「非常の人 何ぞ非常に 〜奇譚 平賀源内と杉田玄白〜」@パルコ劇場

ざっくり言うと平賀源内(佐々木蔵之介)と杉田玄白岡本健一)の二人の「天才」の友情と青春を描いた物語。ここに男娼の菊千代(小柳友)が絡むことで運命の歯車が大きく回る……といった展開。3人の役は固定で、篠井英介奥田達士のふたりはいくつもの役を演じ分け。前半は源内が通う陰間茶屋が舞台、後半は源内の家が舞台。

ふたりの青春と挫折を断片的に切り取っていく話なのかな、と思ったら、終盤では諸説あるとされる源内の晩年まで描かれていました。源内が大工殺しの罪で投獄されるという説を取り、「かつて賭場でイカサマをしたことを知る大工に脅された菊千代が勢いでその大工を殺してしまい、その罪を自らかぶって捕まった」という物語になっていて「なるほどなー」と。そもそも菊千代が源内の家に転がり込んで来た時、手癖の悪さを発揮してるのになんで追い出さないのか、と思っていたら、源内がかつて女を身ごもらせて捨てた経緯や、その頃からEDになって菊千代の孤高さに共感しつつも抱けずにいたこと、過去に玄白の解体新書出版のために版元に身体を差し出しに行かせようとしたことなんかが伏線になってて、ストンと腑に落ちるような物語になっておりました。

源内は多彩て多忙、華やかに活躍しつつも時代の先を生き過ぎて、「エレキテル」の凄さといった真の才能は周囲には理解されず、心のどこかで常に周囲を見下しているという描かれ方。蔵之介さんはさすが源内の陽気な華の部分をうまく演じていたけれど、この脚本の源内ならもう少し屈折と影と狂気のある役者さんが演じても良かったかもなあと思ったり(特に終盤)。この時代では源内の才能って狂気やインチキと紙一重に見えたわけだから、そういう意味でもう少し危うい雰囲気が欲しかった気もする。蔵さんは(好きだけど)精神的にすごく健全な人間に見えるんだよね。前半の陽気さはとても似合ってるけれど。

一方で玄白は、地味な善人なんだけど愚直なまでにコツコツと努力を重ねてついに目標とするターヘル・アナトミアの翻訳を完成させるという流れ。岡本健一さんが初日を前に髪の毛を全部剃りあげたとニュースサイトで見た時は「岡健のボウズ頭とか誰得なの! 嬉しくない!」とか正直思いましたけどね、ごめんなさい、すごく良かったです。なかなか翻訳が進まないと苦悩するシーンのコミカルなところとかもすごい上手くて面白いし、源内の才能に惚れ込んで敬愛してるけど、でも苦言を言う時はちゃんと言うよってあたりの友情と男気も良い。なんかもう本当に生真面目な善人という雰囲気で、「ずいぶん前にこの人、タイタス・アンドロニカスでエアロン役やってませんでしたっけ……?」と思って震えました。あの時は色気とフェロモンたっぷりの悪人だったのに、もう正反対の別人すぎて……もう……!

まあ大変に男臭い男芝居なわけですが、しかしその一方で腐女子的な腐った視点で見るともう、「公式の燃料投下半端ねえ……」という物語に見えなくもなく。
【以下の感想は完全に腐ってますので閲覧注意】
まあ観劇前から「たいへんにホモホモしい」という評判は聞いていたのですが、「まあ設定そのものが陰間茶屋だしね、男娼でてくるしね、源内は男色家だしね、そらホモホモしくてもしょうがないよね」と油断して見ていたら、中盤でその男娼が焦れたように「今夜こそアンタに抱いてもらう!」とか言い出すもんだから、「まだ抱いてなかったんかーい!」「まさかのプラトニックラブ!」とか思って、その瞬間に劇中では描かれなかったエピソードが、薄い本になって頭の中にバサバサーっと出てくるわけですよ。「人気の男娼である菊千代を側に置きながら一切手を出さない源内」を焦れる菊千代視点で……とか、「菊千代の魅力を充分に理解しつつも過去のトラウマからEDになり勇気が出ない源内」とかね……もう……。しかもその直前には喜びのあまり手を取り合ってキャッキャウフフと転がりまわる源内&玄白という場面もあり(それを菊千代も見てる)、もうこの三角関係でどれだけの薄い本が描けることか! と思ってしまうわけです。どうしてこの作品をもっと腐女子向けの視点で宣伝しなかったのか、そしたらもっとチケットが売れたはずでしょう! などと思ってしまいましたけど、まさかBL時代劇だなんて言えませんもんね、ええ。表向き完全に男による男のための男芝居ですし。

まあそんな腐った感想は置いておくにしても。さすがマキノさんという感じの男芝居で、役者さんたちの達者な演技も堪能できて非常に満足度高い内容でした。

http://www.parco-play.com/web/play/hijoh/
作・演出:マキノノゾミ
出演:佐々木蔵之介 岡本健一 小柳友 奥田達士 篠井英介

あらすじ(公式より転載)
「江戸時代、明和八年。あらゆる才能を持つ平賀源内(佐々木蔵之介)は、長崎からエレキテルを持ち帰り、復元して名を成そうとしていた。
一方その頃、蘭学者杉田玄白岡本健一)は、人体の腑分け(=解剖)を見て驚愕する。そんな玄白に源内は、ドイツ医師が著した学術書オランダ語版「ターヘル・アナトミア」を自分たちの手で翻訳するよう勧める。親友の励ましに胸を熱くして、玄白は仲間と共に翻訳することを決意した。
切磋琢磨する2人の前に現れる菊千代(小柳友)という若い男。彼は、源内が版元たちの催促から隠れるために忍んでいる陰間茶屋に新しく入ってきた陰間(=男娼)だった。源内は菊千代に何を見出したのか、常にそばに置くようになる。そして贔屓にしている人気女形・菊之丞(篠井英介)に頼み、芝居に出させるのだった。
やがて、玄白と中川淳庵奥田達士)は、「ターヘル・アナトミア」の翻訳に成功、名を遂げる。一方、源内は多彩な事業に手を染めるも、どれも今ひとつぱっとせず。満を持してエレキテルを発表するも誰もその原理を理解することは出来ず、一介の見世物として終わってしまった。意気消沈している源内に一旦は離れていた佐吉(=菊千代)が近づいてくる。そんな佐吉に、源内は妙に優しく接するのだった。
気を落としている源内に、玄白以前のように奔走して欲しいと願い、心配をするのだが……。