ナショナル・シアター・ライブ「コリオレイナス」


出典:National Theatre Live 2014日本公式サイト

4月の上映時にはマチネ上映が無かったために見られなかった「コリオレイナス」、アンコール上映でようやく観ることができました。今回の再上映はフランケンシュタインコリオレイナスの2本だったわけですが、ザ・オーディエンスやリア王なんかもまたマチネで上映してくれないかなあ。ほんとお願いします。

本編上映前に主演インタビューにまぎれて劇場を簡単に紹介する映像があるのですが、このコリオレイナスを上演したのは立派な歴史ある大劇場ではなく、バナナ倉庫を改装したという小さな劇場なのですね。客席もベンチシートでそんなにキャパは無い感じ(おそらく2〜300くらい)で、「ああ、ベニサンピットみたいだなあ」と思いながら見ておりました。ああいう環境で人気俳優を観るのはすごく贅沢な気分になれるんですよね……。
主演のコリオレイナスは「アベンジャーズ」「マイティ・ソー」でロキ役を演じたトム・ヒドルストン、メニーニアス役は「SHERLOCK」マイクロフト役のマーク・ゲイティス。そういえばTwitterでも演劇ファンより英国俳優ファンのほうがこの作品には食いついてるような気がしました。あまりその方面に詳しくない私でも知ってる俳優が出てるということは、きっとチケットも取りづらかったんじゃないかなあと。

コリオレイナス」はシェイクスピア作品の中ではどちらかといえばマイナーな作品で、日本でもあまり多くは上演されてない気がします。唐沢寿明主演・蜷川幸雄演出の舞台は大階段の美術が印象に残ってますが、「役者さんが上手いから見てられるけど、ストーリーは地味だなー」という印象でした。今回のこのナショナル・シアター・ライブの作品もその印象は大きく変わらなかったのですが、やはり役者は上手いし、演出もスピーディで、長い上映時間でも飽きずに最後まで集中することができました。いやもうあのシェイクスピアの長台詞を耳滑りせずに聴かせる役者の上手さ、本当に素晴らしい。

演出は良い意味で小劇場的。俳優たちはずっと舞台上にいて、出番のない人は壁際の椅子に腰掛けてるというスタイル。グローブ座カンパニーでもこんな演出してたことがあったけど、よくある演出なのかな? 戦争の場面での火花が降ってくる演出とかもすごくカッコ良かった。場面によっては花びらが降ってきたり、ラストでオーフィディアスがコリオレイナスの血を浴びたりするあたり、なんだか蜷川さんぽい演出だなーと思わなくも無かったですが。転換のテンポの良さ、全体的に現代的な手法の演出、そしてところどころ凝ったカメラワークなど、舞台そのものもそうだけど映像収録面でも飽きさせない工夫があって「さすがだなーさすが英国やなー」と思いました。

前半は演出が面白かったけど、後半の「コリオレイナスのもとを家族が説得に訪れる」場面は、もうシンプルに役者の演技だけで勝負してる感じで、そこも良かったです。コリオレイナスを説得する母親の長台詞、「ああもうこれぞ!シェイクスピア芝居!」といった感じで、気持よくねじ伏せられる感じでした。圧巻。それを聞いているトム・ヒドルストンの表情も良かったなあ。いやもうあそこだけで「元は取った……」と思える役者芝居でした。満足。

4月の上映の時は「字幕がひどい」と散々な評価で、今回は字幕改訂版での上映でした。たぶん前回よりだいぶ良くなってるんだろうけど(少なくとも武勇が武男という誤植は無かった)、「適役→敵役」とか「ズバリ→スバリ」とか、少なくとも3箇所は地味ーな誤植がありましたね。中盤に立て続けだったのでたぶん校正する人がその辺で眠くなってたんだろうなと予想……。