「半神」@東京芸術劇場プレイハウス


出典:東京芸術劇場Twitter公式

野田秀樹さんの「半神」は夢の遊眠社バージョンをビデオで、NODA・MAPバージョンを舞台で見ています。今回は韓国人キャストということでどうしようかなあとちょっと迷ったのですが、「タイ版の赤鬼もすごく良かったしなー」と思ってチケットを押さえました。
冒頭しばらくイヤホンガイドの日本語訳と舞台の役者さんの声を同時に聴くのに慣れずツライ時間が続いたのですが、「2分の1と2分の1で、4分の2はタンゴのリズム!」からリベルタンゴに雪崩れ込むあたりから「ああ、そうだ!これだ!」と一気に舞台に引き込まれました。そして終盤、例の名台詞「孤独は、人になる子にあげよう 代わりにお前には音をつくってあげよう この世の誰もきいたことのないそんな音を そんな音をつくってやろう」で一気に喉の奥に塊がこみ上げてきますね……このセリフが泣けるのはもはや赤鬼のラストシーン並に鉄板です。

生演奏の弦楽器の音楽も良かったですが、螺旋階段と、舞台中央の回り舞台、それを囲むような滑り台、と舞台美術もテーマに沿った素敵なもの。そこを役者たちが跳ねまわり滑り降りる躍動的な演出とスピード感。これぞまさに野田演出! といった感じで、実に素晴らしかったです。満足。しかしそのスピードにあわせてイヤホンガイドのセリフを読み上げる方、本当にお疲れ様でしたと言いたくなるセリフ量でしたね。2人でセリフを読み上げていたと思うのですが、いや最初は本当に「この調子で最後までイヤホンガイド聴くのか……苦行……!」と思うほどでした。まあある程度作品を知ってたので途中からはすっと物語に入り込めましたけど、初見でコレを観る方はちょっとツライかもしれませんね。

クライマックスの場面では、不思議と遊眠社版やNODA・MAP版よりもセリフがすんなりとイメージとして入ってくる感じがしました。繰り返し見てきてようやく戯曲を咀嚼できたというのもあるのかもしれませんが、メエルシュトレエムの渦と胎内=羊水のイメージやDNAの二重らせんが重なりあう場面、ふたりがひとりになって生まれ変わる場面と人間が10ヶ月かけて生まれてくるイメージの連鎖、など、分かっていたようで染みこんでいなかった部分がすうっと自然に飲み込めた感じで、色々と発見がありました。母国語でない上演でこれが伝わるというのも不思議な気がしますが。もしかしたらイヤホンガイドの淡々とした朗読が、かえって言葉の輪郭を際立たせたのかもしれません。

それにしてもNODA・MAP版を観た時はまだ独身だったので全くイメージしなかったのですが、母親になった今見ると「自分の意思ではどうにもならない不可分の存在」っていうのが、母と乳児の関係にも見えて、孤独に憧れるシュラの気持ちが痛いほど解って泣けました。自分の身体で作った栄養をぜんぶマリアに吸い取られるってほんと乳飲み子と母親の関係ですからね。原作のラストのモノローグ「愛よりももっと深く愛していたよ おまえを 憎しみもかなわぬほどに 憎んでいたよ おまえを」を思い出して、ああ、今ならばその「愛よりももっと深く愛する」「憎しみも叶わぬほどの憎しみ」の意味がすんなりと心に入ってくるなあ、と。母乳の製造に疲れ果ててカサカサになっていた頃を思い出して、中盤のなんでもないところでひっそりと涙しました……。

「半神」
http://www.geigeki.jp/performance/theater063/

<ものがたり>
醜いが高い知能を持つ姉シュラと、美しいが頭の弱い妹マリア。二人は、体がくっついたまま生まれてきた双子だった。シュラはいつもやむなくマリアの面倒をみて暮らしていたが、他人から愛されるのはいつでもマリアの方であった。そんな二人が十歳を前に、死に瀕する病いにかかる。助かる方法は、ただ一つしかなかった。それは…

出演:チュ・イニョン チョン・ソンミン オ・ヨン イ・ヒョンフン イ・ジュヨン パク・ユニ イ・スミ ヤン・ドンタク キム・ジョンホ キム・ビョンチョル ソ・ジュヒ チョン・ホンソプ

原作・脚本:萩尾望都 脚本・演出:野田秀樹
美術:堀尾幸男 照明:服部基 衣裳:ひびのこづえ 選曲・効果:高都幸男
振付:謝珠栄 美粧:柘植伊佐夫 編曲:ハン・ジョンリム 宣伝美術:吉田ユニ
レジデント・ディレクター:ソン・ギウン
技術監督:キム・ムソク(明洞芸術劇場)
プロダクション・マネージャー:大平久美(K Productions)

演奏:ハン・ジョンリム(キーボード)、クォン・ナヒョン(チェロ)、チン・ユリ(ヴァイオリン)、ファン・ジョンウン(ヴィオラ