「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」

かつて「バードマン」(=バットマンを思い起こさせるアメコミヒーロー)役として一世を風靡した俳優が、老いて再起をかけ主演・脚本・演出でブロードウェイデビューしようとするが……という物語。なるほどこれは「オヤジ版ブラック・スワン」だなーという印象の映画でした。主人公が精神状態を追い込まれて見る妄想のような描写やヒリヒリする感じがちょっと近い感じ。まあブラック・スワンほどのホラー感は無くて、ユーモアで全体を包んだブラックコメディという感じはするけれど。
演劇バックステージ物なのでそりゃもう演劇ファンとしてはワクワクする場面が結構あります。なにせブロードウェイのSt.James劇場で撮影してるだけあって、通りを挟んだ向こう側にはマジェスティック劇場のファントムの看板やシューバート劇場のマチルダの看板が見えるしで、それだけで演劇好きとしては「ファーーーーーー!」って気分になっちゃうわけで。劇場の舞台裏、舞台の袖、楽屋、ステージドア、劇場街の空気感、もうなにもかもが「ああ、もうこの空間観てられるだけでウットリ」な気分ですよ。まあそんなうっとりするような雰囲気の映画じゃあないんですけども。もうなんなら主人公の葛藤とか置いといて背景美術に全集中力を使うくらいの勢いだったり(それがこの映画の正しい楽しみ方かどうかはおいといて)。

とはいえ「アカデミー賞受賞作だから」という理由だけでこの映画を観る人が楽しめるのかどうか、というと話は別なわけで。正直演劇やショウビズに興味がない人の視点だと面白いのか面白く無いのかさっぱりわからない映画なんじゃないかなぁーという気がしなくもないです。単純に物語やテーマ性を求めるならオスカー候補作だったイミテーション・ゲームの方がなんぼかわかりやすく面白い気がしたんですよねえ。ちょうど2日前に観たばかりだからつい比べてしまいますけど。これ、好きな人はすごく高評価するだろうけど、そうでない人にとってはびっくりするくらいつまんない映画なんじゃないかなあーと。

まあそもそも「今は落ちぶれたかつての娯楽作の人気主演俳優」がいきなり文芸作家の作品を自分で脚色・演出してさらに主演して舞台にアーティスト気取りで登場するとか、演劇ファンから観たら完全に地雷案件でしかないわけで。劇中劇というか映画中劇も(わざとなんだろうけど)すっごくつまんなそう。「それ、こんなキャパの大きい劇場でやれる演目なの? オフの小劇場ならともかく」「しかもプレビュー前日に共演者が降板とか、もう終わってんな」「舞台なめんなよ」ってニヤニヤしながら遠くで見守る系ですよ。批評家タビサがバーで言う台詞、主人公視点では辛辣でしかないけれど内心「そうそう……」と思っちゃう演劇ファン心理。まあだからこそその後の主人公の台詞にガツンと一撃くらったりもしてしまうのだけど。

全編1カットに見えるように繋いだという編集もまあ、すごいはすごいんだけど今の技術ならこのくらいはできるだろうなあという範囲。まあそういう意味では一本に繋げられるように書かれた脚本のほうがすごいとも言えなくもないです。1カットにすることによって時間経過がわかりにくくなったりする場面もあるので、効果的かどうかはちょっと謎ではあります。編集で1カットにつなげた2時間よりは実際に長回し一発撮りした3分のほうがすげえって思うこともあるし。まあそういう意味では実際に長回しで一本撮りきった三谷さんとかほんとすごいと思うけど。
でもドラムだけの劇伴は文句なしにカッコ良かったなあ。


映画の後にgoogle Mapで劇場のストリートビュー見ながら「あー主人公がうっかり閉めだされた時に通ったのここかぁー」ってニヤニヤしたのは私だけじゃないはず……。