ミュージカル「アダムス・ファミリー」@KAAT


ブロードウェイではネイサン・レインの主演で上演されたミュージカルの日本キャスト版。映画とはまた違ったストーリーになっているようですね。このチラシのビジュアルがなんかもう「完璧」だったことと、YouTubeに上がってるBW版の曲が結構好みのタイプだったこと、近場の横浜公演があることと条件が重なったのでチケット取ってみました。
まあこの作品の何がいいって音楽がいい。今回テープ音源じゃなく生オケなのもすごく嬉しいんですが、KAATはオケの音が結構クリアに聞こえてワクワク(青山劇場ではたぶんここまできれいに聞こえなかったんじゃないだろうか)。耳に残る音楽という意味ではオペラ座エリザベート並というか、もうひたすら脳内でぐるぐるリピートする。サントラ欲しくなるタイプの作品ですね。

まあストーリーはごくごくシンプルであまりヒネリはないし(ある意味ラ・カージュ・オ・フォールだったり、ある意味ロッキー・ホラー・ショーだったり)、ミュージカルのごくごく基本的な構成に則って作りましたという感じで意外性はない。「ふたつの価値観が異なる家族が出会って、混乱に陥って、なんだかんだで元の鞘に収まる」という感じ。

基本的にすごく楽しんだし面白かったんだけど、こまかいことをいうと気になる箇所はたくさんある。そもそもアダムスファミリーは価値観がおかしいところからはじまってる(おぞましい物や死といった人と反対の価値観を好んでる)はずなのに、物語が進んで娘の結婚話が進んで夫婦や親子がケンカしてるあたりから「悲しい」とか「キライ」とかが負の感情、といった具合にノーマルな価値観に戻ってるのが混乱する。オリジナルの脚本がそうなのか、それとも翻訳の時点でそうなっちゃったのか、あるいは観客の感情移入を妨げないためにあえてそう脚色したのかはちょっとわからないんだけど、「いまのその感情ってアダムス家的には良いことなんじゃないの?」とちょっと思ってしまう場面がちょこちょこあったような。まあでもそもそも「家族への愛」は最初から否定してないわけだからこの辺どういう線引で設定されてるのかよくわからないんだけど。

そして「アダムス家」はほぼミュージカル系キャストで芸風がわりと統一してるのにくらべ、ルーカスの家は「D-BOYS柳下大)」「お笑い芸人(友近)」「小劇場俳優(菅原永二)」とバラバラ。まあこっちはそれほど歌いあげなくてもOKといった判断でこのキャスティングにしたのかもしれないんだけど、その割には残念ながら友近さんが上手すぎる。ちゃんとミュージカル系の歌い上げ方をしていたのがちょっと驚いたのですが(アニーとかすでにミュージカル経験あったんですね)、友近さんがこれだけ歌えてしまうと、逆にルーカスとマルももっと歌えるキャストであってほしいという欲がでてしまうのがなんとも。柳下さん菅原さんも別に下手なわけではないんだけど、ミュージカル歌唱ではないからなあ。

演技や演出も青山劇場サイズで作ったんだろうなあという感じで、笑いを取る部分でもやや大味な間の取り方。KAATサイズならもうちょっと細かい演技でも伝わるはずだけどなーと思ったけど、まあこれはツアー会場だから仕方ないのかな。せっかく友近さん菅原さん鷲尾さんとか小芝居できる人たくさんいたのに。さとしさんだって新感線仕込みの顔芸もっと使えるのになー、などと思いました。

あと、振付。決して悪くはなくて単に好みの問題なんだけど、個人的にはもっと情報量多いゴチャゴチャした群舞が大好きなので、今回「わー今の場面もっかい見せて、どこ見たらいいのか目が泳ぐ!」みたいな場面がちょっと少なかった。一幕最後の大暴露の場面くらいかなあ。アンサンブルにはもっとバッキバキに踊って欲しかった。群舞に見応えがあったら何度でもリピートできるんだけどなあ。あと終盤のタンゴの場面も、他の役者のレベルに合わせたのかもしれないだけど、宝塚出身の真琴つばささんならもっと踊れるはずなのにー、とちょっと物足りなかったり。

などとぶつぶつネガティブなこと言ってますけど、曲の良さが七難隠してくれたというか、基本的には可愛くてゴスですごく楽しい作品でした。チラシ見た時は「なんというジャンバルジャン俳優の無駄遣い!」と思った今井清隆さんでしたが、フェスターおじさんも歌いあげる見せ場があって全然無駄遣いじゃありませんでした。可愛かった。さとしさんのハの字まゆげの顔も可愛かったしなー。まあそして真琴つばささんのスタイルの良さね……フォトショップ使わずにあの体型であの衣裳着られるってすごいよ……!昆夏美ちゃんのウェンズデーも歌上手くて可愛かった。白井さんのゴシックテイストの演出は品も良くやり過ぎ感が無い。カーテンコールの演出も可愛くて良かった。

客席の反応は暖かく、最後のカーテンコールでは自然にスタオベになってました。さとしさんがご挨拶コメント。「昨日初日を迎えました神奈川公演、今日で早くも千秋楽でございます(笑)。GWで海外旅行に行きたかった方もいらっしゃるでしょうがこんな所で時間を潰していただきありがとうございます。ここ(舞台の上)はNYのセントラルパークですからね、ちょっと行けば山下公園もありますし。なんなら中華街へ行っていただければ、ここいらでも海外旅行気分が味わえます(笑)」誰がうまいことを言えと。それからWキャストの子役の子だけが大千秋楽ということでセンターに呼んでご挨拶。「どうでしたか?」「(ちょっと戸惑いつつも笑顔で)……楽しかったです!」「お前こそアダムス家の一員だ!」と熱いハグ。そして「もしよろしければ再演希望の声を届けていただければ」とのご挨拶もあり、カンパニーの雰囲気の良さを伺わせる一幕でした。

ブロードウェイ・ミュージカル「アダムス・ファミリー
日本版:http://www.parco-play.com/web/play/addams/
BW版:http://www.theaddamsfamilymusical.com

台本:マーシャル・ブリックマン&リック・エリス
作詞・作曲:アンドリュー・リッパ
原案:チャールズ・アダムス
翻訳:目黒条白井晃
訳詞:森雪之丞
演出:白井晃
出演:橋本さとし 真琴つばさ 昆夏美 柳下大 菅原永二 澤魁士 玉沢威穏/菊池銀河(ダブルキャスト) 友近 鷲尾真知子 今井清隆 他

ブラックな笑いとゴシックなテイストに溢れた、あの『アダムス・ファミリー』がミュージカルになって、日本初登場!映画でお馴染みのおばけ一家が、ユニークなキャラクター設定はそのままに、素晴らしい楽曲にのって、舞台上を大暴れする。

セントラルパークの中の不気味な屋敷に住むアダムス・ファミリーは不幸や忌まわしいものが大好きなおばけ一家。今日も、お墓に眠るご先祖さまの幽霊たちも交えて、恒例の家族大集合。フェスター叔父さんがご先祖さまを取り仕切っている。ある日、一家の娘ウェンズデーのボーイフレンドが、両親を連れてアダムス・ファミリーの屋敷を訪れることに・・・
いつものように弟のパグズリーをいじめながら、普通の人間のルーカス一家が来ることを考えると不思議な気持ちになるウェンズデー。
ウェンズデーが変わってしまうのではないかと心配する父ゴメスと母モーティシア。弟パグズリーは、もう姉からいじめられなくなることを喜びつつも、やはりさびしく思い、何とか二人を別れさせられないものかと考え、おばあちゃんに相談する。
それぞれの気持ちを抱くお化け一家の元に、ついにルーカスとその両親が到着。しかしながら両家が上手くいかないのではないかというウェンズデーとルーカスの心配は的中。ルーカスの両親は奇妙なアダムス・ファミリーに困惑してしまう。その上、手違いで魔法の薬を飲んでしまったルーカスの母が豹変し、事態は大混乱へ。さて、ウェンズデーとルーカスの恋の行方やいかに・・・

シアターガイド(舞台写真あり):http://www.theaterguide.co.jp/theater_news/2014/04/11.php