カタルシツ「地下室の手記」@赤坂RED THEATER


出典:イキウメ 公式サイト 2013年初演時の舞台写真

イキウメの別ユニット『カタルシツ』名義で、前川知大さんがドストエフスキーの「地下室の手記」を舞台化。2013年の初演が評判良かったので今回の再演を初めて見に行きました。今で言えば「ひきこもり」「ニート」の主人公が、WEBカメラを前にニコニコ生放送らしきインターネット中継で自分のことを独白するという内容。親の遺産で地下室に引きこもりはじめた主人公の男の屈折した独り語りに、ニコ生の横断字幕が重なって時々視聴者のコメント(主にツッコミ)が入っていくという演出でした。
若いころに持て余していた自意識を思うと「ああーわかるわかる……でも痛い……」と共感と苦さと痛みを感じるところの多い主人公の独白。今はさすがにもうある程度解消してるので笑って見ていられましたが、十代後半から二十代前半の最もこじらせてた時期に見ていたら心に痛すぎて笑えなかったに違いないような気がします。男の独白だけだとさすがに気が滅入る作品になっていたかもしれませんが、「視聴者のコメント字幕」がいい具合にツッコミ役となって笑いを誘い、鬱々とした空気を和らげていたように思いました。ただまあ「kwsk」(=詳しく聞かせて)「乙」(=おつかれさま)「888888888」(=パチパチパチパチ、拍手)といったネットスラングが解説無しに入るので、その辺の文化に馴染みのない層には伝わらない部分もあったのかもしれないなあともちょっと思いましたが。まあでもこの「手記」をインターネットのストリーミング放送に変えてしまうアイデアは面白いなーと思いました。

後半は回想シーンに風俗嬢との出会いのエピソードがあり、初演ではここに女優さんが登場して二人芝居になっていたようですが、今回は完全に「いる体で」演じている一人芝居でした。風俗嬢が家を訪ねてくる場面、一人芝居だと「妄想乙」というか主人公の妄想なのか実際あったエピソードなのか、一瞬ちょっと判断しかねるとこもあるので、ふたり芝居バージョンのほうがその辺は説得力があったのかもしれませんね。作品のテーマや設定的には一人芝居のほうがキレは良いかと思うので、どっちが良いとは言いかねるのですが。

いやしかし一人芝居でほぼ2時間、この肥大した自意識と自尊心を抱える鬱屈こじらせ中年を演じる安井順平さんはほんとすごいなーと。初演時にこれで読売演劇大賞の男優賞取ったのもうなずけます。いくら役を演じてるだけとはいってもこの役に2時間(しかも日によっては1日2ステで4時間)どっぷり浸かるのは、自我と役の切り替えのできるタイプの役者さんだとしてもしんどかったんじゃないのかなあ、と。なんというか「お疲れ様でした……」という感想が真っ先にでてきますね……。

カタルシツ「地下室の手記

原作:ドストエフスキー光文社古典新訳文庫地下室の手記安岡治子訳)
脚本・演出:前川知大
出演:安井順平

http://www.ikiume.jp/img/chikasitu.jpg
(2013年初演時の情報はこちら