大人の新感線「ラストフラワーズ」@赤坂ACTシアター


出展:朝日新聞デジタル

劇団☆新感線大人計画という人気劇団がタッグを組んだお祭り公演。正月早々にこの企画が発表された時はTwitterのタイムラインが騒然としたものでした。今でこそお互いの劇団へ客演などで関わりもあるふたつの劇団ですが、そもそもの作風がまったく違うわけで。「脚本が松尾さんで演出がいのうえさん……? ぜんぜん想像できない!」となっていたわけですが。蓋を開けてみれば、松尾作品としかいいようのない情報量の多い脚本に、いのうえ演出としかいいようのないショーアップしたギラギラの演出が施されていたわけで。個人的には「人気劇団の座長ふたりががっぷりよつに組んで作り上げた作品」というよりは「お互いに抜身の真剣で斬り合った結果どっちも相手を完全にねじ伏せることはできなかった作品」という印象を受けました。しかしその一方で、商業演劇としてはお祭り感溢れるなんともゴージャスな舞台であり、役者ひとりひとりの魅力をばっちり見せてファンを満足させるというサービス精神は脚本演出の双方からこれでもかとばかりにあふれていて、両座長のプロ意識を見た気もしました。
ざっくりとした世界観は東映ヤクザ映画と昭和のスパイアクションを混ぜたところにB級SF映画をふりかけた感じ。スカパラの音楽がまたいい具合に泥臭さを含んだいなたいカッコよさでスパイ物の雰囲気を盛り上げます。

息子を人体実験に使われたヤクザ(橋本じゅん)とその双子の息子(阿部サダヲ)、貧乏大家族ドキュメンタリー番組に”ファットダディ”として出演しながら金を稼ぐスパイ(古田新太)、在日オンドルスタン(=北朝鮮を思わせる架空の国家)系ヤクザ(橋本じゅん)の愛人となったクラブ歌手(小池栄子)、元爆弾魔の活動家(荒川良々)、セックスアンドシティ金融の気の弱い取り立て屋(星野源)、死期の近づいたフォークシンガー早川速男(宮藤官九郎)とそれを取材するルポライター平岩紙)、オンドルスタン共和国の将軍(皆川猿時)と日本に亡命したその元妻ミンス(高田聖子)、東欧の国デルタランドの進化工学者サルバドル(粟根まこと)やその雇い主セレスティーノ(松尾スズキ)、謎の暗殺者集団「ラストフラワーズ」など、キャラの濃い人々が入り乱れて繰り広げる群像活劇、といった感じのストーリー展開。いやーチラシの混沌としたキャラクター写真がまさかそのまま劇中の役のコスチュームとは思いませんでした。

これだけの登場人物が出てくる以上、前半がキャラ紹介と設定の説明になってしまって、どこか締まらない散漫な印象になるのは否めません。正直休憩に入った瞬間、「この調子でラストまで行くとキビシイな……3時間35分もあるのに……」「いやいやまあでも長丁場の作品だし松尾作品だし前半がこうなるのは織り込み済みだろう……」「後半に……後半に期待するんだ……」と自分に言い聞かせておりました。ただまあ後半に入ればそこはそれさすが松尾脚本というべきか、それぞれのキャラが有機的に絡み合って物語を盛り上げていくのが匠の技。いつもの大人計画の作品に比べるとやや毒やテーマ性は薄いものの、この松尾さんの脚本の構築力は見事としか言いようがありません。

物語がクライマックスを迎えたところからの星野源さんが歌う主題歌「ラストフラワーズ」へ雪崩れ込むこの流れの気持ちよさ、そして新感線と大人計画のメインキャストが一人ずつふたり並んで出てくるカーテンコールには、なんとも胸の熱くなるモノがありました。前半ややフラストレーションはあったものの、やっぱりこの終盤の演出には「あー楽しかったー!」と思わされてしまいましたねえ。

思えばこの20年間、結婚出産などで少し抜けたところありつつも両劇団の新作はほぼ欠かさず見てきたわけで。いろんな劇団が栄枯盛衰していった中、かつてはTHEATER/TOPS青山円形劇場で見ていた劇団がこんなにも大きくなり、役者ひとりひとりが映像でも活躍するようになって。そして20年前はなんら交わるところの無さそうな作風だったふたつの劇団がこんなふうに共演するという舞台を見て、「ああ、長いことファンでいるとこんなご褒美があるんだなあ」と、そんなことを思って感慨深くしみじみしてしまいました。

大人の新感線「ラストフラワーズ」
http://www.otonanoshinkansen.com/

【配役】
古田新太 :佐伯三蔵(ミッシングのスパイ、ファットダディ)
阿部サダヲ:勝場軍一郎、勝場軍二郎(ヤクザの息子)
小池栄子 :nanana 横山奈々子(クラブ歌手、ミッシングのスパイ)

橋本じゅん:勝場典明(軍一郎たちの父)、シン・ジョンホン
宮藤官九郎:早川速男(フォーク歌手)
高田聖子 :ミンス(ジョンオク将軍の元妻)、佐伯みよ子(三蔵の妻)
皆川猿時 :ジョンオク将軍(オンドルスタン共和国首領)、ピッグ
粟根まこと:サルバドル(セレスティーノ配下の進化工学者)
村杉蝉之介:つげ分析官(ミッシングの一員)、ペク教授、ヒュンダイ
河野まこと:ミャン(ジョンホンの部下)
荒川良々 :村西五郎(ミッシングの一員、元爆弾魔)
山本カナコ:三木田テンホー(ジョンオクお気に入りのマジシャン)
平岩紙  :砂漠ひかる(早川を取材するルポライター
保坂エマ :スジュン(ジョンオクの女官)
星野源  :犬塚ひろし(ウェイター、のちに取り立て屋)
村木仁  :ドンナム(ジョンホンの部下)
松尾スズキセレスティーノ(謎の財団の総帥)、オンドルスタン将校

その他出演者:川原正嗣、藤家剛、加藤学、川島弘之、安田桃太郎、南誉士広、熊倉功、横田遼、伊藤結花、遠藤瑠美子、高杉あかね、中江友紀

映像出演:蒼井優セレスティーノの母)、アナウンサー(中井美穂)、木村匡也(ナレーション)

【スタッフ】
脚本:松尾スズキ
演出:いのうえひでのり

美術:池田ともゆき 照明:原田保 衣装:伊賀大介 音楽:東京スカパラダイスオーケストラ 振付:川崎悦子 音響:井上哲司 音効:末谷あずさ、大木裕介 殺陣指導:田尻茂一、川原正嗣 アクション監督:川原正嗣 ヘアメイク:宮内宏明 小道具:高橋岳蔵 特殊効果:南義明 映像:上田大樹 歌唱指導:右近健一 音楽助手:大塚茜 演出助手:山崎総司 舞台監督:芳谷研