宝塚花組「雪華抄」「金色の砂漠」

観劇初めは宝塚花組! 贔屓の組なのですが和物ショーと聞いた時は正直「うへー、和物かー、見なくてもいいかな……」と思ったものです。それでも芝居の方が上田久美子先生の作品だし設定も面白そうだし、というわけでまあB席ならよかろうと観に行きました。結果、和物ショーも大変おもしろく観られて結果オーライでした!
最初にショーで後半に芝居、ってちょっと変則的で珍しい構成ですね。まあやっぱりフィナーレは大階段で羽根背負っておりてこないといけないから和物ショーの時は前半にやるパターンになるんでしょうか。「雪華抄」45分、「金色の砂漠」本編約95分、ショー15分、といったような配分だったかと思います。

チョンパ(柝の音と同時に明転して全員勢揃い)のオープニング、まあ華やかで良いですね。和装のジェンヌさんがずらりと舞台一面に並んでいて、お正月らしくて良かったです。まあこの次々と出て来る和装のお衣装がどれもこれも華やかで素敵でした。お衣装は今回丸山敬太氏のデザインということで、宝塚にもともとある衣装の仕立て直しも含めて400着(!)を作ったというから凄い。思わずパンフレットで衣装クレジット確認して「ひとりでこれを……?」ってなりましたもんね。

音楽も雅楽っぽいものばかりではなく和洋折衷でテンポの良いものも多く、45分の短さもあってあっという間のショーでした。楽しかった。桜→七夕→夏祭り→安珍清姫伝説→雪、といったようなテーマで展開して、四季折々な雰囲気も良かったですね。見応えのあるショーでした。和物でこんなに楽しいショーも珍しいというか。

さて期待の新鋭・上田久美子先生の新作「金色の砂漠」、これがもう……いい、最高でした。トップの明日海りおが奴隷役、そして娘役トップの花乃まりあが王女、その二人が繰り広げる愛憎劇……って、もう設定だけで完全にふたりにあて書きのキャラだってわかるし、「ごちそうさまです!」って言いたくなりますもんね。その誇りの高さゆえにどんどん屈折していく奴隷のギィとツンデレの王女タルハーミネはどこか春琴抄的な関係性でもあり。タルハーミネの婚約者テオドロスを演じるのが柚香光ちゃんなんですが、奴隷のトップさんよりもきれいな衣装のせいもあるけどあのキラキラ感すごい、王子オーラだしまくっててやばい。私が光ファンだったらもう息してない。下手でギィが弦楽器を爪弾いてて、中央でタルハーミネとテオドロスがひざまくらしてる場面の絵面、もう最高すぎてオペラでどっち観たらいいのかわからないやつでしたね。

(以下、致命的なネタバレありますので未見の方はご注意を)
さていよいよ明日は結婚式というその前夜に、ギィがいよいよタルハーミネを抱きしめて「嫌なら人を呼べばいい」はいキター!ハーレクイン展開キター!とわっくわく。翌日さっそくふたりの関係がバレてしまい、追い詰められたタルハーミネはテオドロスの言うままにギィの処刑を命じることに。拷問で痛めつけられたギィは王女アムダリヤ(仙名彩世)に助けられ、自身の出生の秘密を知ることになります。ギィは実は滅ぼされた先代の王とアムダリヤの間に産まれた子で、同じく奴隷のジャー(芹香斗亜)と兄弟だった……という衝撃の事実。アムダリヤは子どもたちを助けるのと引き換えに現在の王ジャハンギール(鳳月杏)の妻になることを受け入れたのだと言います。傷だらけの瀕死の身体で王城を逃れたギィは、盗賊の女に拾われ賊の一味に。王家とタルハーミネへの復讐を誓ったギィは数年後、王城に攻め込んで王を倒します。身分を失ったタルハーミネは砂漠にさまよい出て、それを追ったギィとともに砂漠の砂の中に消えていく……という展開でした(オープニングで砂漠に倒れていた死体がふたりだったことを匂わせて幕)。

あらすじでは枝葉を色々端折りましたが、三人の王女にそれぞれ三人の奴隷がいて、第二王女ビルマーヤ(桜咲 彩花)とその婚約者ゴラーズ(天真みちる)、ビルマーヤの奴隷ジャーがここだけ「善人チーム」という感じで、殺伐とした物語の中の一点のオアシスでした。狩りは苦手で奴隷にも飲み物持ってきてくれるゴラーズさん超いい人だし、お互い愛し合いながらも現実を受け入れるビルマーヤとジャーも大人だし、ギィ&タルハーミネのお互いを焼き尽くす勢いの業火カップルとものすごい対照的でしたね。そう、今回は結構主要登場人物が多くて、上田先生の前作「星逢一夜」がメイン三人しか印象に残らなかったのと比べると、美味しい役が結構あったなーという感じでした。95分に詰め込むだけ詰め込んだな!といった印象です。まあそれでも入り組んだ物語をしっかり把握できるように見せる手管も素晴らしかったというか。

それにしても、事前に各種レビューで知ってはいたものの、トップさんが奴隷役で四つん這いになって娘役に踏みつけられるって演出は「ヒェー!」となりますね。そしてスポットライトがあたらないまま四つん這いの姿勢で数分放置とか……上田先生、ドSやで……! その後も拷問でズッタズタに傷つけられたりとか、もうほんと痛めつけるにもほどがあるんですが、ズタズタにされればされるほど屈折した怒りを燃やすみりおの凄絶な美しさ……!最高……!「春の雪」でもそうだったけど、この屈折したみりおの魅力ってほんと凄いですね。こういうのが観たかったよ!ってなりましたもんね。「よくぞ!ここまであてがきで生徒に似合う役を書いて下さった!」という圧倒的感謝で、上田先生には足を向けて寝られない心持ちです。

なにせ明日海りおがトップになってから「エリザベート」「アーネストインラブ」「ベルサイユのばら」「新源氏物語」「ミーアンドマイガール」「仮面のロマネスク」と再演モノばっかりで、新作オリジナルは「カリスタの海に抱かれて」だけだったじゃないですか。花乃まりあちゃんだってせっかくのアクの強い魅力的なキャラなんだからもっと似合う役あるだろ、ってなるじゃないですか。そらエリザベートもミーマイも好きな作品だから好きな組で観られて嬉しいけれど、やっぱりオリジナルで当たり役が観たいじゃないですか……というここまでの悶々とした気持ちが、この「金色の砂漠」を観たらするすると成仏して、「ああ、これでもういつサヨナラ公演が決まっても悔いがない……」とまで思いましたからね。まあ欲を言えばもう一本小柳先生あたりにあてがきで何かオリジナルをお願いしたいところではありますが。花乃まりあちゃんは今回でひと足先にサヨナラですが、最後がこの役でほんと良かったなーと。愛憎入り交じって好きな相手を殺しかねない役、ほんとお似合いでした。

芝居の後のショーは本編の延長線上にある流れで、白装束のトップコンビ(つまり死んだ後で天国にいるふたりってことでしょうね)がキャッキャウフフと憑き物が落ちたような表情で戯れ舞い踊るデュエットダンス。まあ本編に救いがなかったからショーで気持ちよく終わりたいという展開なのでしょうね、これができるのが宝塚の楽しさ。階段降りも花乃まりあちゃんのエトワール→柚香光→芹香斗亜→明日海りお、の実にシンプルな順番で4番手以降はまだボカされたままでした。まあしかし柚香光ちゃんの華はほんとすごいな! 正直歌唱力とかもう一歩だったりするんだけど、圧倒的に目立つあのスターオーラ。観る度にどんどん目立ってきてて、ほんとどこまで輝くつもりなんでしょうかね……。もう押しも押されぬ三番手感というか、下手すりゃ二番手も食いそうな勢いで、今後が恐ろしくも楽しみであります。

なんかもう勢いだけで書いた感想でまとまりないですが、このまま推敲せず上げてしまいます。えいやっ。