この世界の片隅に

クラウドファンディングで制作費の一部を集めた、のん(能年玲奈)ちゃんが声優をつとめた、のんちゃんの以前の事務所とのアレコレのためにマスコミであまりとりあげてもらえないけれどSNSから火がついて……などのポイントで話題になった映画。Twitterでも観た方が次々絶賛するので(このパターン今年はシンゴジラやら君の名はなどで見た気がするけどまたか!なやつ)、そんなら間違い無いだろうと観てきました。

昭和初期、広島から呉に嫁いだすずさんの、戦時下での日常を丁寧に丁寧に描いた物語。とはいえ反戦映画にあるようなドギツイ悲劇が扇情的に描かれるわけではなく、一部悲劇もあるけれどそれすらも日常の中で淡々と描かれていく感じの物語でした。徹底して庶民目線で、まさに「この世界の片隅に」生きているひとりの女性の視点で見えるものしか描いてないわけですね。観てる間は穏やかな心持ちで観ていたのですが、終わってから何かジワジワジワジワと効いてくるタイプの作品でした。「描写が丁寧で緻密」とか「絵柄や主題歌の雰囲気が絶妙」とかそりゃあ褒めるところはいくらでもあるのだけど、それだけではこの作品から受けた印象をうまく語り尽くせない、そんな映画だったように思います。

あとから原作を読んだのですが、遊郭の白木リンさんとのエピソードがちょっと省かれているくらいで、ほぼ原作通りの内容だったのですね。原作は原作で素晴らしいのだけれど、よくこれをここまで見事に映像化したなと思いました。連載作品のために一話一話でそれなりに完結している物語を、うまく一本の流れにした時間の流れ方が上手かったのかなーとそんなことも少し思いましたけれど。戦争中とはいえ日常にはちゃんと笑いもあって、悲劇ばかりではないことがなんだか染みました。あと戦争の始まる前はモボやモガもいて豊かな生活をしていたこともちょっとウッと来ましたよね。私たちの今の生活も戦争が始まってしまえばほんの数年で一気に配給とモンペの生活になっちゃうんだってこと。

終盤、戦災孤児になってしまった子(←この時点で育児中の母親としてはもう泣かずにはいられないところ)を周作とすずが連れて帰るところ、そしてシラミだらけのその子を疎まずに自然に受け入れる北條家のやさしさ、死んだ晴美の服を「小さいかなぁ」と言いながら出してやる径子に、一気にたたみかけられてブワーッってなっていたのですが、さらにエンドロールのところでその晴美の服に裾が長く継ぎ足されていたのを見て「ウワーーーン」って完全に涙腺破壊された感じでした。北條家のみなさんありがとう……!って死んだ母親の気持ちで泣きましたよね。素敵な映画でした。