宝塚雪組「ドン・ジュアン」@KAAT


出典:Lマガジン Lmaga.jp

いやはや凄かった……なんか凄いもの観たな、というのが第一印象でした。かなり宝塚らしくない、にも関わらず観客大絶賛という珍しい舞台です。まあ何が凄いってとにかく主演の望海風斗がすごい。熱演。もともと歌もうまければ演技も上手い人だとは思ってましたが、二番手じゃなくセンターに立つとまあこんなにも凄いのかと。いつもはやはり主演を立てて抑えてるんですなあ。男役のキザなポーズや仕草はほとんど封印して、むしろ嫉妬に悶えるあたりの演技なんかは完全にカッコよさかなぐり捨てて本気で懊悩してる感じでしたねえ。ラストの死に際ももはや藤原竜也の死に際かと思うくらいのテンション(いや褒め言葉です)。声量もすごいから、歌い上げる場面でほんと劇場の空気が震えたと思いましたよね。鳥肌。ストーリーは観念的でちょっとアラや突っ込みどころもあるんですけれど、そういう不満を全て望海風斗の歌声と熱演でねじ伏せた、それはもういっそ気持ちよくねじ伏せられた、そんな作品でした。
主人公はかなりのクズオブクズでとにかく女をとっかえひっかえ抱いては捨てていく、とか、幼少期に母親を犯してそれが原因で母は自殺している、とか、主人公もヒロインも他に配偶者(あるいは婚約者)がいるのにそれを黙って愛し合っちゃうとか、「清く正しく美しく」の宝塚のすみれコードがまったく仕事してない感じでした。男女が絡むシーンでも通常よりかなり濃厚に胸や腰を触ってる感じでしたし。通常は本編終了後に短いショーがあるのに作品の余韻を重視したのかそれもなく、ショーなしでカーテンコールというのも宝塚としては異例。普段だったらショーが無いなんてとんでもない、それが楽しいのにと思うところですが、今回は「この感動のままカーテンコールの拍手を贈らせて!」という気持ちだったので、ほんとショーが無くて正解でした。

雪組は組子の半分がこのドン・ジュアンで、半分はトップコンビとローマの休日をやってるんですよね。まあどう考えても爽やかであろうローマの休日と、このドロドロにエロく濃厚なドン・ジュアンの対比がすごい。雪組のプロデューサーは本当に有能! そして組の半分しかいないのにこれだけ歌中心のミュージカルを聴かせる雪組のメンバーも凄いなと思いましたよね。層が厚いというか。アンサンブルもフラメンコのサパテアードと力強い歌声で、ものすごい熱気を感じる舞台で良かったです。カンパニーの団結力と気合を感じましたねえ。

演出でいうと冒頭で巨大な薔薇の花がバーンと飛び散って主役が登場するのがまさに「爆誕!」て感じでちょっと笑いましたが。まあしかし盆をうまく使ったスピーディな転換といい、熱気あふれるサパテアードといい、全体的にいい演出でしたね。不満があるとすれば二番手ドン・カルロ(彩風咲奈)がドン・ジュアンの妻エルヴィラ(有沙瞳)に思いを寄せてるような演出だったんですけれど、歌詞や台詞の内容から考えてもカルロはドン・ジュアンに友情以上の熱い気持ちを抱いてたほうが面白いんじゃないの?と思いましたよ。おそらく小池先生や小柳先生なら迷わず腐女子ウケするそういう演出にしただろうと思うのですが。ドン・カルロは歌も多いし、そういう関係性にすればカルロの届かない想いの切なさとか渇望とかも際立つのになー、ヒロイン以上に二番手が目立っていいのになー、生田先生はそのへんストレートなのね……とそんなことをちょっと思いました。

まあしかし公演初日からTwitterでツイート検索してるとほんと「騒然!」て感じでしたね。とにかく大絶賛と「やばい」といった雰囲気のコメントが多数。「だいもんが薔薇から爆誕」「だいもん(望海風斗)がさきちゃん(彩風咲奈)を押し倒して跨ってた」「朝チュンのシーンの寝顔やばい」「カリ(煌羽レオ)の腹筋やばい」とか流れてきて「KAATで何が起こっているんだ……」てなりましたよ。

雪組公演 『ドン・ジュアン』 | 宝塚歌劇公式ホームページ
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