ハイバイ「て」@東京芸術劇場シアターイースト

劇場の中央に舞台、その両面に客席という配置。ある一家で祖母が死亡する前後のエピソードを、前半は次男の視点から、後半は母親の視点から描くという構成。家族構成は認知症の祖母、理不尽な暴力を家族に振るってきた父親、それにじっと耐えるおとなしい母、祖母の介護を手伝う長男、家を出た次男、結婚して家を出た長女、バンドでボーカルをやっている次女の4人兄妹。この7人に加え、長女の夫と次男の友人、葬儀屋などが登場。前半ではずいぶん横暴で思いやりのないように見えた長男が、後半では祖母思いの優しい青年に見えたり、前半では正論を述べているように見えた次男が、後半では「たまにしか帰ってこないのに勝手なことを言う弟」に見えたりといった具合に物語が展開する。

「誰かの死をきっかけに家族や親族が集まって……」みたいな設定の小劇場芝居は今までよく見てきたので、これもそういうタイプの話かなーと思いながら見始めたのだけど、この構成の巧みさには唸らされた。前半と後半で180度舞台セットや人物の配置を変えて展開するところも上手いし、同じ場面のはずなのに前半と後半で微妙にエピソードに食い違いがある所(たとえば亡くなった祖母を棺に収めるところえ起こること、など)が、人の記憶の曖昧さを表現していてものすごく効果的。

これは作者の実話をもとにしているそうで、ここまで冷静にそれぞれの視点を作品として仕上げた筆力にまず驚き。そしてDVの父親を持つ家庭のヒリヒリするような緊張感、子どもたちそれぞれの暴力への抵抗という壮絶な物語の一方で、ものすごく馬鹿馬鹿しくて腹をかかえて笑う場面も。しっちゃかめっちゃかな大げんかをした後で、それでもラストのお葬式の時は家族がひとつになったりもするんだけど。とはいえメデタシメデタシで終わったわけではなく、家族としての確執は消えずに続いていくわけで。見終えた後で自分の家族のことを思ったり、暴力が引き起こす悲惨な状況を思ったり、視点を変えることで見える世界について考えたり、人の記憶と真実の距離について考えたり、見終えた後にいろんなことを考えさせられる舞台でした。

作・演出・出演:岩井秀人
出演:上田遥/永井若葉/平原テツ/青野竜平/奥田洋平佐久間麻由/高橋周平/富川一人/用松亮/小熊ヒデジ/猪股俊明
http://hi-bye.net/2013/02/15/3122

あらすじ(北九州芸術劇場の公演概要より引用)
多摩地区のある一家。粗暴な父、忍耐強く耐える母、父から理不尽な暴力を受けて育った4人の兄弟。経済的に自立した長男、次男、長女は実家を離れ、ばらばらに暮らしている。
離れに住む祖母の認知症が進んだある日、崩壊している家族は長女の提案で一同に会するが、お互いの溝は全く埋まらず、大喧嘩が始まる。大喧嘩のさなか、祖母は息を引き取り、集まることがかえってよくなかったと長男は長女を非難する。火葬場でもまとまりのない人々。家族間コミュニケーションの乖離をハイバイらしい笑いでまとめた、岩井の自伝的作品。
http://www.kitakyushu-performingartscenter.or.jp/event/2013/0611hibye.html