「鉈切り丸」@東急シアターオーブ

脚本の青木豪さんと演出のいのうえひでのりさんのコンビももう「IZO」「港町純情オセロ」「斷食」「断色」と来て5作目になるのかな。「IZO」の頃はまだ手探り感もあったような気がしますが、もうすっかり違和感なくなって来たような。「鉈切り丸」はリチャード三世を源平合戦に置き換えて、ということだったので「えーでもまったく同じ構造じゃないけど一体どうするんだろう」と思ってたんですが、ああなるほどそう変えてきたか! と唸らされました。この展開で行くと頼朝死ぬんだよなどうすんだ、と思ったんですが最終的に「吾妻鏡」を書き換えて源範頼の名を残さない、という展開に。「港町純情オセロ」の時もそうでしたが「ああ、なるほど。ここをこう置き換えるのか!」という上手さがありますね。パンフレット読むと青木豪さんは横須賀の追浜出身でもともとこの源範頼って人のエピソードを知っていたということですが、ほんとそんな縁でもないと出てこない人物だろうなあ。



しかしまあ正直なところ前半はあまり気分が乗り切らず、そのせいで「千葉哲也さんとか渡辺いっけいさんとか秋山菜津子さんとか麻実れいさんとか山内圭哉さんとか、美味しい役者さんいっぱいいるのに脇役で贅沢な使い方だなあもうちょっとたっぷり見たいよ」「これしか出番無いんだったらもうちょっと格下の役者さんでも別に問題ないんじゃないの」「こんな無駄に豪華キャストにするからチケット代があんなに高くなっちゃうんだよ……」と、ぶつぶつぶつぶつ心のなかでつぶやいておりました。だってもう本当にもったいないお化けが出るもったいなさなんだもの……。リチャード三世を下敷きにしてるからまあしょうがないんだけれども、それを抜きにしてストーリーだけ考えると建礼門院とか別にいなくてもいいんじゃない、とか、ベテラン女優枠の麻実れいさんと若村麻由美さんはバランス的にどっちかひとりでも良かったんじゃない、とか、だいたい千葉哲也さん、弁慶だから見せ場があるとはいえアレだけなら別にアクションクラブの人でもよかろうよ、とか、もう、ブツブツブツブツと。あと、ベテランがうますぎてやっぱり成海璃子ちゃんの巴午前とか須賀健太くんの源義経とかがちょっこし弱く見えるのもまあ、仕方ない。舞台経験浅くていきなりシアターオーブってのも大変だよなあ。マイクがあるとはいえ。

それでも終盤、範頼が巴を殴る蹴るあたりで客席をドン引きさせるあたりからはだいぶテンション上がって、ラストの大立ち回り、そしていっけいさんの締めのセリフまでの一連のシーンはもう本当に「ああシェイクスピアだなあ! これぞシェイクスピアだよ!」という気持ちになり、一気にのめり込みました。妊婦の腹を殴る蹴るで傷めつけて殺す残忍さとか、もうジャニーズなのによくもまあこんな汚れ役やったなと思いましたし(まあ三池崇史監督の「十三人の刺客」で稲垣吾郎がやった役に比べればカワイイもんですが)、なんといってもラストの本水使った派手な立ち回りは見事だった。やっぱりリチャード三世は散り際が見どころですなあ。「馬をくれ」の台詞が「翼をくれ」に書き換えてあるというのはあちこちで見かけて知ってたのですが、そこまでの伏線を知った上でこの「翼をくれ」を聞くとその効果にまた唸りますな……! そしてすっかりテンション上がったところへトドメを刺すように突き刺さる渡辺いっけいさんのいい声爆弾、そしていかにもシェイクスピアらしい台詞。ああ、出番が少ないとか文句言ってごめんなさい、いっけいさんはこのためのキャスティングだった! ここはいい声の上手い人じゃないとダメだった! と、ブツブツ文句いってた自分の頭を押さえつけて土下座させたい気分でありました。

主役の森田剛くん、まあ、「荒神」「IZO」と見てるし「金閣寺」は未見だけど評判良かったしで、もう若手というよりは完全に中堅舞台役者くらいだと思ってるので。今更「ジャニタレなのに上手い!」とかも思わないんですけれども(ていうかもう最近はジャニーズの役者さんは普通にうますぎて、ある程度演技キャリアのあるジャニタレさんはむしろ信頼できるブランドになりつつある)。みんな書いてるけどあれだけ身体に負荷をかけた状態でキレ良く動くっていうのが凄いなあと思いましたよね。びっこ弾いて肩落としてるのに、その状態でちゃんと立ちまわるって言うのがほんとすげえなあと。ただ今回は声がしゃがれ声風にちょっと作っていたのが、やや耳障り感がありました。普通の声ならもっと通るのになあ。まあ役作りでわざとやってるんだろうけどちょっともったいないなあ、と思いました。

そしてやっぱり上手い上手いとは思っていたけどこの人たちほんと舞台では敵なしだな、と思った生瀬勝久さんと若村麻由美さん。特に生瀬さんが舞台にいる場面での安心感ときたら。「生瀬勝久渡辺いっけい山内圭哉」の三角フォーメーションとか小劇場ファン的にはとっても俺得すぎて「もう全編この三人でやってくださってもいいんですよ?」くらいの気持ちになる。みんな声の通りがいいし、耳が幸せ。そして今回の「一見三枚目のお茶目さんだけどバカじゃない」っていう頼朝像ってかなり難しかったんじゃないかと思うんだけど、もう生瀬さんの上手いこと上手いこと。そりゃあもう20年近く前から見てるから生瀬さんが上手いってことなんて百も承知なんだけど、知ってたけど、それでもあの緩急自在な演技には、もう、本当に「恐れいりました」とひれ伏したくなるレベル。基本三枚目の軽い役なのにシリアスになる瞬間の切り替えとか、凄かった。そして若村麻由美さんの北条政子、イメージどおりで素晴らしい。声も見た目もキリリとして美しくて。あとさっき「話にいらなくね?」みたいなことは書いちゃったけども建礼門院麻実れいさん、いや、もう、人外感たっぷりだわ衣裳さばき見事だわで本当に素敵だった。着慣れてる人はほんと衣裳の隅々まで綺麗に動かすよね……! 

まあそんなこんなでぶつくさぶつくさ言いながらも最終的にラストシーンですべて持ってかれたので、終わりよければ全てよし、な観劇でありました。



さてここからはちょっと余談。青木豪さんが追浜の地名の由来で源範頼の話を知った、というのをちょうど横須賀をドライブ中に思い出したので、横須賀出身の夫にその話をしたところ「ああ、そういう話は聞いたことがある」とのこと。「武士が追われてきた浜だから」というところまでは覚えてたようだけど、源氏だか平氏だかまではうろ覚えだったよう。もしかしたら横須賀市ではこのエピソード、結構有名だったりするんでしょうかね。

森田 剛(主演)、いのうえひでのり(演出)、青木豪(脚本)の強力タッグで創り上げる一大スペクタクル。豪華出演陣が織り成す華麗なる陰謀と戦乱絵巻をお楽しみください。
「リチャード三世」を鎌倉時代に置き換え、源頼朝の弟・源範頼のミステリアスなキャラクターにスポットを当てた新作劇。
鉈切り丸が、剣術と権謀術数で、天下穫りに動き出す。その野望の果てには、いったい何が待っているのか!?
“美しく産まれた者に取っちゃ 地獄の有様も、醜く産まれた者にとっちゃ、極楽の蓮池。“
2013年10月(大阪)、11月(東京)にて上演!
この秋、血も沸き立つ!

公演日程:2013年11月8日 (金) 〜2013年11月30日 (土)
脚本:青木豪
演出:いのうえひでのり
音楽:岩代太郎
出演:森田剛成海璃子秋山菜津子渡辺いっけい千葉哲也山内圭哉木村了須賀健太、宮地雅子/麻実れい若村麻由美生瀬勝久 他

【あらすじ】(公式サイトより引用)
時は平安、近江国
鳶の鳴き声が響く中、源範頼(森田剛)は、平家方木曾義仲の息の根を止めようとしている。その姿醜く、顔には痣、背中に瘤。さらには片足を引きずり、馬にさえ乗れない。幼名は鉈切り丸(まる)。へその緒を鉈で切られたことから由来する。幼少の頃から鉈を振り回して剣術を覚え、その姿からは想像及びもつかないほど見事な剣さばきである。

義仲の妻・巴御前成海璃子)は、目の前で範頼に夫を斬られるが、夫への忠誠を尽さんと気丈に振舞う巴に、心奪われる範頼。剣以上に長けたその口で、足早に逃げる巴の背中に豪語した。「どこまでも追ってやる。この先どこへ逃げようと、この国は鉈切りの支配下になる」

時は経ち、所変わって鎌倉。
範頼の兄・源頼朝生瀬勝久)は、弟・源義経(須賀健太)と家臣・梶原景時渡辺いっけい)、和田義盛木村了)に壇ノ浦の戦いで平家を滅亡させた様子を訊ねている。
安徳天皇の母・建礼門院(麻美れい)の生き霊に取り憑かれ、一切を語ろうとしない義経の身を案じて範頼は、頼朝と頼朝の妻・北条政子(若村麻由美)に、義経の京都行きを提案。これは義経の兄への忠義を試すための策であることを耳打ちする。頼朝と政子は、この一件を機に範頼に絶大なる信頼を置くようになる。範頼の腹に一物があるのも知らずに・・・。

京都にて朝廷から頼朝よりも先に官位を授かった義経とその一行は、鎌倉へ帰る途中に女郎屋へ立ち寄る。おかみ(宮地雅子)から義経の忠臣・武蔵坊弁慶千葉哲也)にあてがわれたのは、逃げ延びた巴御前と、範頼の母・イト(秋山菜津子)だった。
イトから範頼出生の秘密を聞いた巴は、仇討ちの策を練っていた。そこへ、義経に謀反の濡れ衣を着せて討とうとやってきた範頼。送り込んでいた密使が討ち取られたのを知り、義経に寝返るふりをする。

兄・頼朝と弟・義経を陥れて、天下を獲りたい。たとえ血まみれ地獄になろうとも、この世を言いなりにしたい。すべてを手に入れるため、範頼=鉈切り丸は悪の限りを楽しむと決めた。果たして鉈切り丸は望み通り天下を手中に治め、大江広元山内圭哉)の記す歴史書吾妻鏡」にその名を残すことができるのか......。それとも......。

巨悪を愛して生きてきた鉈切り丸、諸悪の根源は血か縁か運命か動乱の世か。
シェイクスピア作品登場人物史上の最悪党・リチャード三世に、鎌倉期を写した『吾妻鏡』に記されることなく、その存在を抹殺された源範頼を重ねた、残忍残虐極悪非道の物語。