宝塚花組『Ernest in Love』

1960年にオフ・ブロードウェイで初演の作品、ということで、古き良き時代のクラシカルなミュージカルコメディ、といった印象の作品でした。大作感はありませんが、まあ明日海りおさんトップ主演作がエリザベートの次にコレ、というのはバランス的な意味でファンには美味しかったんじゃないかなあという気がします。ちょっと頼りない感じのある青年貴族が右往左往するという可愛らしいキャラクターなので、クールなトート閣下との落差が楽しいですね。
青年貴族のジャックは赤ん坊の頃に駅で拾われた孤児で、今は養父の娘・セシリイの後見人を務めている。田舎の屋敷から恋人のグウェンドレンに会うためにたびたび都会へやってきているが、セシリイには「出来の悪い弟アーネストの面倒を片付けるため」という言い訳をしている。グウェンドレンにはアーネストの名前を名乗って会っていたが、プロポーズをしたものの本当の名前を打ち明けることができずにいた。またグウェンドレンの母ブラックネルにも孤児であることを理由に結婚を反対される。一方、ジャックの友人でグウェンドレンの従兄弟でもあるアルジャノンは、ジャックが後見人を務めるセシリイに興味を持ち、田舎の屋敷を訪れる。そしてセシリイに一目惚れして「ジャックの弟アルジャーノン」だと名乗ってセシリイにプロポーズ。そこへグウェンドレンがやってきてアーネストの婚約者だと名乗ったために混乱に陥って……という物語。

まあ予想通りどっちかというと小劇場で少人数上演向きの作品な気はしました。メインのアーネスト、グウェンドレン、アルジャノン、セシリイの4人+ブラックネル婦人はがっつり見せ場もありますが、それ以外はもう完全にアンサンブルで、1幕2幕にそれぞれ1曲ずつ出番がある程度。まあ路線の生徒さんはほぼバウホール公演の方に出てるのでコレはコレでうまく振り分けたなとは思いますが、フォーラムCのような大劇場じゃなくてパルコ劇場くらいのサイズの劇場で観たい感じではあります。

とはいえうまいことアンサンブルの群舞や大掛かりな美術で華やかにみせていたなとも思います。冒頭、オケが舞台上手にドーンといたので「えっ、そこ?」と思いましたし、しかも指揮者が「あの」塩田さんだったので「うわあ、これ塩田さんの動き見ちゃう、邪魔!」と正直思ったのですが(頭と手くらいしかみえないオケピにいる時ですらあの派手な振りは目立つのに、ジャンプとかしながらノリノリで踊ってるのが全身はっきり見えてしまったらついついそっち見てしまいますわ……)。序曲が終わったところでオケごと鳥かごですっぽり覆うようなセットが出てきたので「素晴らしい!」「塩田さんを檻で封じるとは!」と美術さんのアイデアに心の中で拍手しました。おかげでまったく塩やんが気にならず生徒さんの演技に集中することができましたよ……。

ラスト、セシリイの家庭教師プリズムが実はブラックネル婦人の妹の赤ちゃんを駅で見失ってしまって、それがジャックだった、つまりジャックはグウェンドレンの従兄弟でアルジャノンの実の兄だったと発覚する……というあたりでパーンと舞台枠の電飾が点いた時は「歌舞伎の提灯か!」「河竹黙阿弥か!」と思わず心の中でツッコミましたけど。まあこのとってつけたようなハッピーエンドもまた古典ミュージカルらしさですかね。「ザ・宝塚」の「新春公演」といった感じで、気持ちのよい観劇初めとなりました。

トップの明日海りおさんはやはり歌が上手いので歌い始めるとすごく気持ちよく声に身を任せることができますね。キャラとしてはカッコイイ役では決してないのだけど、真面目なんだけどちょっと頼りなく、時々息抜きのために嘘はつくけど基本的には誠実、といったキャラをコミカルかつ上手に演じていたと思います。スーツをピッとやる仕草とかも普段ならちゃんとカッコよく見えるのに、今回はちょっと背伸びしてカッコよく見せようとしてる男の子、といった感じで可愛らしくて良かったです。娘役新トップの花乃まりあちゃん、お姫様・お嬢様キャラよりは意地悪な役とかしたたかな役とか、アクのある役のほうが似合いそうな雰囲気。個人的には好きなタイプですが、好き嫌いは分かれそうかも? 次回作は海賊モノだからハマりそうな気はしますね。

カーテンコールで明日海さんが「今日は魔の2日目でしたが、みんな怪我なく終わってホッとしています……」と挨拶されていました。宝塚みたいにクオリティが一定してるように見えるカンパニーでも、やっぱり2落ちとかあるんだなー、なんてことをちょっと思いました。


宝塚花組『Ernest in Love アーネスト・イン・ラブ』

原作/オスカー・ワイルド
脚本・作詞/アン・クロズウエル
作曲/リー・ポクリス
日本語脚本・歌詞、演出/木村 信司
翻訳/青鹿 宏二

[解 説]
 オスカー・ワイルドの喜劇『まじめが肝心』を原作に、アン・クロズウエルが脚本・作詞を、リー・ポクリスが作曲を手掛け1960年にオフ・ブロードウエイで上演された、陽気でお洒落なミュージカル。
 宝塚歌劇では2005年に梅田芸術劇場メインホール、および日生劇場で上演されて以来、久々の再演となります。花組新トップコンビ明日海りお・花乃まりあのお披露目公演です。

宝塚ジャーナル : 新花組トップコンビ朗らかにお披露目『Ernest in Love』