劇団☆新感線「乱鶯」

古田さんのザ・座長芝居!といった感じで、古田新太ファンとしてはとても堪能いたしました。ただものすごく面白かったかっていうと正直なところいささか物足りない部分や、ややしっくりこない点があったりもしましたね。観劇前に聞こえてきた周囲の感想の通りだったなーという感じです。「鬼平の出てこない鬼平犯科帳」という声もありましたが、まさにそんな世界観だったなあ、と。

盗賊のリーダーだった鶯の十三郎(古田新太)は、北町奉行所の黒部源四郎(大谷亮介)と通じていた仲間の裏切りにあって、瀕死の重傷を負う。武士の小橋貞右衛門(山本亨)、居酒屋鶴田屋の勘助(粟根まこと)と妻のお加代(稲森いずみ)によって命を救われた十三郎は盗賊から足を洗い、鶴田屋の料理人となり勘助の死後お加代とふたりで店を切り盛りしていた。店にやってきた役人の小橋勝之助(大東駿介)がかつての恩人の息子だと知った十三郎は、彼が追っている盗賊・火縄の佐吉(橋本じゅん)を捕らえるために協力する……といった物語。
見どころはやはり古田さんの殺陣。冒頭とラストにたっぷりと見せてくれる殺陣はもうさすがのひとこと。うっとり。物語は中島脚本の時の新感線と比べると比較的わかりやすく、あまり難しいこと考えずに観ていられる感じ。演舞場の客層にも見やすい芝居だったんじゃないのかなあと思います。

ただ、そこが普段の新感線を見慣れてるファンにとってはやや物足りなくもあり。後半の展開はとくに一本一本丁寧にそれとわかるフラグを立ててそのとおりに展開していくから、いつもの「ここで裏切り!」「ここで闇堕ち!」みたいな新感線の油断ならない展開に慣れていると「あ、このフラグ通りに進みますか……そうですか……いや、いいんです、それが普通なんですが、そうですか、そのまま行くんですね……」みたいな気分になってしまうのが正直なところ。

あと、ちょっと前半しっくりこなかったのは十三郎のキャラ。綿密に時間をかけて計画をねり、人を殺さずに悪党からだけ金を盗む……といったいわば義賊のリーダーが、居酒屋の料理人となる、そこまではいいんだけど。冒頭のイメージからするとあまり余計な口はきかず寡黙な板前になったほうがしっくり来るんだけど、意外におしゃべりで軽いキャラになって鶴田屋に馴染んでるのが引っかかった。しかも盗賊についての知識をぺらぺらっと口にしちゃうのも、展開のために必要なんだろうけど「丁寧な仕事をする盗賊の割には口が軽すぎやしない?」と疑問に思ってしまったりね。後半の丹下屋でのスパイとしての役割についても、この設定ならもう一捻り欲しいなあといったところ。

ラストシーンの展開も「えっここで黒部さんノコノコ来ちゃうの?」と正直思ったけれど、「花火がドカドカ鳴る中で対峙するふたり」の絵ヅラがカッコ良かったのでまあそれはそれで良し!と思いました。筋としては納得しかねるけど演出がそれならアリにしよう、的な感想でした。

まあ3階席で観てたのでコストパフォーマンス的には満足行く内容ではありました。さほど中だるみを感じる場面もありませんでしたし。とはいえ内容の割に3時間半はちょっと長いかなあ、後半は特に筋が読めた状態で展開するので、もう少しサクサクと進んでもいいんじゃないかな、全体で3時間程度にまとまってたらもう少し楽しめたんじゃないかなあ、と思いました。