「酒と涙とジキルとハイド」@銀河劇場


三谷さんの新作コメディ。最近三谷さんの舞台作品はちょっとシリアスなものが多かったから、これほど「ただただ笑える」内容の作品は久しぶりじゃないかなあと思う。「科学実験の偉大なる発見を実証すること」がポイントになるという、ある意味でとてもリアルタイムな作品。「200回も成功したんだ、実験ノートだってある」ってセリフ、STAP細胞の騒動そのまんまだものね。

舞台は19世紀末のロンドン。人間を善悪ふたつの人格に分ける薬を開発したジキル博士(片岡愛之助)だったが、実験がうまくいかない。学会での発表を控えて「どうしても成功したことにしたい」と考えた末に思いついた策が、役者に別人格を演じさせるというもの。事情を知らずにジキル博士の研究室に連れて来られた二流の役者のビクター(藤井隆)は、無理があると文句をいいつつもジキル博士の演技指導で「悪い人格のハイド氏」をしぶしぶ演じる。そこへ忘れ物の官能小説を取りに戻ってきたジキル博士の婚約者・イブ(優香)が、ビクターのことを実験によって生まれたハイド氏だと思い込む。助手のプール(迫田孝也)も絶妙のタイミングでその嘘を補強する。殻を破って本当の自分を開放したいと思っていたイブは、自ら薬を飲んでアバズレ女に変貌してしまい、男たちは彼女を傷つけないようにと慌てふためいて……といったお話。
まあ三谷さんのコメディはだいたいそうなんだけど、初期設定が「いくらなんでもムチャ過ぎる」というところから始まってて、その設定を飲み込めるかどうかで心底その作品を楽しめるかどうかが変わってくる。今回のも「実験に失敗したからといって役者を連れてきて悪い人格を学会の舞台で演じさせる」というその「嘘」があまりにも子どもじみてるので、素直に受け入れられるかといったら正直ちょっと微妙。とはいえその嘘を大真面目に熱演するキャストのがんばりは素直に楽しめました。やればやるほど歌舞伎口調になる愛之助さんも、困った表情がとにかく憎めない藤井さんも面白かった。そしてなにより驚いたのが優香ちゃんの可愛らしさね! まあ志村けんのコントにはよく出てるのでコメディエンヌとしての下地はあったんだろうし、アテ書きでやりやすいキャラだったというのもあるんだろうけれど。それにしても「汚い言葉を浴びせかけられるほど興奮して、堕落することに憧れるご令嬢」「完全に豹変したビッチ」を生き生きとした表情で演じていて、本当に可愛らしかった。あれだけできるならもっと女優として活躍すればいいのになあ。

そしてまあ今回のダークホースは完全にこの人、プール役の迫田さんでした。チラシはほとんど三人芝居のようなビジュアルだったし、キャストのフォントも小さいから3人以外の俳優が出てるってことすら幕があがるまで気づかなかいくらいなのに、ものすごく重要な役どころという。しかも金髪ロン毛でまるで「ロード・オブ・ザ・リング」「ホビット」に出てくるエルフみたいなビジュアルですよ。他の3人が右往左往しながら汗だくで演技してるのに、ひとり涼しい顔でクールな役どころという、いやはやこれはいい意味で卑怯。まあネットで噂は流れてたから「ああこれが噂の……!」と納得したけれど、知らずに見てたらまず終演後真っ先にチラシやパンフで名前確認してたよね。そしてすぐさまwikipedia検索してたと思う。まあ三谷作品では「おのれナポレオン」の時もそうでした、前半ほとんど道具係として使ってた浅利陽介さんを終盤でいきなり最重要人物として登場させるとかやってたものね。

登場人物の誰ひとりとして成長しないし、ハイド博士はまったく懲りてないし、まあ本当にドタバタしていて面白い喜劇でした。まあ評判が良すぎてちょっと期待値上がり過ぎた感もあったり、同じことを繰り返すのがちょっと食傷気味になりかけた場面も無きにしもあらずだったけれども。それでも概ね楽しく観ることができました。

「酒と涙とジキルとハイド」
http://hpot.jp/stage/sakenamida
2014年4月8日(火)〜4月30日(水) 東京芸術劇場プレイハウス
2014年5月4日(日)〜5月18日(日) 天王洲銀河劇場

作・演出:三谷幸喜
出演:片岡愛之助、優香、藤井隆迫田孝也

【STORY】
舞台は19世紀末のロンドン。ジキル博士が開発した新薬は、人間を善悪二つの人格に分ける画期的な薬、のはずだった。それを飲んだジキル博士は、別人格のハイド氏に変身する、はずだった。学会発表を明日に控え、薬がまったく効かないことに気づいたジキル博士。追いつめられた末の、起死回生の策とは?

日経新聞劇評(舞台写真あり):http://www.nikkei.com/article/DGXDZO70167000R20C14A4BE0P01/
朝日新聞(舞台写真あり):http://www.asahi.com/and_M/interest/entertainment/Cpettp01404080004.html
スポニチ(舞台写真あり):http://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2014/04/08/gazo/G20140408007933680.html