ナイロン100℃「わが闇」@本多劇場

ナイロン100℃の最高傑作とも言われる作品の再演。もう初演は6年前なんですね。すごい面白かったたはずなんだけどなぜか内容忘れちゃったなあなんて思いながら再演を見に行ったら、幕が開いて美術見たらぶわーっと「ああアレだー!」って思い出しました。そう、ケラさんが「これからは、もはや晩年なのだと心して、悔い無きよう、一作一作を、より大切に創っていきたい。本作は『晩年第一作』となる」と書いていたあの作品だ。テーマは「家族」だし、それまでのナイロンの作風からするとずいぶんストレートな直球で来たなあと思ったのだった。

舞台はある一軒家。作家の父親と娘の三姉妹、それを取り巻く人々を描いた群像劇。登場するのは、作家に弟子入りしたまま家のお手伝いのような状態になっている男、父親の愛人、作家の元を訪れてドキュメンタリー映画を撮ろうとする若い監督とその助手、作家になった長女の担当編集者とその妹、とても感じの悪い次女の夫……。三姉妹(犬山イヌコ峯村リエ、坂井真紀)の細やかな心情の機微を、笑いを交えながらも繊細かつ緊張感たっぷりに描いた作品。

初演当時は「ケラさんもこんなにストレートに家族を描くんだなあ」と思ったけれど、その後の「百年の秘密」「ウィルヴィルの三姉妹」なんかを見てると、ああ「わが闇」は一種の転換点だったのだなあと思う。「ウチハソバヤジャナイ」なんかも後から思えば家族を描いた話だったけどあれは完全にナンセンスコメディだったから、あまりテーマが家族って印象はなかったもんなあ。多分この作品から照れずに真正面から「家族」をテーマにするようになったような。どれもすごく好きな作品なんだけど、個人的には「百年の秘密」が甘さと苦さのさじ加減が一番絶妙で好きでした。「わが闇」はラストを割と優しい場面で締めるので、たぶん一般的にはこれが一番人気がある作品だと思うのだけど。

雷雨の音の中で三姉妹が笑いながら踊る場面では「ウィルヴィル〜」で銃ぶっ放しながら三姉妹が笑ってた場面を思い出した。不穏さと笑顔が同居するなんともいえない場面が印象的。きっとケラさんは三姉妹モノのこういう場面が好きなんだろうと思ったり。それにしてもこの「わが闇」における映像の使い方は本当に秀逸。前に見てるはずなのに二度目に見てもやっぱり何箇所か鳥肌が立った。3時間20分を一瞬たりとも飽きさせずに最後まで惹きつけるこの作劇は見事というしかありません。

作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演:犬山イヌコ 峯村リエ みのすけ 三宅弘城 大倉孝二 松永玲子 長田奈麻 廣川三憲 喜安浩平 吉増裕士 皆戸麻衣 岡田義徳 坂井真紀 長谷川朝晴
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http://www.cubeinc.co.jp/stage/info/nylon40th.html