ハイバイ「ヒッキー・カンクーントルネード」


出典:TPAM 国際舞台芸術ミーティング in 横浜 より

再演が繰り返されているハイバイの代表作、ようやく観ることができました。横浜公演はTPAM(国際舞台芸術ミーティング in 横浜)の一環としての上演というわけで、英語・韓国語の字幕もついていました。客席にも外国人のお客さんが多かったようですね。

あらすじはPerforming Arts Network Japanのページに詳しくオチまで書いてありますのでそちらを参照していただくとして。ざっくり言うと引きこもりの青年がいる家庭を描いた物語でした。ハイバイの「て」もそうなんだけど、笑えるんだけどツライ、ツライんだけど笑える、というギリギリのラインで描写されてるのが良かったです。家庭という最小単位の社会における地獄を、ユーモアを交えた軽妙さで描いていました。
母親になった今、どうしても「ああ自分の子どもがニートになったら私は一体どうするかなあ」という視点から見てしまうので、お母さんが公衆電話で夫に訴える悲痛な叫びについつい感情移入してツライ気持になってしまいますが。一方でニートの登美男の痛みも丁寧に書かれていたと思います。単に働くのがイヤでダラけてるわけでなく、引きこもりの状態を是としているわけでもなく。「玄関先での宅急便の応対に出る」というごく簡単なことすら苦痛で、汗をかきながら勇気を振り絞り、それだけのことにすっかり疲れてしまう様子を見れば「ああこれは外に出るのは無理だなあ」と納得させられます。妹の綾の優しさも救い。ただ現時点だけ切り取ればそれは救いではあるけれど、将来的なことを考えるとその優しさもただ残酷なだけなんだよなあ、と色々考えさせられてしまったり。

ラストでは近くの公園に「みちのくプロレス」が巡業に来てるということで綾を追って登美男も外に飛び出していくという救いのあるラスト(以前の演出でははっきり外に飛び出した描写は無かったようだけど、今回は外に出て行く場面があったと思う。海外向けにわかりやすくしたという話も?)。正直なところ少し拍子抜けしたというか、あれだけハードルの高かった壁を乗り越える瞬間なのだから、もう少し演出に一工夫欲しい気もするなあと思わないでもなかったけれど。まあみちプロ見たさでは仕方ないのかもw

ハイバイ『ヒッキー・カンクーントルネード』
国際舞台芸術ミーティング in 横浜 2015
TPAMディレクション 野村政之ディレクション
@KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ
http://hi-bye.net/2015/01/04/4520
http://www.tpam.or.jp/2015/program/tpamdirection/nomura/hibye/

作・演出:岩井秀人
出演:田村健太郎、岡田瑞葉、松澤匠、平原テツ/チャン・リーメイ

舞台監督:谷澤拓巳
照明:松本大
照明操作:和田東史子
音響:中村嘉宏
衣裳:小松陽佳留
字幕:門田美和、鄭亜美
制作:三好佐智子、富田明日香、藤木やよい
製作:有限会社quinada、ハイバイ
協力:至福団、松本デザイン室、une chrysantheme、Love&Light

2003年初演。平和と経済発展は幸福に関わる条件には違いないが、すなわち幸福とはいえません。今なお社会に潜在する「引きこもり」の視線を通して、家族関係や日常のコミュニケーションにはらまれる躓き、齟齬、矛盾をつぶさに取り出し、軽やかなユーモアとともに日常を生きることの重みを示します。