宝塚雪組「ルパン三世/ファンシー・ガイ!」


出典:コミックナタリー「ルパンが歌って踊る!宝塚のルパン三世は18世紀フランスへタイムスリップ」

いやあ面白かった。予想以上でした。
宝塚で「ルパン三世をやる」と聞いた時は「相棒」「逆転裁判」あたりに続くチャレンジャー企画だなあと思ったものですが。さすがアラフォーオタク女子の星・小柳奈穂子先生の演出はイチから十まで「うん、わかってらっしゃる!」という感じで、ズバズバと狙いが決まってる感じでした。今まで宝塚見てきた中でも稀に見るドタバタ喜劇で、幕が下りた瞬間に同行の友人と「あーあ(笑い疲れてため息)」「いやー」「さすがだね」と口々に言い合うほどでした。

以下、ネタバレありますのでご覧になる予定の方はご注意を!
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ストーリーは「王妃の首飾り」を美術館に盗みに入ったルパン一味と銭形警部が、首飾りの魔力でルイ16世のいる時代のフランスにタイムスリップしてしまうというもの。ルパンたちは現代に戻るために錬金術士と呼ばれてはいるが実は詐欺師、というカリオストロ伯爵の一味と手を組んで、ハプスブルグの秘宝「マリアの涙」と「首飾り事件」の首飾りを手に入れようとする。そんな中でマリー・アントワネットに出会い惹かれたルパンは彼女の命を救おうとして……? といった内容。

美術館の警備員に変装していたルパンと次元が、その変装を解いて赤ジャケットと黒スーツになった瞬間にピンスポットがバーン! 同時に例のテーマ曲が「ルパンザサーーーーーー!」と生オケ大音響で始まる、そして警官隊の群舞をバックにルパンたちが銀橋へ……というオープニングには「キターーー!」と心を鷲掴みにされましたよね。うん。ベタベタだし予想通りなんだけど、もうこれしかない! という安定感。何より生オケで聴くあのテーマ曲のカッコよさよ。「宝塚の様式美」と「アニメ・ルパン三世の様式美」が完全にマッチした瞬間だったと思います。

ルパンをやると聞いた時は「オーシャンズ11」みたいな怪盗モノになるのかと思いましたが、「フランス革命の時代にルパンたちがタイムスリップする」と。相当に荒唐無稽な話だなと思っていたのですが、こうしてみてみると完全に「宝塚の土俵」で勝負するための離れ業だったのだなあと。この設定さえ受け入れてしまえば、もはや無理なく宝塚ワールド全開で戦えるわけですものね。ルパンたちもそれぞれロベスピエールたちから奪った中世風の衣装を着こなして、それぞれの個性をちゃんと残したスタイリングが素敵でした(中世風の黒衣装&帽子でタバコをくゆらす次元のカッコイイこと……!)。何より、「ベルサイユのばら」を確実に見ているヅカファンには時代背景の説明が不要、フェルゼン伯爵だのロベスピエールだのという登場人物の説明を完全に省いて展開できるっていうのは話が早くて素晴らしいなと思いましたね。そして衣装と美術の面でも「ベルサイユのばら」「スカーレット・ピンパーネル」のものをそのまま使いまわせるというのは、実は予算面でも大きかったのではないでしょうか。

最初は未来に戻ることが目的だったものの、ルパンの目的は「マリー・アントワネットを救うこと」に変化し、フランス革命が起こる8年後にタイムスリップ。このあいだ銭形警部は兵士に身をやつしてずっとルパンが現れるのを待ってる……というところで歌い上げる「銭形マーチ」、そして歌から雪崩れ込むように銭形が革命軍の群舞の先頭に立って叫ぶ「シトワイヤーン!」。それはもう完全に「ベルサイユのばら」の名場面バスティーユ襲撃ダンスのパロディなものだから、腹筋壊れるかと思うくらい笑いましたよね。肩震わせて笑いこらえてるの私と同行者くらいだったの何でだろう、あんなに可笑しいのに。さらにマリー・アントワネットを処刑台から救い出した後、死体(に見せかけた人形)を運んでる荷車の場面も、完全に「スカーレット・ピンパーネル」の冒頭シーンのパロディだったし。いやもう、クライマックスでこの仕打はひどい(いい意味で)。そしてこれを見逃すために8年間身をやつしていた銭形の心意気にも「とっつぁん……!」と涙を禁じ得ないし、レミゼのジャベールがバルジャンを見逃す場面もかぶってきたりして、もうミュージカルファン的には泣き笑いもいいところですよ。盛り上がりすぎて疲れる!

山田康雄(あるいは栗田貫一)の独特の台詞回しもうまいことモノにしつつ、単なるモノマネでなく「ルパン」のキャラクターをちゃんと表現してた早霧せいなさん、見事でした。声はさすがに似てないのですが口調はちゃんと寄せてたし、何よりスタイルと動きがちゃんとルパンだというのが凄い。あの長細い足とさらに細い足首、そして「ルパンの走り方」がちゃんとアニメ通りに再現されてるのには驚きました。マリー・アントワネットに「私の将来はどうなるの?」と無邪気に聞かれた時に一瞬言葉を詰まらせながら「家族と末永く幸せに暮らしたそうだよ」と優しく答えるシーン、なんともルパンらしいじゃありませんか。銭形警部も下睫のつけまつげを二重にしての役作り、いやもう何からなにまで素晴らしい。次元や五エ門も台詞は多くないながら、舞台上に佇む姿がアニメさながらで、ついついオペラグラスでそちらを見てしまいましたよね。アクションシーンで敵に囲まれながら背中合わせになる場面の絵になること。カリオストロ伯爵も最初はケチな詐欺師かと思いきや、エピローグで美味しいところもっていきますしね。不二子ちゃんもお色気は控えめながらも、お約束の色仕掛けアリ、そして裏切りアリ。ああもういちいち「うん、わかってらっしゃる!」という感じでした。

ラストはあのテーマ曲にあわせてルパンが歌い上げるエンディング。アニメのエンドロールのようでいいまとめ方でした。そして幕が降りる瞬間、後ろ姿で歩いて行くルパンがジャンプして踵をカチッとやる「あの」仕草まであって、もうニヤニヤと拍手が止まりませんでしたね。いやあ、お見事でございました。ほんとコレはイロモノ見たさでも怖いもの見たさでも話のネタでもなんでもいいので、宝塚ファン以外にも観て欲しいとおもうような作品でした。意外な宝塚の懐の深さに驚くんじゃないかと思いましたよ。

小栗旬主演の映画版「ルパン三世」については未見なのですが、やはり「あの曲」を使えなかったのは痛かったのではないでしょうか。あのテーマ曲を生オケの大音響で、というだけで七難隠す勢いでしたから。パンフレットに寄せられた作曲者大野雄二氏のコメントによると「この楽曲が使えないと企画そのものが成り立たない」という宝塚側からのオファーがあったということらしいので、宝塚の製作陣も企画の時点からちゃんと「音楽の力」が分かってたんだなあと思いました。

もうひとつ宝塚版ルパンの勝因としては「ドタバタアクションコメディ」に徹したところじゃないかなと思うんですよね。ヘタにカッコよさやスタイリッシュさを追求してない印象でした。トップ(ルパン)、二番手(銭形)、三番手(カリオストロ)の三者がやや三枚目よりの二枚目半を演じるという異色作。映画版は「カッコイイ絵をドヤ顔で連発されて逆にかっこわるい」といった批判を見かけたこともありましたが、宝塚版は「ふだんカッコよさを追求してるはずの男役がコメディに徹する」ことで成功してたように思いました。小柳先生はいま宝塚でコメディやらせたらナンバーワンの演出家といっても過言ではないのではないでしょうか。(ファンとしては小柳先生のオリジナル作品もっと観たい、という気持もありますけれど)

正直、ルパン三世で盛り上がりすぎてしまって、後半のショーはほとんど余韻の中で見てるような感じで実はあんまり印象に残ってないんですけれども。いやー本当に楽しかった。もう一回観たい……。

宝塚雪組ルパン三世 ―王妃の首飾りを追え!―』
http://kageki.hankyu.co.jp/lupin/
http://kageki.hankyu.co.jp/revue/409/

【配役】
ルパン三世早霧せいな
マリー・アントワネット:咲妃みゆ
銭形警部:夢乃聖夏
峰不二子:大湖せしる
カリオストロ伯爵:望海風斗
石川五エ門:彩凪翔
次元大介:彩風咲奈

マリー・ルゲイ:舞咲りん
ロアン枢機卿:蓮城まこと
ロベスピエール:香綾しずる

【スタッフ】
原作:モンキー・パンチ
脚本・演出:小柳 奈穂子
オリジナル作曲:大野 雄二
作曲・編曲:青木 朝子
音楽指揮(宝塚):佐々田 愛一郎
音楽指揮(東京):御粼 惠
振付:AYAKO、KAZUMI-BOY
殺陣:栗原 直樹
装置:二村 周作
衣装:有村 淳
照明:勝柴 次朗
音響:大坪 正仁
歌唱指導:山口 正義
映像:奥 秀太郎
アクセサリー協力:KEULA[ku:la]