歌謡ファンク喜劇「いやおうなしに」@KAAT


Only Love Hurts(元・面影ラッキーホール)の楽曲をそのまんま使った音楽劇、しかもこのキャスト! ということで企画発表の時から楽しみにしておりました。もともと面影ラッキーホールのオリジナルアルバムはすべて買ってiPodに入れてたような私ですから、そらもう期待も高まろうというものです。
まあ、ひとことでいえばひどい話でした。ギリギリのところで家族の体を保っていたダメな一家、イビツな歪んだ形でしか愛情を表現できないダメな夫婦など。それぞれの思う「愛」の形に真剣に向きあえば向き合うほど、周囲を巻き込みながら自分自身を壊していく人ばかりが登場。シリアスにやれば息苦しさしかないような話を、歌謡ファンクでにぎやかにショーアップして描いています。面ラホの歌詞を知ってるので、まあ、だいたいこういう世界観とこのくらいの下ネタレベルにはなるだろうなと予測はしてましたけど、キャストの顔ぶれだけで見に来てしまった人はさぞ胸焼け感でいっぱいになったのではないでしょうか。子どもの虐待を描いた「ゴムまり」の歌詞なんかは、正直ファンとはいえ「この曲だけは、無理」と思ってるくらいのアレな内容ですからね……。

「歌詞もほとんどそのまま使う」という前情報は聞いていましたが、予想以上に「面影ラッキーホールのカタログミュージカル」という仕上がりになっていて、なんというかまあ感慨深い気持になりましたよね。カタログミュージカル(ジュークボックス・ミュージカル)といったら「マンマ・ミーア!」のABBAとか、「We Will Rock You」のQueenとか、「TOMMY」のThe Whoとか、まあ誰もが知ってるような大御所アーティストの楽曲しか使われないわけですよ、普通。日本でいえば松任谷由実とか尾崎豊あたりの楽曲使ったミュージカルがありましたが、まあそのクラスですよ。それがまあ、こんなにもアングラなバンド(失礼、でもファンだから言える……)の楽曲をがっつり使った舞台になるとは、しかも全国ツアー規模の商業演劇になるとは、と、何かもうそれだけで冷静な気持では観られない私でした。

歌詞はところどころストーリーにあわせた改変もありましたが、まあ7〜8割はそのままでしたね。おおむね「おお、うまくストーリーにつなげたなあ!」という脚本で、面ラホファンとしても満足度は高かったです。ただまあ細かいコト言うと「オランダ花嫁」は終盤で分かるあの事実を考えるとどうなの、なくても良かったんじゃないの、という気もするし、「セカンドのラブ」はカラオケでワンコーラス歌っただけ、という流れだったので何もこの曲でなくても感もありました(あとどうせなら女性に歌って欲しい曲でもあり)。女性3人で熱唱する「今夜、巣鴨で」がクライマックス感ありすぎてその後のテンポがちょっと悪く感じてしまったかなあというところもありましたが、まあそれでも概ね満足な内容でありました。

役者として印象に残ったのはやはり高畑充希ちゃんでしょうか、ビッチな女子高生が自分の股を指さしながら「私のここ、愛のブラックホールは〜」と歌い上げるのはかなりインパクトありましたよね。NHKの朝ドラであんなに清楚な役やってたのに同一人物とは思えません。キョンキョンが面ラホのあの歌詞を歌い上げるのも良かった。古田さん&トモロヲさんは面ラホが似合いすぎて違和感無しでしたが。やーでも楽しそうで良かったなあ。クライマックスで高田聖子さんが三宅さんに言う台詞の凄み、半端無かった。それまで半分ギャグに見えていたものが一気にシリアスに変わる瞬間。さすがとしか言いようがない。

以下、ちょっと曲順が違ってるところもあるかもしれませんが、使用曲リストです。

【第一幕】

  • 俺のせいで甲子園にいけなかった
  • 好きな男の名前コンパスで腕に書いた
  • あんなに反対してたお父さんにビールを注がれて
  • 一人暮らしのホステスが初めて新聞を取った
  • オランダ花嫁
  • 北関東の訛りも消えて
  • ゴムまり
  • 愛のブラックホール(=愛のキサナドゥ)
  • 必ず同じところで

【第二幕】

  • セカンドのラブ
  • おみそしるあっためてのみなね
  • パチンコやってる間に生まれて間もない娘を車の中で死なせた……夏
  • 今夜、天使は悪魔に負けない
  • あたしだけにかけて(〜俺のせいで甲子園に行けなかった)
  • 今夜、巣鴨
  • いやおうなしに(新曲)

http://www.parco-play.com/web/play/iyaou/

parco produce 歌謡ファンク喜劇「いやおうなしに」
脚本:福原充則
演出:河原雅彦
音楽:Only Love Hurts面影ラッキーホール
出演:古田新太小泉今日子高畑充希三宅弘城、高田聖子、山中 崇、政岡泰志、駒木根隆介、三浦俊輔、高山のえみ、田口トモロヲ

O.L.H.(面影ラッキーホール)の
リアルでおバカでオモロイ歌詞と妙に懐かしいメロディに、
今最も豪華でアブないキャストが大集結。
ダメな男と女の、やるせない物語を馬鹿馬鹿しく紡ぐ。
これぞ、歌謡ファンク喜劇!



一部の演劇人の間で圧倒的な人気を誇るファンクバンド、「面影ラッキホール」。
「好きな男の名前腕にコンパスの針でかいた」
「あんなに反対してたお義父さんにビールつがれて」
「俺のせいで甲子園に行けなかった」
といった曲タイトルからも汲み取れるように、独特な歌詞とレトロなメロディラインが醸し出す
世界は衝撃的で、一度聴いたら忘れられない音楽です。

この世界の魅力に取り付かれた演劇界の鬼才・河原雅彦が、
満を持して「面影ラッキーホール」の世界を渋谷のど真ん中、パルコ劇場の舞台で描きます。
タッグを組むのは、同じく「面影」に囚われた気鋭の作家・福原充則。

これでもかというような悲惨な目に会おうとも、力強く、ふてぶてしく、そのあまりのたくましさに
思わず笑ってしまうほどの登場人物たちを「面影ラッキーホール」の音楽に塗れながら演じるのは
演劇界屈指の実力派の俳優たち。見事なまでに「面影」の世界を体現します。
絶望を繰り返し、そこから立ち直ることにとりつかれた、
そんな人間たちの切なくて哀しくて可笑しな物語をご堪能下さい!