KUDAN Project「真夜中の弥次さん喜多さん」@こまばアゴラ劇場

 待望の再演です。2002年の初演を見て衝撃を受け、もうそれ以来私の中で好きな芝居ベスト10には確実にランクインしてる作品でした。東京で2004年の再演を見て、2005年には名古屋まで出かけて「百人芝居◎真夜中の弥次さん喜多さん」を見て、その足で弥次さん喜多さんのかわりに伊勢神宮まで行ってお伊勢参りを果たしてくる、というほど入れ込んだ作品でもあります。

※以下、多少ネタバレありますので、これからご覧になる予定の方はご注意下さい。

 舞台は六畳ほどの畳の間。ヤク中の弥次さんと所帯持ちの喜多さんはゲイのカップル。弥次さんのヤク中を治すために喜多さんは女房と別れふたりでお伊勢を目指すけど、道中の宿で雨に降り込められてしまう。すごろくで何度も何度も振り出しに戻ってしまうように、ふたりはなかなか前に進めない……。というお話。基本的に演出はほとんど変えていないとのことで、とりあえず初演を見た時の感想を引用しておきます。

少年王者舘KUDAN Project真夜中の弥次さん喜多さん」@シアターグリーン。これが今年のベスト10にランクインするイキオイで面白かった! あの原作をどう料理するのかと思ったらコレが見事な手腕。基本的に畳&障子の一室で展開するふたりの会話だけなんだけど。所々でフラッシュバック的に部屋全体に投射する映像、奇妙な小道具、壊れたレコードのように何度も繰り返される同じ会話……それぞれが上手く組み合わさって、なんとも言えないトリップ感。なんだか不条理な夢を見ているような、不安定な世界にいる不安感と、まどろみの中の気持ちよさ。そんな心地よい酩酊感が続く舞台に「あぁこのまま何時間でも眺めていたい」と思ったりして。最後のほうでは弥次さん喜多さんを演じるふたりの役者さんの表情だけでなんだか幸せな気分になってしまったなぁ。哲学とナンセンスは紙一重なんだとふと思ったり。結構ちゃんとした舞台美術だったにも関わらず、ラストは屋台崩しで全てのセットを消し去るという荒技も(見てないけど前回のKUDAN Projectもそうだったらしい)。なんだか見事な手品を見た気分になってしまった。ああ、面白かったなぁ。再演してほしいなぁ。

 初めて見た時はまだプロジェクション・マッピングなど見たこともなかった時代なので、壁一面に映し出される映像に鳥肌を立てたりなど、演出的な驚きが随所にあったのですが。さすがに3度目ともなるともうどこで何が来るかわかっているので、演出的なサプライズはなくなりますね。その代わり、不条理芝居、メタ演劇としての構造がやっとはっきり輪郭をもって見えてきた気がしました。今まではサプライズに惑わされて頭のなかで整理のつかなかった部分が、ようやく「ああ、こういう構造だったんだなあ」と認識できたというか。

 演出は変えてないとのことでしたが一点だけ。ラストで舞台セット(壁の障子部分)を一掃してしまうところが、今回は「こうやって片付けてますよー」っていうスタッフの動きを見せていた気がしますね。前はほぼ暗転の中で作業していて、ラストシーンで明かりがつくと「セットが!無い!」って驚いた気がするんですけど。ここに関しては前回のように見えないほうが驚きがあって好きでした。なんで見せちゃったんだろ。

 それと、アフタートークでハイバイの岩井さんも話されてましたが、「うどんの丼がない状態で食べるふりをする場面」→「実際にうどんが届いてからそれを食べる場面」のところも印象が変わりましたね。確かに演出そのものは変わってないと思うんですが、前回はすごい客席が笑ってた気がするのが、今回は少々うすら怖い雰囲気で、不条理感漂う場面になってたような。喜多さんの演技がちょっと変わったのかなという気もするのですが。

 まあ3度目ともなると前との違いばかり気にしてしまいますが、弥次さん喜多さんは(やや歳はとったものの)相変わらずの雰囲気で、なんだかもうそれだけでうれしくなってしまいましたよ。もう、この芝居は見ているだけで幸せ。楽しかった……。



 さて、この日は前述の通りハイバイ岩井秀人さんをゲストに迎えてのアフタートークがありました。ゲストといってもほとんど司会進行みたいな立場になってましたが。覚えてる限り内容をメモしておきますが、録音してたわけではないのでニュアンスなど変わっているかもしれません、ご了承下さい。質問は終演後に質問用紙に記入したものを回収してそれを読み、あまった時間は直接質疑応答となりました。

※以下、さらに演出についてのネタバレありますので未見の方はご注意下さい。

岩井「初演を見ました。すごい影響を受けた。僕あのとき天野さんに話しかけませんでしたっけ。覚えてないですか(笑)。柴くん(=ままごとの柴幸男さん)も影響受けてると思う、「あゆみ」とか」
岩井「(ちゃぶ台の穴をみつけて)あ、ここ穴開いてるんですね……客席からだと全然見えないんですよ。へえー(感心してる)あ、すみません」

質問『タイミングを合わせるのが大変そうですが過去に失敗はありましたか』
岩井「僕が前みたときはツボがぱっと元に戻る場面で戻らなくて、手でさっと直してるのが見えて(笑)あれあの時一回だけだったんですってね。天野さんに言ったら『いやな時に見たね』って。」

質問『うどんは本物の出前ですか』
天野「これは……ボカしておきましょうか。本物っていうことで」
小熊「中国公演の時も現地の店から出前とったんですよ」
天野「うどんというか、小麦粉の麺のやつでね」
小熊「カンペをみながら中国語で注文したんです。何度も聞き返されて、なんとか強引に注文して切った。そしたら来るには来たんだけど、ものすごく量が多くて(笑)全部食べましたけどね。二杯食べなきゃいけないんだけど、すごく時間かけて全部食べきりました」

質問『演出は初演から変えてないのですか』
天野「ほぼ変えてないです。少年王者舘では結構変えるんだけど、この作品は変えないで行こうってことになった」
岩井「うどんを食べるところ、前はもっと大笑いした気がするんですけど、今日見たら怖かった。変えてないんですよね?」
天野「それは岩井さんが変わったということですね(笑)。隣の人の得体の知れないっていう恐怖とか。ハイバイはどうなんですか」
岩井「ハイバイ(の再演)はそのままです。せっかく好きだって言ってもらえてるのを変えてがっかりされたくないので……チキンなんですよ」
天野「今回はスマホが初登場しましたけど、前回までは携帯電話でした。初演の時は(固定電話の)子機だったんですよ。だから、劇場入りすると子機のある電話を手配するところから始まる(笑)。電話を入れてる小道具の箱も、当時の子機のサイズのままになってます」

質問『雨のザーザー言ってるところで放り投げた「ザー」は本物?』
天野「本物です(映像じゃなくて小道具、の意味)」
岩井「なんか『本物』の指す意味がわかんなくなってきますね、この芝居だと(笑)」

質問『好きなお酒は』
寺十「芋焼酎が好きです」
天野「よろしく(笑)」

質問『岩井さんは役者もやってますが、演じるとしたら弥次さん喜多さんのどちらがいいですか』
岩井「(真剣に考えて)えーと、ごめんなさい、小熊さんのほうが役者としてどうのって意味じゃないんですけど、弥次さんのほうがテクニカルな意味で難しい気がして。こんな動き(弥次さんの真似をして)出来ないですから(笑)。喜多さんのほうが簡単って意味ではないんですよ。でも……。あの動きは天野さんがやってみせるんですか」
天野「僕は実際にやってみせるタイプですね。なんとかみたいにっていうような指示は出したことがないです。……どっちがやりたいかって話なのに、真剣に考えてたね(笑)」

質問『劇場の都合で演出を変えた部分などは』
天野「三重文(三重県文化会館小ホール)はここの4倍くらいの会場なんですよ。舞台のセットはそのままなんだけど、天井も高いから、照明から塩梅を取る場面では当然届かないので。バトンごと照明を下ろしてきて取ったり。あと映像の「ザー」の雨は天井から全部写したので、そこは迫力が出たと思う」
岩井「ターザンのところはどうしたんですか」
小熊「あれもできないので、(ふすまを開けるような動作で)こうやって、気分だけ(笑)」


もう少し質疑応答あった気がしますが、覚えてる範囲だけ書き出しました。



さてここからは舞台と関係の無い余談ですが。
終演して出ようとすると、偶然同じ回を見ていた友人に遭遇。彼女は初演のシアターグリーンの時も偶然会場で出会い「いやーすごかったですね! 良かったー!」などと言いながら帰り、「うどん! うどん食べたいー」と言いながら池袋でうどん屋を探した記憶があるのですが。
今回もどちらからともなく「うどん食べます?」と言い出してうどん屋へ。もう、この10年前から同じことループしてる感じが、芝居の内容とあいまっておかしいやら怖いやら……
で、googleマップに「うどん」と入力して出てきた駅近くの店に向かったのですが、この店の店名が「満留賀(マルカ)」。あれ、さっき劇中で出前とる時に電話かけたのここじゃなかった?と思いながら入店。
さすがにメニューに「素うどん」はないものの、でてきたうどんの器が劇中の丼と似てる……もしや……ここが……?
食べ終わってお店の方と少し話したところ、やはりこの店があのうどんの出前を行ったそうで、確かに厨房にいる男性はさっき劇場で見た方でした。このお店は平田オリザさんの行きつけでもあるそうです。
ここから先は完全にネタバレになるのですが、「実際に電話はお店で受けている」「出前も実際に行っている」のは事実(!)だそうです。ただし、事前に打ち合わせはちゃんとしてあるそうで、うどんの量は食べ切りやすいように減らしてあったり(お店で出てくるうどんはなみなみと丼いっぱいに入ってます)、電話の応答も「店名をもう少しはっきり」などの演出がついてるそうですよ。
そんなこんなで「弥次さん喜多さんと同じうどん食べたァァ」「嬉しい〜」などとはしゃぎながら帰ってきました……。なんかもう本当にキモオタですみません……。

http://www.officek.jp/kudan/yazikita.shtml
KUDAN Project真夜中の弥次さん喜多さん』2013
原作:しりあがり寿
脚本・演出:天野天街
出演:小熊ヒデジ&寺十吾
★三重公演:9月21日・22日@三重県文化会館小ホール
★東京公演:9月27日〜10月6日@こまばアゴラ劇場

《日本演劇界の至宝》、《小劇場演劇のひとつの到達点》とまで評された名古屋発・驚愕の二人芝居、2013年秋、三重(初)・東京(約10年振り)に上陸!

KUDAN Projectは発足以来、国内はもとより、アジア各都市での上演を続けてまいりました。今回上演する『真夜中の弥次さん喜多さん』は、2002年名古屋初演、その後、東京、大阪、北九州、北京、ハルピン、重慶、マニラ、クアラルンプールなどで上演し、まったく新しい演劇体験として国内外で絶賛されました。2007年には新作製作のため一旦最終公演を行いましたが、数多くの熱烈なる再演希望の声に応え、2011年、名古屋で再始動、2013年秋には初の三重公演と、約10年振りの東京公演を行います。