ナショナル・シアター・ライブ「フランケンシュタイン」

「英国ロイヤル・ナショナル・シアターで上演された舞台を、最新技術によりデジタル映像化し、世界の映画館で上映する「ナショナル・シアター・ライヴ」の第1弾。恐怖小説の古典的名作を、ダニー・ボイル監督が演出。天才博士・フランケンシュタインと彼によって生み出された醜い怪物の2役を、ベネディクト・カンバーバッチジョニー・リー・ミラーが日替わりで演じた話題作。 」(チケットぴあの解説より引用)

ということでこれはロンドンの舞台を映画館で観ることのできる試みの第一弾とのこと。こちらはTOHOシネマズ系列で上映されているけれど、一方イオンシネマ系列では「シアタスカルチャー」なる試みもあり、つい先日RSCの「リチャード2世」が上映されてました。前から松竹のMETライブビューイングや新感線のゲキシネなんかもありましたが、本場の舞台映像を映画館で気軽に見られるというのは本当にありがたいこと。どんどん話題作をかけてもらえると嬉しいですね。


で、今回のはメアリー・シェリー原作、ニック・ディアー脚本、ダニー・ボイル演出で2011年1月に上演された「フランケンシュタイン」を上映。おなじみ「SHERLOCK」のベネディクト・カンバーバッチと、「エレメンタリー」のジョニー・リー・ミラーという人気ドラマのホームズ役が、「フランケンシュタイン博士」と「怪物(creature)」を役替りで交互に演じるという話題作。ちなみに音楽はアンダーワールドが手がけてるとのこと。日本では去年東山紀之坂本昌行が役替りW主演、鈴木裕美演出で上演されておりました(こちらの舞台は未見)。

オープニングは人の死体から作られた「creature」が覚醒するところから。よくコントでやる「産まれたての子鹿」状態から立ち上がったり、見慣れぬモノに怯えたり、草を食べたり。なんか既視感あると思ったらあれだ、「ガラスの仮面」の「狼少女」だ。人間離れした生き物を役者が演じるとこのタイプの演技になるのか。どこへ行っても気味悪がられたcreatureは、彼の姿を怖がらない盲目の老人と出会うことで、初めて優しい言葉をかけられ、人間らしさと知識を学んでいく。1年かけてようやく人間らしくなってきたものの、老人の息子夫婦はcreatureの姿を見て彼を追い払う。絶望したcreatureは家に火を付けて3人を殺害。そしてcreatureはフランケンシュタイン博士の日記(最初に覚醒した時に着たマントの中にあったもの)の情報をたよりに博士の元へ向かう。博士の幼い弟を殺害して博士をおびき出し、彼に自分の妻を作るように要求する。それはどこへ行っても受け入れられない彼がたったひとつ望んだことだった。もうひとり自分がいればさみしくない、妻さえいればどこかへ姿を消して人間に危害を加えることなく静かに暮らす、と言う。博士は婚約者を残して家を離れ、若い女性の死体を手配して同じように女性体のcreatureを作るが、完全に覚醒する前にそれを破壊してしまい、creatureは絶望と激しい怒りを感じる。博士は家に帰り婚約者と結婚するが、その初夜の寝室でcreatureは花嫁を犯して殺す。creatureを追う博士。そして地の果ての北極圏で、creatureを追う博士は雪の中に倒れるのだった……

企画そのもので十分面白そうと期待させる内容だったけど、期待通り見応えのある作品でした。ダニー・ボイルの演出はところどころロンドン・オリンピックの開会式を連想させたりして。美術も衣裳も素敵。好み。特に前半の機関車っぽいスチームパンク的な衣裳と演出、大好き! あと天井のオブジェのような電球の照明もきれい。冒頭、creatureの前衛舞踏シーンが長くて「これがずっと続いたらどうしよう」と一瞬不安になったけど、言葉を覚えてからはスピーディに話も転がって飽きずに観ていられました。創造主と被造物のパワーバランスとかお互いへの愛憎とか、一筋縄ではいかない関係性をスリリングに描いていて色々と考えさせられました。

映像はまあ舞台収録だからこんなもんかなーとは思うんだけど、天井カメラからの映像を多用しているのがちょっと気になりました。客席から見えない角度や細かい表情を見られるというのは確かに舞台映像の魅力ではあるのだけれど、「物理的に客席からは見えない角度」からの映像が唐突に出てくると、舞台上の人物の位置関係を把握するのに一瞬戸惑ってしまうというか、ついつい「客席から見た位置関係、映像」に脳内変換してしまうので、ちょっと無駄に疲れるというか。そういえば日本の舞台映像で今までそういう違和感を感じたことはなかったけど、基本カメラは客席やそれに準ずる位置に設置されていたのだなあと思ったり。

今回は博士=ベネディクト・カンバーバッチ、creature=ジョニー・リー・ミラー版の上映だったのだけど、どちらもハマり役だと感じました。逆になるとどうなるのか全く想像がつかないような……まあ博士役は人間だからまだいいけど、ベネさんがあの醜く気持ち悪い怪物をやるのかと思うと……いや、役者的に美味しいのは圧倒的にcreature役でしょうけどもね。こっちのほうが色々解釈できてしどころが多そう。まあ来週もできれば観に行きたいと思ってますので、後で比較した感想は追記したいと思います。

あと博士は白人なのに父親と弟が黒人、というのが若干戸惑うというか。遺伝的にこれはアリなのか? あるいは博士だけ連れ子か何かか? とちょっと物語の本筋と関係ないところでちょっといらぬ深読みをしてしまう。これは上演当時もいろいろ言われてたらしいと見かけたけど、何か演出的な意図があるものだったのかな(後で見た別バージョンでは、弟は白人キャストになっていたので、そこまで深い意味はなかったようだけれど)。

まあ作品に対しては見応えがあって満足はしたけれど、字幕はあれで良かったのかな、とちょっと疑問が。書体も見づらいし、「Heart Beat」の訳は「動脈」じゃなくて「鼓動」とかじゃなかろうか……英語わかんないからまあ概ね意味が取れればそれで十分ありがたいのだけど、他にも「内蔵/内臓」「そしてら/そしたら」といったケアレスミス的な誤植もあり、もうちょっときっちりチェックして欲しかったなあと。

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2014-02-22【追記】

翌週、逆バージョン見てきました。今回は【博士=ジョニー・リー・ミラー、creature=ベネディクト・カンバーバッチの配役です。あと子役の子が黒人の子から白人の子に変わってましたね。子役も3人くらいいて日替りだったのかな。

やはりというか想像通りというか、前回の方がどちらの役もしっくりハマってた感じ。両バージョン見て比較するとよく分かります。ベネさんのcreatureはいささか線が細く、凶暴性に欠ける感じ。「不気味」「気持ち悪い」という雰囲気は確かにあるのだけど、ジョニーの怪物ほど「本能的な恐怖」や「暴力性」は感じない。ジョニーの方がガタイが良いからかな。ベネは裸だとそんなに痩せてるわけでもないし普通に中肉中背なんだけど、顔が細いせいか服を着てしまうとやたら細く見えてしまう。終盤、婚約者のエリザベスを犯して殺す場面も、ジョニーは「抑えられない怒りと衝動のままに勢いでやっちゃった」って感じなんだけど、ベネは「エリザベスには申し訳ないと思うけど、博士に復讐するためにはやらざるをえない。ごめんね」っていう印象。

博士の方も、ベネのほうがマッドサイエンティストぶりが板についてる感じなんだよなあ。ベネはいかにも「女とか恋愛とかマジ興味ない、そんなことより人間の死体を縫い合わせて人造人間の研究したーい!」っていう性格に説得力があるけど、ジョニーはそんな研究に執着するよりは婚約者とイチャコラしてるほうが好きそうなリア充マッチョなイメージ。あんまり変人ぽくないので、全編を通して博士の印象が薄い感じでした。なんていうか、ふたりがもしアメリカの高校生だったとしたら、ジョニーはアメフト部でチアの子抱いてて、ベネはプロムとか一切興味ないギーグなんだよね……。

とはいえ、ラストシーンに限ってはなぜか今回の方がしっくりきましたね。それはたぶんベネのほうがジョニーよりIQ高そうな雰囲気だから(おい)だと思うんだけど、creatureの知性が人間を追い越して博士との関係性が完全に逆転した、というのが視覚的に納得できたというか。「父が息子になり 主人が奴隷になる」っていうcreatureのセリフがあったと思うんだけど、これが前回は抽象的な響きだったのが、今回はストンと実態を伴って腑に落ちた印象でした。

それと、博士の「どこまでも追いかけるぞ お前が私の生きがいだ」っていう意味合いのセリフがあったと思うんだけど、これもジョニー博士は本当にどこまでも追いかけて行きそうなくらい生気に満ちたセリフに聞こえたんだけど、ベネ博士は今にも死にそうでとても最後まで追いかけられなさそうな印象。最後ソリを引きながらふたりで消えていくラストの演出は同じなんだけど、前回が「ベネ博士はこの後まもなく亡くなって、ジョニー怪物は本当に孤独になったのでした」なラストだとしたら、今回は「ジョニー博士はこうしてベネ怪物の背中を追い、ふたりは永遠に追いかけっこをしたのでした」なラストに見えました。(※個人の感想です)

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National Theatre Live
National Theatre Live : Frankenstein
National TheatreのFrankensteinパンフレット?(英語版。PDF)