宝塚花組「ラスト・タイクーン/TAKARAZUKA ∞ 夢眩」@東京宝塚劇場

前半はフィッツジェラルド原作のミュージカル『ラスト・タイクーン―ハリウッドの帝王、不滅の愛―』。1930年代のハリウッドの映画界を舞台に……というだけでなんだか既視感ありまくりな気がしますが(『雨に唄えば』の少し後の時代でしょうかね)。大物プロデューサーのモンロー・スターが男役トップの蘭寿とむ、その元妻ミナと、瓜二つの女性キャサリンの二役が娘役トップの蘭乃はな、モンローのライバル役パット・ブレーディが男役二番手の明日海りお、という布陣。
まあつまらなくはないんだけど、終盤の展開が、なんていうか……ひとことで印象をいうと、
「雑!」
って感じでした。なかなか振り向かなかったキャサリンがようやくモンローになびきかけたのですが、「よーしこの××が○○したら結婚しよう!」みたいな展開ってどうみても死亡フラグでしかないので「あ、死ぬんだな」とは思いましたけれども。そう思った次の瞬間に主人公が飛行機事故で死んだというラジオからのニュースで観客も主人公の死を知らされるという乱暴な展開にはちょっと白目むきかけましたよね。え、まだそこまで盛り上げてなかったじゃん? もう死ぬの? と思ってしまいましたよ。その後死んだ主人公(の亡霊?)が「まだやりやいことがいっぱいあったのに」と志半ばで死んだ心残りを口にするという展開、これは、通常の芝居としてならともかく『男役トップのさよなら公演』としてはたしてアリなのかどうなのか。いくら原作通りだったとしてもそれは無いだろう、そもそもそんな原作をサヨナラ公演に選ぶなよ……という気持ちになりました。まあだいたいサヨナラ公演って別れがテーマになる芝居が多いんだけれど、ほとんどの場合自分の意思でどこかへ旅立ったり別れを告げたりという「未来のある別れ」であることがほとんどだったと思うんですけどもね……。

私は二番手の明日海りお推しなのですがこの役どころもまた……主人公のライバル役なのはまあいいんですが何にも美味しいとこがない。秘書とイチャコラしようとしたら娘に見られた、とか、その娘は主人公モンローに想いを寄せてる、とか。二番手をライバル役にするならもっとその対立の上に愛憎とか葛藤とか異常な執着とかをプラスαで盛ってくれないと面白くないわけですよ。主人公(トップ)とライバル(二番手)の関係性、もうちょっと掘り下げてくれないと。もう娘とか秘書とかその辺は脚本上無かったことにして、もっと男役同士の濃いぃ葛藤下さい、と思うわけです。そんでもって主人公が死ぬ前にちゃんと和解の糸口くらいは見せてくれないと、「後は俺たちにまかせろ」みたいなセリフ言ったところで「なんだかなーお前らちょう対立してたじゃんー」とか思っちゃうわけで。もうちょっとさよならするトップさんへのはなむけと後に残る下級生たちの今後への意気込みを感じさせる作劇にして欲しいなあ、とか、ぶつぶつぶつぶつ。ヅカファンの友人も見終えるなり「うーんこれがさよなら公演……蘭とむファンだったらリピートすんのツライわ……」と頭を抱えてましたよね。うん……

さて休憩はさんで気を取り直してショー。「宝」「塚」「夢」「眩」と書かれた幕がなんかもういきなりヤンキー車のイルミネーションみたいな配色ですけど大丈夫ですか……しょっぱなに登場した蜘蛛男?な明日海りおはじめとする数人のダンサー衣裳が「黒・白・濃ピンク」というヤンキー系ギャル子ども服配色だったもんだから、もう冒頭から濃厚なヤンキーテイスト漂ってて「どうしよう、これ笑ってイイやつ?」とか思ったんですが。でもまあどぎつかったのは冒頭だけで、割とスタンダードなショー。中盤からの軍服群舞、娘役の白のロングドレス群舞、そして圧巻の黒燕尾三角フォーメーションには「これよ!」「これが見たかったのよ!」な気分になりましたもんね。いやあ楽しかった。

今回のショーではケント・モリ氏が振付を手がけたということで、確認してないけど「あ、たぶんこのシーンがそうだな」と思う箇所がありました。いつものヅカのダンスと明らかにテイストが違ったので、踊るほうは普段使わない筋肉使ってるだろうなあという印象……。さすがにあれだけバキバキに踊りながら歌うのは厳しかったのか、トップさんは中心で歌いながらゆるい振付で踊ってましたが、そのサイドを固める下級生たちはものすごくがんばって踊ってました。


ラスト・タイクーン ―ハリウッドの帝王、不滅の愛― 』
〜F・スコット・フィッツジェラルド作「ラスト・タイクーン」より〜
脚本・演出/生田 大和
【解説】20世紀のアメリカ文学の代表的な作家であるフィッツジェラルドが最後に取り組んだ未完の長編小説「ラスト・タイクーン」のミュージカル化。1930年代のハリウッド映画界を舞台に、大物プロデューサーの栄光と挫折、そして女優であった亡き先妻と瓜二つの未亡人とのロマンスを描いたミュージカルです。尚、この公演は生田大和の宝塚大劇場デビュー作となります。

メガステージ『TAKARAZUKA ∞ 夢眩』
作・演出/齋藤 吉正
【解説】これまで培われてきた宝塚独自のレビュー、ショーに、時代を反映した洒落たセンスを織り込み、100周年以降のレビュー、ショーの新たな形式を提示する意欲的なステージ。 “眩しい夢”の数々が“無限”の可能性に満ちた100周年となるよう、願いを込めた舞台です。