久々の新作。全体的にホラー要素やエンタメ要素は薄め、いつもよりやや観念的な作品だったという印象を受けました。イキウメという劇団のバリエーションとしてはそれなりに興味深く観たのも確かだけれど、作品単体としてはそれほど好みではないというか、「もしこの作品で初めてイキウメを観たとしたら、2度目はなかったかもしれない」とすら思う内容でした。イキウメ(あるいは前川作品)の魅力である脚本構成の巧みさも今回はちょっと薄かったような。以下、ネタバレします。
物語。会社にひとり残って残業中のサラリーマン男性。その前に突然「道化」が現れ、男性は異世界に放り込まれる。「パンイチ」と呼ばれながら、自分に対して与えられている役割・設定を飲み込んで、「家庭(両親と自分)」、「友だちとのボール遊び」「部活動」「会社」という状況に適応していくうち、男性にはそれまで見えていた「道化」の存在が見えなくなっていく……。というストーリー。
世界に適応していく=社会性を身につける、という人間として当たり前の成長過程を描いてるようだけれど、そこにあるのは「バスケットみたいなボール遊びだけどドリブルはルール違反」「アップばかりしていて何の活動をしているのかわからない部活動」「作業を分担して折り紙を折っている会社」など、どこか奇妙でズレた世界観。最初はわけがわからないという顔をしていたパンイチも、次第にその世界でうまく立ち回れるようになっていく。その一方で「道化」の姿は見えなくなり、何かを失ったような風情でもある。パンイチはどこにでも行けるはずなのに、もっと自由なはずなのに、その状況にしがみつくことにこだわるあまり、自分を見失っていくというようにも見える。視野狭窄状態に陥った現代人への暗喩のよう。
最終的に「もとの会社」に戻ったパンイチは「会社」=「舞台」の外へ出て行くという、希望を感じさせるラストではあったけれど、こうするのであれば最初のシーンはもっと残業中の彼は仕事に追い詰められている描写でも良かったんじゃないのかな、とちょっと思いました。「残業で帰れない」とか言ってるわりにダラダラ仕事してタバコふかして、そんなに切羽詰まった雰囲気じゃない(単に帰る時間を引き伸ばしてるようにすら見える)から、テーマがちょっとボヤけてしまう気がしました。自分から家に電話をかけるのではなく嫁からの電話で初めて時間に気づく、とか、帰りたいのに帰れない、仕事に追われてイライラしてる、的な演出のほうがいいんじゃないのかなーと。うーん。まあラストの解釈によるのかもしれませんが。はっきりと「こう!」という正解を見せるのではなく、観客側に解釈を委ねるような構成だったような気もします。
劇団の表現やテーマとして深度を深めてる気はするので、もう少しブラッシュアップして再演となればまた見に行くかもな、とは思うのですが。ただ今回は個人的には「面白かった!」というにはちょっと決め手に欠ける感じでした。もうちょっといつものあの脚本の鮮やかさが欲しかったなあ。