ねずみの三銃士「万獣こわい」@PARCO劇場

古田新太生瀬勝久池田成志という舞台巧者三人のユニット「ねずみの三銃士」の新作。事前情報として「えげつなくて笑える話」 とか「胸クソ悪いお芝居」といった記事は見かけていたので、まあイヤ〜な感じのお話なんだろうなとは思ってましたけれども、予想以上に嫌ーな話でしたね……ギャグが織り込まれてるのであまり社会派な印象はないけれど、あの刑事事件を扱ったある意味すごく社会派な物語です。まだ全国ツアーが6月まで続くので、これからご覧になるかたはあまりこの先を読まずに先入観無しで観たほうがいいかなと思います。以下、ネタバレしますね。

あらすじ。舞台は古い喫茶店。脱サラしたマスター(生瀬勝久)とその妻・ヨウコ(小池栄子)は居抜きでその店を買い取り、カフェとして開店しようとしていた。ヨウコは社内不倫でマスターとつきあって略奪婚、マスターは別れた妻と娘に養育費を払い続けていたが、その金は別れた妻の弟・馬場(小松和重)から借りるという有り様だった。開店前日、制服の少女・トキヨ(夏帆)が店に助けを求めて駆け込んできた。8年間にわたって近所のマンションでヤマザキという男に監禁されていたという。毎年ハロウィンの夜に家族がひとりずつ殺されてきたというトキヨは、最後のひとりとなりハロウィン前夜に逃げ出してきたのだ。
数年後、喫茶店には勝手に電源を使う常連客のノロ池田成志)が入り浸っていた。開店の頃は仲睦まじい様子だったマスターとヨウコも、すっかり冷えきっているようだったが、それでも子どもができないことに焦るヨウコは排卵日にマスターとのセックスを要求していた。ある日、店にすっかり成長しOLとして働いているトキヨが訪ねてきた。バイト募集の貼り紙をみたトキヨは恩人であるふたりの店を手伝いたいと言い、トキヨが看板娘となって店も繁盛しはじめていた。ある日、トキヨの里親・アヤセ(古田新太)が喫茶店の店にやってくる。一見にこやかな紳士だが、携帯の着信音のアンパンマンマーチが流れだすとなぜか突然凶暴化して、マスターとヨウコは怯えるのだった。そして店の売上金が三万円足りないことにきづいたヨウコがトキヨに疑いの目を向けたことをきっかけに、トキヨの態度が豹変。トキヨはアヤセとともに電気ショックを使い人々を支配・監禁するようになった。
やがて電気ショックの使いすぎで馬場が死んでしまう。ヤマザキの家で行われていたのと同じように、マスターたちは死体を切り刻み圧力鍋で煮込んで死体を小さくし処理するのだった……。

と、まあこの設定として思い出すのは2011年に発覚した尼崎の監禁殺人事件なわけですが、パンフによると実際にはもっと前から監禁殺人事件を舞台化する構想があったようなので、モデルになったのは2002年発覚の北九州監禁殺人事件のほうみたいですね。←wikipediaにリンクをはりましたが、どちらも半分も読み進まないうちに胸の悪くなってくる猟奇事件なので、閲覧注意の記事です。家族間で手を下したり死体を処理したりという事件で、結果だけ聞くと「どうしてそんなことになってしまうのか」「逃げるチャンスくらいいくらでもあったんじゃないか」と思うのですが、この支配の手口が実に卑劣で巧妙なんですよね。実際には時間をかけて人々の心に入り込み、やがて恐怖で支配していくというその手口が、この舞台ではわかりやすく簡潔に描かれています。宮藤さんの脚色の上手さが光りますが、しかしまあ胸が悪くなる話には違いありません。「あまちゃん」や「高校中パニック小激突」を見て無邪気に「クドカン作品って面白い〜」と見に来たお客さんが一体どう思うのか……。いや、まあ、嫌な話でありつつも随所にギャグは仕込んであって結構終盤まで笑いながら見てはいるんですけれども。

最終的にマスターは妊娠したヨウコを守るためトキヨの支配に反旗を翻しますが、「愛情からじゃない、体裁が悪いからだ」と言い放ちます。そこまでのマスターのキャラからするとすごく説得力のある言葉。マスターとヨウコはそれぞれ死体遺棄で逮捕されるものの、証言に立ったトキヨはか弱い被害者を装って裁判員たちもそれを信じたため、ヨウコひとりが罪をかぶって有罪に。マスターは無罪放免。(この裁判のやりとりも本編中に織り込まれているので、終盤のクライマックスからテンポが落ちずに幕切れとなるあたりの作劇も実に上手い。)マスターはベビーカーに娘を乗せて獄中のヨウコに面会にやってくる。「だんだん娘の顔が馬場に似てくる」「本当の父親は誰なんだ、教えてくれ」というマスターに、能面のように表情を失っていたヨウコが突然タコ踊りを始める場面が、すごく印象的です。物語の中盤で「外の警察に助けを求める合図は窓際でタコ踊りを踊るんだ」という馬場のセリフの伏線があってのこのタコ踊りなんだけども、ヨウコが突然壊れたようにも、救いを求めているようにも、単なるギャグにも見えるというこのタコ踊りの凄みがね。客席からも笑いと同時に小さな悲鳴が上がっていたような気がしました。

そして、また別の人がオーナーになった喫茶店にトキヨが「助けて!」と怯えながら駆け込んでくるラストシーン、窓の「終」の文字を刷毛で×字で塗りつぶすヨウコ。トキヨの支配は繰り返すということでしょうね……まあなんとも後味の悪い、しかし面白い(と言っていいのかどうか、な)作品でした。男優陣がとにかく上手い人ばかりなので怖い話の中にもきっちり笑いをとりに来てるし、女優ふたりも体当たりで好演。特に極限状態に追い詰められる小池栄子さんの上手さにはちょっと驚きました。それと、最初はトキヨが死んで欲しくない人の名前を挙げたらその人をヤマザキが殺してしまったので、トキヨは死んでほしい人の名前を逆に挙げるようになった……というエピソード。トキヨとヤマザキの関係性に落語の「まんじゅうこわい」を当てはめていたのも上手いなあ、と。冒頭に「まんじゅうこわい」の説明をする噺家とその弟子たち(弟子たちがなぜか三人とも不気味な妖怪や化け物の姿)のコントがあって、本編とは無関係と思ってたらまさかそんなふうに挟み込んでくるとはね。いや、しかし、ほんとうに宮藤さんの脚本の巧さに舌を巻いた次第であります。

http://www.parco-play.com/web/play/manju/

ねずみの三銃士「万獣こわい」
脚本:宮藤官九郎
演出:河原雅彦
出演:生瀬勝久池田成志古田新太小池栄子夏帆小松和重
美術:BOKETA、照明:佐藤啓、音楽:和田俊輔、音響:大木裕介、映像:上田大樹、衣裳:高木阿友子、ヘアメイク:西川直子、振付:八反田リコ、アクション指導:前田悟、演出助手:菅野將機、舞台監督:福澤諭志

生瀬勝久池田成志、そして古田新太。誰が呼んだか・・・「ねずみの三銃士」。
“今、一番やりたい芝居を、自分たちの企画で上演したい!” と、演劇界のチームリーダー3人が結集しての第1回公演「鈍 獣」は、宮藤官九郎が書き下ろし、河原雅彦が演出、曲者男優3人の初競演に加え、麗しい女優3人が参加。美女と野獣がこぞって出演のまさに異種格闘技的なステージは、 2004年夏、PARCO劇場を皮切りに、全国7箇所で公演、各地ともチケット完売、大盛況のうちに終了しました。
宮藤官九郎は初めて外部プロデュース公演に書き下ろした本作で、見事岸田國士戯曲賞を受賞。戯曲はPARCO出版から絶賛発売中、公演を完全収録したDVDもPARCOより同時発売されています!さらに「鈍獣」は、映画化(細野ひで晃監督)もされました!
そして、第2回目の「印 獣」は、とあるお屋敷が舞台。そこに住む女主人からの招待状をもらった3人の作家たちという設定。宮藤官九郎(作)、河原雅彦(演出)のコンビはそのままに、三田佳子をゲスト主役に迎え、異種格闘技的豪華競演で東京・PARCO劇場を皮切りに、札幌、新潟、名古屋、大阪、福岡と全国で上演されました。
そして2014年3月、実に5年ぶりに、ねずみの三銃士が再集結し、これまた同じく宮藤官九郎(作)、河原雅彦(演出)のコンビで、華やかなゲストを迎えて新作劇をお贈りします!注目のゲストには、演技派女優として注目の小池栄子をはじめ、2度目の舞台となる夏帆。舞台のみならずドラマ・映画でも個性的な存在感を発揮している小松和重が決定!
鈍獣」では同級生だった3人。「印獣」では3人の作家たちという設定。そして今回は・・・?謎が謎を呼ぶ新作にどうぞご期待下さい。