デスノート THE MUSICAL @日生劇場

2013年末にTwitterでこんなことをつぶやきました。


企画が発表された時は目を疑ったというか「なにそれ正気?」って気持ちが真っ先に浮かびました。なにせ作詞家、脚本家、作曲家がブロードウェイの人々で、あの「デスノート」を舞台化、しかもミュージカル! って言うんですからね。キャストが出揃ったらほぼミュージカル畑の人だらけだったので、いわゆる2.5次元ミュージカルというよりは一般ミュージカルファン向けの企画なのかなあと思ったわけですが。しかし鹿賀丈史さんが夜神総一郎というのは予想の範囲内でしたが、吉田鋼太郎さんがリューク役というのにはさすがにTwitterのTLもザワつきましたよね……。

というわけで半ば「怖いもの見たさ」「ツッコミどころ満載の事故ミュージカル」見たさで、半分はワイルドホーン好きのミュージカルファンとしての素直な興味で、実際に舞台を見てきました。まあ良かったのか悪かったのかさほど事故ってはいませんでした。さすがに歌えるキャストとまともなスタッフがそろってるだけあって聴き応えはありましたねえ。

(以下、ラストに触れるネタバレありますのでこれからご覧になる方はご注意を)
原作の魅力である頭脳戦の部分(そしてシリアスなギャグの部分)はかなりざっくりカットされてて完全にダイジェスト、その代わり登場人物の心境を楽曲で繋いでいく感じの構成でした。まあミュージカル化するとしたらそうだよなあ、そうなるよなあ、という感じで予想の範囲内ではあるのですが。基本的に登場人物は原作第一部の人たちだけですが、南空ナオミやヨツバグループのエピソードは完全にカットされています。「リンド・L・テイラーのTV中継」「月とLのテニスバトル」あたりの原作エピソードはちゃんと盛り込まれているものの、「ポテチの袋の中でノート記入」はカット。FBI捜査官大量殺害とレイ・ペンバーのエピソードは出てくるものの、その手法はざっくりと省略されて簡素なものに。ミサミサ逮捕後はすぐに月とLが直接対決してラストを迎えてしまいます。

広げた大風呂敷をどうたたむのかと思いきや、このラストの展開が「いくらなんでもちょっと雑すぎやしないか……!」とツッコミたくなるものでしたね。ネタバレを書いてしまいますが、月はレムにLの名前を書かせてLを殺害、これがミサを守るための行為にあたるためにレムも砂になって死亡。あっさり月の勝利かと思いきや、リュークが「なんか、飽きちゃった」といった理由で月の名前をノートに書いて月も死亡……終わり! っていう展開です。心の中の松田優作も「なんじゃこりゃぁぁぁ!」と叫ぶというものです。

トリックが雑すぎる、というのもありますが、このラストでは本編のテーマもボヤけてしまうよなあ、と思いました。原作を知らずに舞台版だけ観てると月もLも天才的な頭脳の持ち主には見えないし、あの展開でも月の死には生前Lが打った手が機能してるように見えないとダメなんじゃないかなあと、ちょっと思ったりしましたね。せめてリュークが月を殺すのにももう少し説得力が欲しかった。そこまでは面白がってたのに突然「飽きちゃった」はねえだろうと。最終的に「悪魔の気まぐれに付き合わされた人間の悲哀」みたいな話になってしまって、「行き過ぎて歪んだ正義は善か悪か」の命題はどっか行っちゃうんですよね。最後の最後で原作とテーマがブレてしまった気がして、なんとも言えないモヤモヤが残りました。

ただまあ「歌を聴きたい」というミュージカルファンならなかなか楽しめる作品だったんじゃないかとは思います。繰り返されるフレーズの耳残りは強力で、終演後もしばらく何曲かが頭の中をぐるぐるしますし。Wキャスト主演の月役は柿澤勇人さんで観たわけですが、さすがに上手いです。舞台写真みる限り浦井健治さんのほうが月のイメージに近い感じなのでそっちも観たかったなあと(今まで観た浦井さんの役がバカキャラが多かったのでどうも月のイメージじゃないなあとかっきーにしてしまったわけですが)。L役の小池徹平さんもあの独特のLの動きをちゃんと再現してて予想以上にハマってました。しかし月とLのテニスバトルシーン、ふたりが歌いながらテニス対決始めた時は予想してたとはいえちょっと笑いそうになりましたよね。「テニミュか……!」と。

他の舞台なら主演級の濱田めぐみさんがレム役?とキャスティングを観た時は疑問に思ったわけですが、ソロ曲もデュエット曲もあって原作より存在感のあるレムになっていました。さすがに上手い、聴かせます。吉田鋼太郎さんのリュークとレムのデュエット曲、2人の歌唱タイプが違うのでどうなんだろうと思ってましたが、意外にもハマっていて面白い仕上がりになっていました。楽しかった。

まあしかし吉田鋼太郎さんリュークのうるさいこと(褒め言葉)。ミサミサのライブ場面では楽しそうに踊ったりして舞台荒らしもいいとこ。シリアスな展開の中、コメディリリーフとしてひとりのびのびと遊んでる感じでした。ミサミサは原作よりもバカっぽさが薄れてキラへの一途さだけが強調された感じ。なので「月とLの高度な頭脳戦の中に放り込まれた危うい不確定要素」としての面白さは無かったかなあ。ただ歌は上手くてレムとのデュエットなどなかなか聴かせてくれました。夜神総一郎の鹿賀さん……ワイルドホーンの曲を歌ってるといつのまにかジキルとハイドに変貌しそうな気がするんですが気のせいですか。

演出と美術はもう少しゴスゴスしさが欲しかったなあ、特にミサの衣装はもうちょっとゴスっぽくないとなあ、とか、「月の普段着がもっさいチェックのシャツにパーカーとか、そんなの原作にあったか? これじゃまるでITエンジニアじゃね?」とか、萌える群舞場面が少ないなーとか、細かい不満もあるにはあるのですが。まあ総じて「危惧してたほどひどくはなかったし楽曲は結構好きだけど、リピートはないな」という感想でした。

デスノート THE MUSICAL
http://deathnotethemusical.com/

【キャスト】
夜神月  :浦井健治柿澤勇人(Wキャスト)
L    :小池徹平
弥海砂  :唯月ふうか
夜神粧裕 :前島亜美
レム   :濱田めぐみ
リューク :吉田鋼太郎
夜神総一郎鹿賀丈史

【スタッフ】
音楽:フランク・ワイルドホーン
作詞:ジャック・マーフィー
脚本:アイヴァン・メンチェル
翻訳:徐賀世子
訳詞:高橋亜子
演出:栗山民也
音楽監督:ジェイソン・ホーランド
指揮:塩田明弘
美術:二村周作
照明:勝柴次朗
音響:山本浩一
衣装:有村淳
ヘアメイク:鎌田直樹
映像:上田大樹
振付:田井中智子
歌唱指導:ちあきしん
演出助手:豊田めぐみ
舞台監督:加藤高

Death Note Musical NY Demo - 英語歌詞のデモトラックが数曲聴けます。
「デスノート THE MUSICAL」浦井健治ver.
「デスノート THE MUSICAL」柿澤勇人ver.