M&Oplaysプロデュース「鎌塚氏、振り下ろす」@本多劇場

「鎌塚氏、放り投げる」「鎌塚氏、すくい上げる」に続く"スクリューボール・バトラー・コメディ"*1『鎌塚氏シリーズ』第3弾。前作、前前作とたいへん評判が良く気になっていたのですが、今回ようやく見に行くことができました。倉持さんの作品はもう10年以上前にプリセタとペンギンプルペイルパイルズの作品を見て「やや地味目な会話劇だなー」「ちょっと好みと違うかなー」と思って以来しばらくご無沙汰してたんですが。久しぶりに見たらド直球の娯楽作品になってたのでちょっと意外でした。

貴族制度が存続しているパラレルワールド現代日本で、執事をつとめる鎌塚アカシ(三宅弘城)が主人公。かつての同僚だったメイドの上見ケシキ(ともさかりえ)に呼ばれて、やや精神を病んでいる中之院レイジロウ公爵(北村有起哉)の家にやってくるところから物語が始まります。お屋敷には20人の使用人しかいないのに、レイジロウは心を病み見えないはずの使用人が見えお屋敷には40人の使用人がいると思い込んでいて、アカシはいきなり難題に直面。かつてこのお屋敷につかえていた執事にして自分の父(ベンガル)を呼び寄せます。一方、議会では貴族に有利で庶民に厳しくなる貴族法の話が進んでいて、これを最大派閥の中之院派にも承諾してもらおうと堂田テルミツ男爵夫妻(片桐仁広岡由里子)がレイジロウを懐柔にやって来ます。堂田から「貴族法に賛成してくれるなら20億の借金をチャラにしてもいい」と言われてレイジロウは思い悩み……といったストーリー。
主演に三宅さん、ヒロイン役にともさかさんを据えていることが大きいのだと思いますが、なんとも可愛らしいキュートな世界観。貴族と使用人たちのあれやこれやといっても「ダウントン・アビー」の陰湿さとはまったく違って、毒も暗さもなくどこか牧歌的ですらあります。政治のあれやこれやについては極端にわかりやすく単純化しているので小難しいところは一切ありません。物語の焦点は「中之院は貴族法に賛成するのか反対するのか」「アカシはレイジロウの妄想を解決できるのか」という二点に絞られて展開。とてもわかりやすく親切なストーリーでした。中之院・鎌塚両氏の親子関係の描き方は「仕事に忙しくて子供に厳格な(あるいは育児しない)父親と、それに対して不満がある息子、でも本当は父親は子供を愛しているんだよ」といった流れで(やや類型的な印象はあるものの)笑いの中にしんみりした感動もあり。あざとく泣かすようなエピソードではないものの、ちょっとイイ話に仕上がっておりました。

感心したのは舞台セットの使い方。本多劇場なのにわざわざ盆を作ってセットをぐるぐるぐるぐる回す回す。二枚の壁が可動になってて客間になったり子供部屋になったりアカシの部屋になったりと広い屋敷を上手いこと表現していました。転換中も芝居が途切れることなくうまくつないでて、中だるみせずテンポよく舞台が進むのも良かったです。この世代でこういう純然たるコメディを書ける人って少ないので、もっとこの路線で作品書いて欲しいなあと思ったり。

そんなこんなで全体的に好印象な作品でしたが、Twitterでよく「二時間笑いっぱなし」といった感想を見かけていたので、ちょっと期待値を高く設定しすぎたかなーと正直思いました。客席はほどよく笑いも起こってテンポの良いコメディに仕上がっていましたが、腹を抱えてドカドカ笑うところまではいかないかなーという感じです、個人的には。東京公演は折り返し地点まできてるのでだいぶ芝居もこなれてきたところだろうと思いきや、特にベンガルさんがセリフを噛み噛みだったり、他の役者さんもちょっとセリフ食い気味に言っちゃう場面もあったり。この日は収録カメラが入っていて役者さんもやや緊張していたのかもしれません。まあベンガルさんはそもそもちょっと適当なキャラという役柄なので笑って許される空気ではありましたが、聞き取れないセリフがチラホラあったのが気になりました。ちょっと顔が赤い気もしたんですが(単なる日焼け?)、あれ前日の酒がちょっと残ってたりしたんじゃないのかな……と思ってしまうくらい。

コメディの舞台は特に「その日の舞台の出来」や「観客の反応」で、奇跡のようにうまく盛り上がる回もあれば、いまいちうまく歯車が噛み合わない回があるような気がします。私が見た回は特に観客の反応が悪いわけではなかったのですが、もう少しセリフのやりとりがガチっとかみ合っていればよかったなあ、と思いました。

M&Oplaysプロデュース「鎌塚氏、振り下ろす」
http://mo-plays.com/kama3/

【キャスト/配役】
鎌塚アカシ     :三宅弘城
上見ケシキ     :ともさかりえ
堂田テルミツ男爵  :片桐仁
堂田タヅル     :広岡由里子
宇佐スミキチ    :玉置孝匡
鎌塚アカシの父   :ベンガル
中之院レイジロウ公爵:北村有起哉

【スタッフ】
作・演出:倉持 裕
照明:笠原俊幸 / 美術:中根聡子 / 音響:高塩 顕 / 舞台監督:幸光順平 /
衣裳:戸田京子 / ヘアメイク:大和田一美
演出助手:山田美紀 / 制作:近藤南美 / 制作助手:土井さや佳 /
制作デスク:大島さつき / 宣伝:川野純子、高橋郁未(る・ひまわり)
プロデューサー:大矢亜由美

【物語】
これは貴族制度が続いている世界の話。日本有数の名家、中之院公爵家での出来事。「完璧なる執事」として名高い鎌塚アカシは、今、突如、国家の命運を左右するキーマンとなった公爵に仕えている。しかし、主人は神経衰弱。なんとか励まそうとするが、目立った成果は上がらない。そこでアカシは、アイドル女中の上見ケシキと、先代の中之院家に仕えたこともある「伝説の執事」であり、彼の実の父親を屋敷に呼ぶことにした。そんなある日、堂田男爵夫妻と従者スミキチの魔の手がいつも通り忍び寄り……。

*1:スクリューボール・コメディ」の定義は割と広いようで、「男女が喧嘩をしながら恋に落ちるというロマンティック・コメディ」や「風変わりな変人が他人を振り回す様子を描いたコメディ」など解説によって様々。「風変わりな人間」が「他人を振り周し」つつ「男女が恋に落ちる」あたりの要素をなんとなく満たしていれば良さそうな感じでしょうか。