パレードへようこそ


なぜか演劇クラスタの友人たちがこぞって絶賛していたこの作品。別に舞台やミュージカルに関するものではないのですが、イギリスの炭鉱ストが題材なので、「リトルダンサー」「ビリー・エリオット」とつい重ねて見てしまうところが大きかったのでしょうね。評判を聞いて観に行きましたが、いやあ良かった。登場人物がみんな愛おしくなるようなエピソードの数々、そして様々な苦難や挫折の果ての胸熱のラスト。あまり事前に情報を入れずに観に行ったので、ラストで初めて事実に基いて作られた作品であることを知って一気に涙があふれました。

もう素晴らしいシーンが多すぎて数え上げたらキリがないのだけど。支援に感謝するためにやってきた炭鉱夫のダイが初めて訪れたゲイ・バーでスピーチする場面、ユーモアもまじえつつもまったく無駄な言葉のない素晴らしいスピーチだった。あれは人の心を動かす説得力があるなあと。ウェールズの炭鉱町での歓迎会、最初は冷えきっていたのに、ジョナサンのダンスをきっかけに空気がほどけていく場面も良かった。ウェールズのおばちゃんたちがロンドンに遊びに行ってエロ本やバイブを見ながらキャアキャアとはしゃぐシーンも可愛らしかったし、クリフがサンドイッチをつくりながら「私はゲイだ」とカミングアウトすると経フィーナがさらりと「知ってたわ」と返す場面もいい。マークのスピーチの後にウェールズの人々が「Bread and Roses」を歌いだすシーンも素敵だった(動画あり)。

炭鉱ストが負けてしまうのは歴史的事実なので、どう物語をたたむのかなあ、このまま負け戦のまま終わってしまうのかなあと心配になっていたけれど、ラストはレズビアン&ゲイのパレードの場面。ウェールズの仲間たちがバスに乗ってこのパレードに参加するという胸熱な展開に、もう一気に涙があふれるというものですよ。そしてテロップで同性愛者たちの権利が向上することやそれぞれの登場人物のその後が語られて、もうそれにいちいちいちいち「ああ、良かったねえジョナサンは存命なのね」「マークが26歳でエイズで死んじゃうとかツライ」「シャンが大学を出て議員になったとかスゴイ」と泣きながら噛み締めていました。

ロンドンの同性愛者のグループと、ウェールズの炭鉱町の人々というまったく接点のない人たちが、たまたま出会って交流を深めていき、最後にはかけがえのない友情を手に入れるという物語。そう書いてしまうとちょっと奇想天外な話のようでもあるけれど、丁寧に人物描写やエピソードが積み重ねられていてすごく良かったです。切なさも哀しみもたっぷり味わいつつ、最終的には心が洗われるような気持ち良いラストを迎えられるという素晴らしい映画でした。

「パレードへようこそ」(原題:PRIDE)
http://www.cetera.co.jp/pride/

監督:マシュー・ウォーチャス
脚本:スティーブン・ベレスフォード
撮影監督:タト・ラドクリフ
美術:サイモン・ボウルズ
衣装:シャーロット・ウォルター
編集:メラニー・アン・オリバー
音楽:クリストファー・ナイチンゲール
キャスティング:フィオナ・ウィアー

■STORY
http://www.cetera.co.jp/pride/story.html
 1984年、不況に揺れるイギリス。サッチャー首相が発表した20カ所の炭坑閉鎖案に抗議するストライキが、4カ月目に入ろうとしていた。ロンドンに暮らすマーク(ベン・シュネッツァー)は、その様子をニュースで見て、炭坑労働者とその家族を支援するために、ゲイの仲間たちと募金活動をしようと思いつく。折しもその日は、ゲイの権利を訴える大々的なパレードがあった。マークは「彼らの敵はサッチャーと警官。つまり僕たちと同じだ。いいアイデアだろ?」と、友人のマイク(ジョセフ・ギルガン)を強引に誘い、行進しながらさっそく募金を呼びかけるのだった。
 パレードの後、“ゲイズ・ザ・ワード”での打ち上げパーティで、マークは“LGSM(炭坑夫支援レズビアン&ゲイ会)”を立ち上げる。だが、参加を表明したのは、書店主のゲシン(アンドリュー・スコット)と彼の恋人で俳優のジョナサン(ドミニク・ウェスト)、唯一の女性のステフ(フェイ・マーセイ)、両親に秘密で初めて参加したジョージョージ・マッケイ)を始め、たった9人だった。
 バケツを手に街角で集めた寄付金を送ろうと、全国炭坑労働組合に連絡するマーク。ところが、何度電話しても「レズビアン&ゲイ会」と名乗ると、「後でかけ直す」と切られてしまう。ここロンドンでも、まだ「ヘンタイ!」と罵声を浴びせられる彼らは、組合にとっては異星人に等しかった。
 炭坑に直接電話すればいいんだ! またしてもマークのアイデアで、ウェールズの炭坑町ディライスの役場に電話すると、あっさり受け入れられる。数日後、ディライス炭坑を代表してダイ(パディ・コンシダイン)がロンドンまで訪ねてくる。「それでLGSMって何の略?」と訊ね、Lはロンドンの略だと思っていたと唖然とするダイ。だが、彼に偏見はなかった。その夜、生まれて初めてゲイ・バーを訪れたダイは、大勢の客の前で「皆さんがくれたのはお金ではなく友情です」と熱く語る。
 ダイの感動的なスピーチのおかげでメンバーが増え、LGSMはディライス炭坑に多額の寄付金を送る。支援者への感謝パーティを企画した委員長のヘフィーナ(イメルダ・スタウントン)は、「絶対にもめごとが起きる」という反対を押し切ってLGSMの招待を決定するのだった。
 ミニバスに乗って、ウェールズへと出発する主要メンバーたち。ジョーは両親に調理学校の実習旅行だと嘘をつき、故郷ウェールズの母親との確執を抱えたゲシンは留守番だ。やがてバスはウェールズに突入、平原の中どこまでも続く一本道を行き、ついに炭坑町に到着する。
 委員長のヘフィーナや書記のクリフ(ビル・ナイ)が温かく迎えてくれるが、会場を埋める町人たちの反応は冷ややかで、マークのスピーチが終わると、続々と退場して行く。しかし、翌日になると、好奇心を抑えきれない人々が、彼らに様々な質問を投げかける。「どちらが家事をするの?」など無邪気な疑問に答えるうちに、互いに心を開き始めるゲイと町人たち。さらにジョナサンがダンスを披露、歓迎会は大喝采のなか幕を閉じる。
 だが、組合と政府の交渉は決裂、ストは42週目に入り、サッチャーは組合員の家族手当を停止する。再び町を訪れたマークたちがさらなる支援を決意した矢先、町人の一人が新聞に密告、「オカマがストに口出し」と書き立てられ、LGSMからの支援を打ち切るか否か採決がとられることになる。今や町人たちと深い友情で結ばれたメンバーたちは資金集めのコンサートを企画するが、その先には思わぬ困難が待ち受けていた──。