ラ・ラ・ランド


この色彩豊かで群舞も華やかな予告編を観た時から、「ああこれもう絶対間違いないやつ、絶対に私が好きなやつ」と思っていたのですが。期待値を上げに上げていったにも関わらず、予想以上の出来でしたね。素敵な映画でした。いや、正直いうと中盤はちょっと冷静になってて「あれ? 冒頭1、2曲目は完璧だったけどその後がやや地味だな?」「ストーリーもごくごくありふれたやつじゃない?」「なぜこれがそこまで絶賛……」って思ってたんですよ、それがラストナンバーで一気に持って行かれてしまいましてね。あの演出は、もうなんというか、完璧通り越して卑怯、卑怯の域でしたね。
全体にいろんなミュージカル映画のオマージュが散りばめられていて、これミュージカル好きはほんと泣くやつです。私もすぐに作品名が思い当たったのは「雨に唄えば」や「ムーラン・ルージュ」くらいだったんですが、曲調はどこか「ロシュフォールの恋人たち」や「シェルブールの雨傘」っぽくもあり。他にも「ウェスト・サイド・ストーリー」「グリース」「スイート・チャリティ」「ブギーナイツ」ほか色々な作品の名シーンのオマージュが出て来るので、ぜひここの比較動画でご確認下さいませ。

さて以下ネタバレしていきますので未見の方はご注意を。

オープニングナンバーの「Another Day of Sun」、渋滞して動かない高速道路のドライバーたちが次々と歌い踊りはじめ、トラックからバンドも出てきて、最後にははるか遠くのドライバーまでが一斉に車上で踊り出す、というのが編集なしの長回しで展開する約4分間。クラクションが鳴ってドライバーたちが車に戻りドアをバタンと締めた瞬間、もう心の中ではスタンディングオベーションでしたよね。映画館だからやらなかったけど、舞台だったらもうこれショーストップな拍手が鳴り止まなかったと思います。なんというかもう、映画として完璧すぎませんかこのナンバー。トラックのドア開けた瞬間と、黄色いドレスの彼女の背中ごしに遠くまで車上のドライバーたちが一斉に踊ってる瞬間、もう半分泣いてましたからね。最高。最高すぎる。


このリハーサル動画、帰ってきてからもう何度観たかわかりません。

さらに畳み掛けるように二曲目、「Someone in the Crowd」。女優を目指すミアとそのルームメイトたちが原色の鮮やかなドレスを着て、シェアハウスの中から路上に出て踊り、さらにパーティ会場のプールサイドでの群舞への流れ。バズ・ラーマンの映画みたいなパーティで、あーもうどこを観て良いのかわからない! 1曲目も2曲目もそうなんだけど、編集に頼らず長回し一発撮りと思われる映像で「どんだけリハーサルやって撮ったんだよ!」というのが透けて見えるのがね、もう、大好き!

LAの街を見下ろす高台、日が沈むマジックアワーにふたりが踊る印象的な「A Lovely Night」のナンバーももちろん良かったし、ライアン・ゴズリングが歌う「City of Stars」も印象的だし、ラス前のエマ・ストーンが絞り出すように歌う「Audition (The Fools Who Dream)」もほんと良かったんだけど、まあストーリーそのものはシンプルなんですよね。夢を追いかけているけど「まだ何者でもないふたり」が、惹かれ合い、すれ違い、夢を諦めかける瞬間があり、だけどセブがミアの背中を押してくれて……、と。どちらかといえば陳腐なほどに定番なひねりのない展開で、まあデートムービーとしては完璧だけど、こうなるとちょっと期待しすぎたかなぁ……?

と思っていたら。ミアがオーディションを受けた次の場面がいきなり「5年後」。ミアは夢を叶えて女優になっていて、結婚して子どももいる、でも相手はセブじゃなくて……「えっ?」と思っていると、ミアと夫がふたりでふらりと入ったジャズクラブ、そこにはミアがかつてデザインした「SEBU’S」のロゴが。かつての夢を叶えて店主となったセブがピアノを引き始め、そのメロディに乗せて「あの時うまくいかなかったことが全て何もかもうまくいって、ふたりとも夢を叶えてふたりの関係もうまくいった場合」の人生が、ハッピーなミュージカルのように流れ出していく……という、この演出がね! もう! せつなすぎて胸が締め付けられますよ! すごくハッピーで多幸感あふれる演出だけに、現実との落差で泣いちゃうやつでした。ふたりともこれ以上はないという形で夢を叶えているのだからバッドエンドじゃないんですが、でも、「あの時夢を語った相手がそばにいない」、っていう切なさ。映画の中では語られなかったけれど、この空白の5年の間にどうにもうまくいかない何かがあったんでしょうね。せつない。切なぁーーーーい! NTLive「ザ・オーディエンス」で、エリザベス女王を演じるヘレン・ミレンのセリフに「生きられなかった人生は、誰にでもあります」っていうのがあるんですが、まさにこの「生きられなかった人生」を最後に一気に見せてしまうっていうこの構成に、完全にやられました。

セブのピアノの「City of Stars」のしっとりしたメロディも、多幸感あふれる賑やかな「Another Day of Sun」のリズムも、映画館を出た後に頭の中でぐるぐるぐる。ミュージカルとして完璧ですよ、このメロディの耳残り感。さっそくサントラ購入してしまいました。ミュージカル映画愛に溢れて、そしてクリエイター賛歌でもあり、夢を追いかける若者の応援歌でもあり、という素敵な映画でした。

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さてアカデミー賞は最多ノミネートでもう独走間違い無しの大本命と言われていましたが、残念ながら作品賞は逃してしまいましたね。今年のアカデミー賞はやはり昨年までの「白人しか俳優賞にノミネートされてない」件があった反動もあり、さらにトランプ氏が政権をとってしまって社会の分断が激しくなったという背景もあり、「助演女優賞」も「助演男優賞」も黒人が受賞、外国映画賞はイラン人監督作品「セールスマン」、長編アニメ賞は「ズートピア」が受賞する……と、「多様性に寛容な社会であれ」という意識の流れがあったように思いました。監督賞はデミアン・チャゼルが受賞したものの、作品賞については黒人少年を主人公とした「ムーンライト」が受賞、となりました。これが今年でなければたぶん「ラ・ラ・ランド」が受賞していたんじゃないかと思うんですけどね。そらもう映画愛とかクリエイター賛歌とかこれでもかってほどアカデミー会員の好きそうな要素詰め込んでますもの(正直ちょっとあざとくすら見えるほどに)。こればっかりはちょっと運が無かったなあーとそんなことを思いました。

ラ・ラ・ランド」もセブかミアのどちらかが黒人だったら……とちょっと思いましたが、セブが黒人だったら「自分のルーツである音楽を守る」っていう話になってしまってあの「夢を追いかける男のダメさ加減」が出なかったと思うし、ミアが黒人だったら「そもそもオーディションで黒人の枠がない」みたいな話になってしまってまたそれはそれで差別の社会問題性が強い話になっちゃうんですよね。もしそこまでやってたらアカデミー賞にもうひと押しできたのかもしれませんけれど、間口の広いデートムービーにはならなかっただろうし、なんともかんともですね。


帰ってからずーっと動画でサントラ聴いてます。もちろんCD買いますよ!(いま輸入盤の発送待ち)