ズートピア(2D吹替版)

いやー面白かった!
もう無駄も隙もない完璧すぎる脚本。大人の目から見れば深いテーマを扱いながらも、子どもの目から見ればスリル満点の捕物帳だし、モフモフな動物の可愛らしさや刑事バディ物としてキャッキャと萌えることすらできる、という、なんだかもう全方位に向けてよく出来過ぎてる作品で、素直に「いやー、参った、参った!」と諸手を上げて賞賛したくなる作品でしたよ。

田舎から列車に乗って都会のズートピアに向かう場面の美しさといったらなかったなあ(上の動画の場面)。雪と氷のツンドラタウン、熱帯雨林のレインフォレスト地区などを通りぬけ、街の中心にたどり着く、水の中から出てくるカバは水をエアーでふるい落とし、小さいネズミはチューブから出てきて……と、「サイズや生活環境の違う動物たちが一緒に暮らす街」の様子が描かれる場面の、このファンタジー的なワクワク感ときたらね! この世界観といいCGの美しさといい、ああもう最高!

……とジュディと一緒に胸を高鳴らせていると、警察では一転して「ウサギ(女)に対して厳しいマッチョな男社会」という、女性社会人視点でみれば「あるある……」な描写。キツネのニックが「狐の言うことは信用できない」と誰からも思われてるという点も含めて、「差別と偏見の物語」というテーマが明確になってくる。しかも、これが「差別に負けずに努力すれば夢は叶う」なんていう単純な物語じゃなくて、中盤でジュディが無自覚に口にした言葉で今度は別の差別を引き起こし、せっかく信頼関係を築いたニックとの仲が壊れてしまう……というハードさ。誰しも無自覚に持っている差別と偏見に対して切り込んでいく、この展開はすごいなあと。

最終的に行方不明事件は解決するものの、この「差別と偏見」の根本的な部分は無くなるわけではない。ユートピアとはとても言えないこの世界で私たちは生きていかなければならない、でもせめてこの世の中でより良く生きていくために、「たとえ負けることがあるとしても諦めずに何だってやってみようよ」(主題歌 Try Evrythingの歌詞より)……というのがこの作品のメッセージなのかな、と思いました。まあ基本的なテーマはあくまでディズニーの王道中の王道ですよね。

しかし近年のディズニーの長編アニメ、いよいよ「夢と魔法」じゃなく「知恵と努力」で問題を解決するようになってきたなあと、そんなことを思いました。ラプンツェル、シュガーラッシュ、アナ雪まではなんやかやラストに魔法の奇跡があったけど、ベイマックスズートピアは奇跡に頼らない展開でしたね。困難を打ち破るのは、魔法でも奇跡でもなく人間(ズートピアでは動物だけど)の知恵と勇気。ディズニーは時代の空気を読んで脚本を作ってるんだなあということをひしひしと。

いろんな種類の動物が集まって暮らす街というのは人種のるつぼであるアメリカの投影だし、「(角のサイズからしてたぶんオスなんだけど)歌姫としてカリスマ的存在の歌手のガゼル」とか、オス同士で同居してるジュディの隣人(ゲイかも?)とか、オスなんだけどちょっと女の子っぽい仕草のクロウハウザーとか、LGBT的な面での多様性についてもほんのり描いてる。「多様性を受け入れる街」の描写は、子どもがそうと気づくレベルではないんだけれど、こっちの方面でも隙がないなーとそんなことを思いました。

しかしまあいちいち挙げるとキリがないくらい伏線の張り方が上手すぎる。ジュディの録音機能付きのにんじんペンの使い方も、ブルーベリーの使い方も、冒頭のお芝居もミドニカンパムホリシシアスの球根も、張った伏線はすべてもらさず刈り取って二毛作三毛作と使うくらいの勢い。Storyクレジットが7人いるだけあってさすがによく出来てる……!

そんでもって小ネタも随所に。「ミュージカルみたいに歌えば奇跡が起きるとでも思っているのか、現実を受け入れろ、ありのままに」とか(アナ雪への皮肉?)、海賊版のディズニーアニメDVDのタイトルが近作のパロディだったり、コソ泥イタチのウィーゼルトンが名前を間違えられて怒るのがアナ雪ウェーゼルトン公爵のパロディで、吹替声優も一緒だったり(英語版も吹き替え版も一緒みたい)。英語版は関係ないけど吹き替え版では警察学校の鬼教官の声がシュガーラッシュの女軍曹の声だったりもしたな。オッタートン夫人はラプンツェルにそっくりだったりとかも。まだまだあったと思うけどキリがないな……

で、ニックのキャラが良すぎてね……。詐欺師のいい加減なキツネかと思いきやそれは過去のトラウマからきたもので、本来はレンジャーを目指す純真な少年だったとか、最終的にはその知恵でジュディを助けて警官になるとか、あと声が森川智之さんとかね……! あの声で「もう、がんばりやさんなんだから」とか言われて頭ポンポンされたら惚れざるを得ないやろアホか! ってなりますわ。エンドロールみながら「もうこの最高の映画にはお金を落とさねばならない」と謎の義務感にかられてしまったし、売店にニックのグッズ並んでたら「ここからここまで全部ください」ってやりかねない勢いだったよね……。

まあ最終的にニックも警官となったわけでこれはもう続編待ったなしな勢いですよね。ピクシブTwitterでは「ニクジュディ」のタグで二匹の甘々な二次創作絵が量産されているけれど(それはそれでおいしくいただいてるわけですが)、あくまで彼らはカップルじゃなくバディとして、ズートピア2で華麗な活躍を見せてほしいと切に願うわけであります!男女バディ物はつかず離れずの段階が一番萌えるんだよ!