「もっと泣いてよフラッパー」@シアターコクーン

1977年初演作品で92年以来22年ぶりの再演、というもはや伝説的な作品。オンシアター自由劇場といえば「上海バンスキング」が有名ですが、それと同じくらい人気の演目みたいですね。もうなにせ私が芝居を見始める前の時代の作品なので、キャストは大幅入替とはいえこうして観ることができるのはありがたいことです。

舞台の設定は1920年代、禁酒法が制定されている、シカゴという名の架空の街。ギャングの「黒手組」と「銀色ファミリー」が抗争を繰り広げている。夢を抱いて田舎から出てきた踊り子トランク・ジル(松たか子)と八百長ボクサー(大東駿介)の恋、シカゴタイムスの新聞記者(石丸幹二)の婚約者フラポー(鈴木蘭々)に想いをよせる黒手組の旦那アスピリン松尾スズキ)、踊り子のお天気サラ(秋山菜津子)に惚れ込んで国を捨てたコミ帝国の皇太子(片岡亀蔵)、青い煙のキリー(踊り子)に疎まれながらもつきまとってついにはその心を掴む不器用なギャング……といった人々の群像劇が、生演奏と歌で綴られている。

見る前からちらほらと賛否両論の感想は見かけていたのでなんとなく内容は察していたのですが。先に観た方から「レビューみたいなものですよ」と聞いてそのつもりで臨んだので楽しく観ることができました。うん、これは確かにレビューだと思って観ると本筋にあまり関係無い場面でも楽しくみることができるけど、芝居だと思ってストーリーを追おうとすると「この場面、必要?」と思える場面も少なからずあるような。シアターコクーンの座席環境とはいえ3時間半近い上演時間はさすがに長く、疲れた人の気持ちもちょっとわかるような気がしました……。

トランク・ジルの松たか子さんはさすがに上手いしかわいい。ちょっと可愛らしく作った声とやや浮世離れした雰囲気の役作りは、たぶんオリジナルキャストの吉田日出子さんを意識したものなんだろうな。ただどうしても頼りなげな雰囲気よりは生命力の強さが勝ってしまう気が。終盤の八百長ボクサーとの逃避行が失敗した後の場面あたりは本来もっと可哀想で切ない場面だったんじゃないかと思うんですよね……タバコを加えて男たちにライターを差し出されて「……火はいいの」と答えてボクサーの残したライターで火を付けるあのラスト、きっとものすごい泣ける場面なんじゃないかと思うんだけど。でも、松さんは男なんかいなくてもひとりでたくましく生きていきそうな雰囲気で。「笑い方の汚い八百長ボクサーなんかよりあなたならもっといい男いるよ!」「ていうかあんな男と駆け落ちするくらいなら一人のほうがきっと幸せだよ?」みたいな気持ちになってしまう。物語のセオリーとしては「田舎から出てきた踊り子」はもうちょっとお店の先輩のやっかみとか嫌がらせとかで一回挫折しがちなんだけど(←バーレスクの見過ぎか)、ジルはサラやキリーたちともうまくやってるから男に逃げる必要無さそうなんだもんなあ、現実から逃げる理由が希薄というか。踊り子たちのそれぞれの恋が成就したかと思った瞬間にそれらは儚く消えてしまい、またクラブ「ラ・リベルテ」での退廃的な日々に戻ってくる……という展開はちょっと切ないんだけど、でも今回の女優さんたちはみんなひとりで生きていけそうな人たちばかり。もっと「男がいないと生きていけない」っていう依存的な雰囲気を持った女優さんなら切なさが増したんだけども。まあしかし、コレであの「上海バンスキング」も世代交代して再演という可能性がちょっと高まってきたのかな。今回の松たか子さんの役作りはそういう布石なんだろうなとちょっと思いました。

松尾スズキさんはさすがというかなんというか、可愛らしくも見事な怪演でものすごいインパクトを残してくれた。あの動きは他の人にはできないもんなあ。勿体ないのは石丸幹二さん、せっかく上手いんだからもう少し歌って! もっと歌を! という気分になる。多くの場面で歌よりサックスを担当しているので、それはそれでもちろん見どころではあるのだけど、もう少し前面に出て欲しかった。まあ下衆い新聞記者を楽しそうに演じてはいたけれど。

串田さんらしい美術や生演奏、歌の場面の多い音楽劇で楽しく観ることができましたが、まあでもやっぱりちょっと長かったかな。もう少しテンポよく3時間でまとまってたら「もう一回!」って思えたんだけど。

http://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/14_flapper/index.html

生まれ変わるフラッパー!串田和美の傑作音楽劇がついに待望のカムバック!
松たか子松尾スズキ秋山菜津子、りょう、大東駿介片岡亀蔵石丸幹二驚きの豪華キャストが集結。

本作は、串田和美が1977年に書いたオリジナル戯曲で、あの「上海バンスキング」よりも前にオンシアター自由劇場が初めて本格的に取り組んだ音楽劇であり、「上海バンスキング」とともに劇団の代表的な人気演目としてシアターコクーンでも90年、91年、92年と3年連続で上演されてきました。1920年代の空想のシカゴで繰り広げられる、音楽、頽廃の香りが漂うフラッパー達の蠱惑的な唄と踊り、夢のように展開していく色鮮やかな場面、そしてほのかに苦い後味・・・。
クラブの踊り子、落ち目のギャング、八百長ボクサー、異国の皇太子らそれぞれの恋物語をキャバレーショウのように散りばめた舞台は、どこを切り取っても演劇の楽しさ、表現の可能性を追求し続ける串田演出の魅力があふれる逸品です。
今回の公演では、松たか子松尾スズキ秋山菜津子、りょう、大東駿介鈴木蘭々太田緑ロランス串田和美片岡亀蔵石丸幹二といった豪華かつ異色のキャストが揃います。 さらにシアターコクーンの串田演出には欠かせない芸達者な面々やフレッシュなキャストを加えた顔触れが、同じ舞台上で演奏し歌い踊り、さらには何役かを兼ねて登場する・・・。なんとも贅沢な、楽しみが詰まった舞台の誕生です。
そして本作の要でもあるサウンドを握るのが、音楽監督・編曲を担当するダージリン。ギタリストの佐橋佳幸マルチプレイヤーDr.kyOnの強力ユニットが、よりエンターテインメント性の高い世界を作り出します。 再演を望む声が絶えなかったこの伝説的な作品が、22年ぶりに奇跡のカムバックです!