ハムレット@彩の国さいたま芸術劇場


出典:日本経済新聞 彩の国シェイクスピア・シリーズ番外編「ハムレット」

蜷川幸雄演出、藤原竜也主演で12年ぶりに「ハムレット」を再演。と聞いた時はそれはもうテンションがあがりましたよね。なにせ12年前のハムレットがあまりに素晴らしく印象深いものだったので。ただまあ今回は海外公演もあるとのことで完全に新演出バージョン、前回とは別物でありました。(以下、演出について大きくネタバレしてるところもありますので、未見の方はご注意を)
まあ結論から言うと12年前のあの興奮は今回は無かったなあ、という感じです。もちろん役者さんは素晴らしいし比較対象さえなければそんなにがっかりするような内容ではないんですけれども。今回も「滝の白糸」「太陽2068」のセットを使いまわしていたのはかなり新鮮味に欠けるとはいえ、「ザ・ベストオブ蜷川」といった蜷川演出集大成的な作品だと言えばその通りですし。歌舞伎や能を意識した効果音やお経のようなBGMの入れ方とかも、いかにも和風で海外に持っていく蜷川さんの代表作としてはまあ、アリ、でしょう。ふだん蜷川作品を見てない方なら新鮮に楽しめたんじゃないかと思います。背景の長屋の輪郭を消したりはっきりさせたりというあたりの照明の使い方は素晴らしいなと思いました。

が、個人的には気持ちよくこの演出にのっかることができませんでした。「19世紀の長屋の美術の前で現代の役者たちが最後の稽古をしています」という設定らしいのだけど、蜷川さんお得意の入れ子構造とはいえ「別に『稽古』って言わなくてもいいんじゃ?」と思ってしまったり。またフォーティンブラスの演出意図もよくわかりませんでした。いままでは暴走族風の風体で荒々しく乗り込んできたりなど勇壮な演出の多かったフォーティンブラスが、半裸(あるいは白シャツを羽織っただけ)でカゲロウのようにひっそりと立って呟くような小さな声で台詞を言う、というこれまでとは正反対に振り切った演出。いまひとつその意図が腑に落ちず、モヤモヤした気持が残ってしまいました。トータルの演出や美術の面ではやはり12年前の四方囲みの舞台にフェンスのみというあのシンプルな美術のほうが、役者や物語をくっきりと見せてくれたように思います。

役者さんについていうと、藤原竜也平幹二朗のふたりが突出して凄すぎて、なんかもうそれだけが印象に残りかねない感じです。鳳蘭横田栄司の2名はさすがに拮抗するテンションで芝居してたけど、それ以外の役者さんはいまひとつ印象に残りにくい感じ。12年前のハムレットのときは「父を失った子供たち(ハムレット、レアティーズ、オフィーリア)」に焦点を当てた青春の悲劇といった構成だったと思うのだけど、今回はデンマーク王家の3人(ハムレット、クローディアス、ガートルード)が中心のドロドロの葛藤モノという印象でしたね。寝室でハムレットがガートルードを責め立てるシーン、もうハムレットが母親の股に割ってはいって腰を突き上げる動きまでしてましたからね。もともと近親相姦のにおいのする場面ではあるけれど、あんなにはっきり犯してるような演出を観たのは初めてでした。

まあハムレットの竜也くんが凄いのは前回同様なんだけれど。見方によってはトゥーマッチとも言えるほどの演技の熱さで、twitterではこのハムレットを「笑ってはいけない藤原竜也3.5時間」と評している人もいてちょっと笑ってしまいました。まあそれにしてもすごいのは平幹二朗さん。81歳なんですよね。2幕の懺悔シーン、井戸端でバッと衣装を脱ぎ捨てたと思うと、自ら大量の水を頭からかぶって水垢離。さらに荒縄で背中を叩いて自らを痛めつけるという場面には、さすがに客席も大きくどよめいていました。本人のアイデアでの演出というけれど、この歳でこの演出、(いろんな意味で)大丈夫か……!と度肝を抜かれました。いままでクローディアスの懺悔なんて正直全然印象に残ってなかったんですけど、「本気で後悔してる」感のある演出で、かなり印象に残りました。

オフィーリアの満島ひかりちゃん、映像作品は良いので期待していたのだけど。見た目はきれいで文句無しなんだけど、「尼寺へ行け!」のハムレットの激しい罵倒の後、「気高いお心が砕けてしまった……!」と嘆く場面の演技トーンが竜也くんと差がありすぎて。もう少し激しく嘆いてくれないとバランス悪いなー、とちょっと不満。レアティーズの満島真之介くん、まあ悪くなかった。声の通りも良かったし。実の兄弟だからもっとエロエロな演出にしてくるんじゃないかと思ってたんだけど(グリークスで寺島しのぶ尾上菊之助を蜷川さんが演出したときは相当エロかったので)、そうでもなかったな。王家のほうが陰惨だからポローニアス一家は清廉な感じに演出したんでしょうか。

ホレーシオの横田さんがメガネかけてインテリ風だったのが「衣装さんナイス……!」と思いました。これは萌える。ホレーシオがハムレットを慕う気持がすごく伝わってくるので、ハムレット×オフィーリアの恋愛ドラマよりもハムレット×ホレーシオのブロマンスのほうが強く印象に残る感じです。ふたりのシーンの安定感ときたらない。

なお日経の劇評ではほぼ絶賛という感じでした。全面的に好意的に解釈されていてなるほどなーと。舞台写真あり。

あと、12年前のハムレットを観た時の覚書が残っていましたのでこちらもご参考まで。チケット1回しか取ってなかったのに、なんやかやで3回も見に行ってたんですね……。早朝から千秋楽の当日券に並んだのはこの時くらいだったと思います。
http://d.hatena.ne.jp/tcd/20031126
http://d.hatena.ne.jp/tcd/20031205
http://d.hatena.ne.jp/tcd/20031214


彩の国シェイクスピア・シリーズ番外編
ニナガワ×シェイクスピア レジェンド第2弾
ハムレット
http://hpot.jp/stage/hamlet

2015年春、「ハムレット」新演出にて上演決定!
蜷川幸雄生誕80周年を飾る、シェイクスピア不滅の金字塔。
演出家・蜷川幸雄氏が80歳という記念すべき歳を迎える2015年、世界各国を巡るワールドツアーを含む数々の周年記念作品が企画されていま す。その1作目を飾る本作で、ハムレット役を演じるのは12年ぶり2度目となる藤原竜也。日本演劇界を代表する豪華キャストを得て、新たな1ページを刻み ます。日本国内ツアー後、台湾公演2015 Taiwan International Festival of Arts、ロンドン公演bite15への参加が決定。進化し続ける蜷川幸雄の、新たな伝説が始まる!

【キャスト】
ハムレット    :藤原竜也
オフィーリア   :満島ひかり
ガートルード   :鳳蘭
クローディアス  :平幹二朗
レアティーズ   :満島真之介
ホレーシオ    :横田栄司
フォーティンブラス:内田健司
ポローニアス   :たかお鷹

山谷初男 大門伍朗 塾一久 廣田高志 間宮啓行 妹尾正文 岡田正 清家栄一 新川將人 星智也 野口和彦 浦野真介* 手打隆盛* 堀源起*  松田慎也*  砂原健佑* 竹田和哲* 他
*…さいたまネクストシアター

【スタッフ】
演出 蜷川幸雄
演出補   井上尊晶
作     W.シェイクスピア
翻訳    河合祥一郎

美術    朝倉 摂 中越
照明    服部 基
衣裳    前田文子
音響    井上正弘
ヘアメイク 河村陽子
擬闘    栗原直樹
演出助手  大河内直子
舞台監督  小林清隆
プロダクション・マネージャー 金井勇一郎