジャンが仮釈放の許可証を破り捨て、その紙片が空に舞って8年後へと鮮やかに切り替わるシーン。ここは鳥肌が立ったなあ。そしてなんといってもファンテーヌのソロの切なさ…。仕事を失い、長い髪を売り、歯を売り、そしていよいよ身体を売り…と転落していく姿が一気に描かれての「I dreamed a dream」は、もう涙なしでは観られない。自分が母親になったからというのも重なって、「娘のため」になんとかしなくてはとあがく姿に思い入れも増す。ここが個人的に第一のピークだったかなあ。そして建物の窓から椅子や家具を投げてバリゲードを築くシーンの高揚感。撃たれて命を落としたガブローシュの胸にそっと勲章を置くジャベールの場面が第二のピーク。これは舞台ではない演出なので不意をつかれたのもあるし、ジャベールの揺れる気持ちも伝わってくる名シーン。すっかり破壊された見るも無残なカフェで歌われるカフェソングも切ない。そしてなんといってもラスト、バルジャンが死に際に見るバリゲードの絵の圧巻さときたら! まあ予告編でもちらっと見えてはいるんですけども。そうそう確かに劇中のバリゲードは割と貧弱でこれは砦も落ちるな、という感じなんだけども、ラストの立派で大きなバリゲード、そしてそこに一列にならぶ登場人物たちの姿。それはもう嗚咽が漏れそうなのをタオルで抑えこんでおりました。

ただ正直、東宝版の舞台ファンには物足りなかったろうなあと思う点も2点。ひとつはアンジョルラスの死に様。いちおう逆さ吊りはやるんですが一瞬で終わってしまう。アレ、日本人が編集したらあそこは絶対にもっとたっぷり見せたはず。そしてもう一点はエポニーヌの扱いが少し薄く感じること。まあ島田歌穂のイメージが染み付いてしまってるのもあるんですが、クレジット順もやや低めだったりして、この映画では圧倒的にファンテーヌ>コゼット>エポニーヌ、の描写なんですよね。舞台版の印象だとエポ>ファンテ>コゼット、なんですが。お国柄なんでしょうかねえ。もっともファンテーヌのアン・ハサウェイが「ガラスの仮面」でいうところの「舞台あらし」的存在だったのも確か。「I dreamed a dream」の印象が強すぎて、その後しばらく映像のテンションが落ちたような気さえしますからね。

バルジャンがヒュー・ジャックマンだと発表された時点で、レミゼファン&ヒューファンの間では「裁判所の場面で胸元はだけて焼印を見せる場面が楽しみ!」という声もあったのですが、映画では残念ながらありませんでしたね(笑)。そのかわり(?)、コゼットの部屋へバルジャンがやってくる場面で、ちょっと胸毛が見える程度に胸元が開いてたりして「エロい! お父さんエロいよ! 血の繋がらない娘の部屋にその格好で来るのはアカン!」とか思ってニヤニヤしたのは私です。ごめんなさい。もともとバルジャンは怪力って設定もあるのだけど、ヒュー・ジャックマンが大木や馬車を持ち上げるシーンを見ると、いつウルヴァリンに変身するかとちょっとドキドキしますね……。まあ彼はハリウッドスターというよりブロードウェイスターという印象なので、歌えるのは当然知ってましたが、期待以上に素晴らしいバルジャンでした。撮影期間中にそうとう体重を増減させたみたいですね。

それにしてもまあ泣き過ぎて瞼は重いわ頭は痛いわ。もうホント舞台ファンはアイメイクしていかないほうがいいと思います。顔がボロボロになります。そしてハンカチよりもタオル持っていったほうがいいと思います、涙の量の問題というより、嗚咽を押し殺すのに必要、という意味で。

映画公式サイト: http://www.lesmiserables-movie.jp