イキウメ「聖地X」


出典:日経新聞「劇団イキウメ「聖地X」 日常の隣にある怪異、死と記憶巡る快作 」

2010年の「プランクトンの踊り場」の改訂再演ということですが、初演は見ていないので今回が初見です。タイトルは前作より今回のほうが内容を直接的に表してる気がしましたね。今回もドッペルゲンガーを題材にしたSFホラー系の設定ではありますが、「片鱗」「関数ドミノ」あたりと比べると怖さ成分は少なめ、「SF=すこし不思議」的な雰囲気で、どちらかといえばユーモラスな雰囲気で楽しく観られる内容でした。あとで公演概要を確認したら、しっかり『SF 推理「喜劇」』とありましたね。
あらすじ(ネタバレ含みます)。
風俗で金を使い込んだ夫の滋に愛想を尽かした要は、親の遺産でのうのうと暮らす兄・輝夫がいる実家へ帰る。同じ町ではもうすぐオープンしようとしていた飲食店があったが、ここで奇妙な現象が起きていた。シェフの藤枝が自分のドッペルゲンガーを観て心を病んでいたのだ。要はこの店で夫の滋を見かけるが、夫はその時東京で仕事をしていた。東京の滋に電話してその所在を確認した輝夫と要は不審に思う。藤枝を気遣うオーナーの島は不動産屋に店のいわくを調べてもらう。たまたま輝夫の同級生だった不動産屋、島、輝夫、要はこの店で過去に起こった奇妙な現象について話し合い、ひとつの仮説をたてる。「この場所では思い込みが現実になる」「思い込みによって現れたドッペルゲンガーがお互いに出会うと、重複した記憶のせいで混乱を起こす」といった具合に。何も知らない隣人の若者で仮説を検証した彼らは、滋のドッペルゲンガーと本体を統合しようと試みるが、藤枝のようにならないためにと考えだした対策は「重複した記憶を分離するために3人目のドッペルゲンガーを作りだす」というものだった……

要役の伊勢佳世さんと輝夫役の安井順平さんが演じる兄弟の軽妙なやりとりがユーモラスで、楽しく観ることができました。安井さんの役はカタルシツ「地下室の手記」に出てきたような「親の遺産でのうのうと暮らすニート」なのでちょっと前作と地続き感があるのですが、今回のはあそこまでこじらせてなくて普通にコミュニケーション能力がある感じでした。

3人目のドッペルゲンガーを創りだして1人目と2人目を統合する……という発想は予想外で面白かったのですが、あの3人目結局どうなったんでしょうね。ほとんど出来損ないの入れ物といった感じで、輝夫は「これは人じゃない、ただの記憶だ。CDRと一緒だ」と消そうとするのですがやはり最終的に殺すことはできず。要が「3人目」を受け入れて暮らしていくような台詞もあったような気もしますが、それも無茶だよなあーと思ったり。うーん。

冒頭とラストで全てを解決した後のエピソードが語られ、店を更地に戻した後に大きな石を置いてしめ縄をまき、小銭を置いてありがたい雰囲気にしておく……というものがあり、「過去に何かが起こったいわくつきの場所」「使わない方がいい、入らないほうがいい土地」には何かこういう目印がある、といった物語なのですが。コレ、ingressやってるとすごく分かるというか、「ああ、知ってる、そういうポータルいっぱいある」と思っちゃうんですよね。ビル街の中に不自然に残ってる古い鳥居や石碑、きれいに区画された新興住宅地なのにそこだけポツンと避けるように空いてる祠……ああ、あれも「何かあったから使えない場所」なんだなあ、とそんな風に思いました。同じ回を見ていた観劇仲間はingressじゃないけど御朱印帳集めが趣味の方で、やはり同じ感想を抱いたとのこと。神社や寺もきっとそういう場所に建ってるものがあるんでしょうね。


劇団イキウメ「聖地X」
http://www.ikiume.jp/pdf/seichiXkouengaiyou.pdf

作・演出:前川知大
出演:浜田信也 安井順平 伊勢佳世 盛 隆二 岩本幸子 森下 創 大窪人衛 橋本ゆりか 揮也