マクベス@シアターコクーン

色々と独自の解釈で工夫のこらされた演出のマクベス。セリフは特に脚色せずだいたい日本語訳そのままなのかな。正直なところ感動したとか興奮したとかまでは至らなかったのですが、その創意工夫はとても興味深く、飽きずに観ることはできました。色々と面白い試みは観られたので、長塚さんの演出するシェイクスピア作品の次回作が楽しみだなあ、と思わせる内容でした。


装置はシアターコクーンを四方囲みのセンターステージ形式で、六角形のステージ。舞台横2箇所に蛇口が立ってる程度で一見ほぼ何もないシンプルなステージながら、ステージ下にも通路がある二段構えだったり、舞台横の床板を開けて地下に退場していったり、ステージ上の床も2箇所地下に降りる階段があったりなど、ステージを城に見たてるための凝ったつくり。小道具はほぼ傘のみで、主に剣に見立てて使ってる。衣裳はほぼ現代らしいもので、トレンチコートやら革ジャンやら。マクベス婦人のドレス以外はこれといって特徴のあるものではなく割と無個性で、その格好のまま渋谷の街を歩いていても目立つようなものではない。

さて冒頭は市川しんぺーさん&福田転球さんが前説。客席に取り付けられた緑のビニール傘について「このタイミングで用意して、ここで開いてね」と説明。ああなるほど、これがバーナムの森で登場するのだな、と察しがつく。その前説のふたりに、女性のやたらいい声で客席からヤジが飛ぶ。客席に座っていた三人の魔女がそこから現れて芝居がスタート、という流れ。この三人の魔女が客席に座ると「……消えた! どこへ行った!?」ってなるのがちょっとおもしろい。

冒険したなあと思った演出は大きく2点。前述の前説のとおり、「バーナムの森」は客席が一斉に緑のビニール傘を開いての観客参加型演出。友人が「バーナムの森が神宮球場にしか見えない」と言っててああ上手いこと言うな!と思ったのですが、まさに神宮球場のヤクルト応援状態みたいになっていて。客席が若干クスクスざわざわしながら傘を開いてるので、クライマックスの緊迫感やスピード感が削がれるのは否めないところ。

もう一点はラストシーン。(もう舞台終わったので完全にネタバレ書きますが)マクベスの首が落とされた後、客席の後ろから巨大な「マクベスの首」が登場して、運動会の大玉転がしのように客席の上を転がしていくという演出。これもまあ試みとしては面白いけど悪趣味といえば悪趣味で、賛否両論だろうなあというところ。舞台上では死んだマクベスがなんとも言えない表情で、自分を追い詰めた観客を見回しながら溶暗、という幕切れでした。

マクベスを「王」としてではなく「小者感あふれるおっさん」として演出するという意図は上手いなあと思ったし、堤さんはそれを明確な輪郭で演じていると思いました。これは好き。ただ前述の冒険的な演出が成功していたかどうかはちょっと微妙かなあ、というところ。観客たちがマクベスを破滅に追い込んだ、という演出意図は伝わるんだけども、ねえ。

もう一点、マクベス夫人の常盤貴子さんがどうにもこうにも……他の風間杜夫さんや三田和代さんといった大ベテラン勢に比べるとセリフ回しが弱くて。特に声の良すぎる横田栄司さんや池谷のぶえさんと比べちゃうと物足りない。いや、キレイなのはわかるし華もある、でも2階席から見ていると役者の評価点ってもう顔の造りじゃないんですよ、声と立ち姿なんですよ。常磐さんの場面の直後に池谷さん出てきちゃうと、もう、「マクベス夫人役、池谷さんと交換して下さい……!」って本気で思ってしまったり。そして常磐さんが演出家の長塚さんの配偶者であることを考えると、なんかこう「興行的な話題作りなんだろうけどなー」「嫁にはあんまり厳しくダメ出しできないのかなー」とか色々ゲスな裏事情を想像してしまって、なんとも言えない気分になってしまうんですよね……本人たちに罪はない(多分)と思うんだけど。

最後に、「鉈切り丸」のパンフレットで長塚さんといのうえひでのりさんと青木豪さんの鼎談があり、ここでマクベスの演出について色々語っているのですが、ちょっと引用。これを読むと今回の演出意図が腑に落ちるかと思います。

長塚:僕がイメージするマクベスはおっさんですね。堤(真一)さんにお願いしてるんですけど。
青木:会社で言うと課長止まりだと自分で思っていた人が、突然「社長になれるよ」と吹きこまれた感じですよね。
長塚:そうそう!
いのうえ:中間管理職で「俺意外とイケてるのに、周りの評価がイマイチ低いよね」と自覚している人だよね、マクベス(笑)。
長塚:そういう匂いが出てくると面白いですね。(中略)僕は以前から「マクベスと魔女たち」というキャラクターや関係性が好きだったのと、もうひとつ、「誰がマクベスを陥れたのか」というところに強く興味をもっていたんです。もちろん、引き金は魔女の言葉だけれど、その結果落ちていくマクベスを見たいと望んだのは観客で、「魔女と観客の共犯関係」みたいなこおを舞台でつくれるのではないか、みたいな面倒なことを帰国直後になんとなく考えていたりはした。

(2013年「鉈切り丸」パンフレットの鼎談より一部引用)

【公演概要】

快進撃を続ける長塚圭史。5月にシアターコクーンで書下ろし新作『あかいくらやみ〜天狗党幻譚〜』を上演。多層的で重厚な戯曲。俳優の魅力を余すところなく発揮した演出が光り、大きな話題となりました。13年の締めくくりとして、最大の話題作がついに登場!!演劇ファンが待ち望んだ、シェイクスピアへの初挑戦!その作品は…四大悲劇のなかでも、傑作の呼び声が高い「マクベス」!!
タイトルロールには、俳優としての円熟期を迎えながらもその評価に安住せず挑戦を続ける堤真一!!長塚圭史とは待望の初顔合わせとなります。マクベスを翻弄する毒婦として描かれることが多いマクベス夫人ですが今回は<マクベスの欲望が伝染した被害者でもある>として描かれます。クールな美貌と共に、近年、様々な役柄でその豊かな感性を発露している常盤貴子が挑みます!その圧倒的な存在感と色気で客席を虜にする名優、風間杜夫!!演出家としてのみならず俳優としても得難い個性を発揮する白井晃!!舞台に奥行きを与えるベテラン中嶋しゅう!また、小松和重横田栄司市川しんぺー池谷のぶえ玉置孝匡福田転球 等、心強い面々が参加!そして、キーマンともいえる魔女たちには、日本を代表する舞台女優、三田和代!映画での活躍も目覚ましい江口のりこ!毒のあるユーモアが魅力の平田敦子が決定!!異彩かつ刺激的なキャストたちが観客と共犯関係を結び、祝祭的な「マクベス」が誕生します!ご期待ください!!

作:W・シェイクスピア
翻訳:松岡和子
演出:長塚圭史
出演:堤真一常盤貴子白井晃小松和重江口のりこ横田栄司市川しんぺー池谷のぶえ平田敦子玉置孝匡福田転球、斉藤直樹、六本木康弘、縄田雄哉、松浦俊秀、井上象策、伊藤総、菊地雄人、山下禎啓、中嶋しゅう三田和代風間杜夫
http://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/13_macbeth.html