「不信〜彼女が嘘をつく理由」


出典:エントレ「シリアスなのに笑える!? 三谷幸喜 舞台「不信〜彼女が嘘をつく理由」が開幕」

三谷さんの新作はシアターイーストというだいぶ小さなハコでの公演。人気作家があえて小さな劇場でやる公演が大好きなのでチケットをとってみました。が、うーん、結論から言うと物足りなさが残る内容でした。開幕直前の囲み取材で「脚本ができたのは昨日」みたいなコメントが冗談ぽく書かれてましたけど(真偽は不明)、そのせいなんでしょうか。通奏低音として全編はサスペンス風味、その上にこまめに笑いの入るコメディ、といった感じの舞台です。


以下、がっつりネタバレしますので、これから舞台をご覧になる予定の方はご注意下さい。(ネタバレ見たら面白さ激減するタイプのサスペンスですよ)



登場人物は二組の夫婦(段田安則&優香、栗原英雄戸田恵子)。役名がなく「あなた」「きみ」の会話で展開しているので以下俳優名で表記していきます。段田&優香夫妻はあるマンションに引っ越してきて、中庭を挟んでお隣の栗原&戸田の夫婦と知り合う。栗原&戸田の部屋はペットのヨークシャーテリアの匂いが臭くて息もできないほどで、段田&優香は戸惑う。ある日隣町のスーパーで買い物をしていた優香は戸田が万引きしているところを目撃する。それがどうしても気になる優香は、嫌がる段田を説き伏せて栗原に戸田の犯行を伝えに行く。栗原は妻の盗癖を知っていて、段田に口止め料の200万円を渡す。段田は1万円の高級クッキーを買ってそれを栗原にもらったことにして優香に渡し、199万円を自分の懐に隠す。栗原&戸田夫妻を招いたホームパーティの日、優香は箸置きや思い出のスノードームが無くなっていることに気づく。そして後日、戸田の部屋にそれらがあるのを見て、戸田に盗まれたと確信する。栗原が突然尿管結石を患って夫婦が病院に行って不在の隙に、優香は嫌がる段田と一緒に栗原夫妻の部屋に忍び込む。スノードームのオルゴール音を聞けばそれが盗まれたものかどうかわかるはず、というのだ。スノードームが盗まれた物だと確信する夫妻は、栗原夫妻のペットのヨークシャーテリアの呼吸音がおかしいことに気づき、籠ごと犬を連れて部屋に戻ってしまう。この時、優香たちの部屋でダイヤモンドゲームの駒を犬が飲み込んでしまい、それが原因で後日犬は死んでしまう。スノードームを盗まれた優香と段田は警察に通報しに行くが、その対応で出てきたのは「職業は公務員」と話していた栗原だった。栗原はこのことがきっかけで職を追われるが、戸田にはそのことを隠して探偵事務所で働きはじめる。栗原は中庭に池を作ろうと穴を掘り始めるが、それを「妻を殺してあそこに埋めるつもりだ」と思い込んだ優香はまた段田を連れて隣家を訪ねる。戸田はただ病気で寝ていただけであった。すごすごと家に戻る優香と段田。しかしこのことがきっかけで「妻を殺してもおかしくないほどの状況なのだ」と気づいた栗原は、それまで殺意が無かったにも関わらず戸田を殺してしまったことを独白する。これで一件落着と思いきや、段田は優香が「隣町のスーパーに買い物に行ったこと」を指摘。そこは安いスーパーではなく高級食材しか扱わないスーパーであったこと、そしてその食材は我が家では食べたことがないこと、電話が鳴っても家では取らないことを指摘して、妻の浮気を暴く。

と、ストーリー展開をざっくり説明するとそんな感じの内容でした。おそらく「万引き常習犯(クレプトマニア)の妻とそれを隠そうとする警察官の夫」の夫婦を異常者、それを暴く普通の夫婦、という対立構造にみせかけて、最後は「一見普通の夫婦に見えたふたりもお互いに嘘をついていた」というオチで驚かそうとしたんでしょうけれども。しかしそれにしては優香の行動がちょっとサイコパス的に見えるんですよね。「万引きを見たのは自分じゃなく夫ということにしてくれ」と段田に頼んでおきながら、段田が問い詰められて困っていると手のひらを返したような態度を取って「味方なのに後ろから斬りつける」みたいなことを平気でやるんですね。いくら盗まれた物を確認したいからって留守宅に勝手に忍び込むとか、しかも大事なペットをつれてきちゃうとか、なんかいちいち行動が「通常ありえない」ことばかりでイライラするというかザワザワするというか。コメディ的な演出としてやってるつもりなのかもしれないのだけど、もう冒頭からずっと「窃盗癖のある戸田」以上にこの優香のキャラのほうが「気持ち悪い」感じがするんですよね。だからラストにあのオチを持ってこられたところで「でしょうね?」としか思えなくて、何の衝撃度もないというか。栗原があの展開で突然戸田を殺しちゃうところも「ええ〜〜〜」って感じだったんですけど、なんというかどちらの夫妻のエピソードもサスペンスとして大味な感じがして、正直好みではありませんでした。

演出面では、三谷さんとしては珍しく細かいシーンを次々繋いでいく感じの物語で(34シーンもあるとか)、舞台上にある6個のスツールを場面ごとに移動させて椅子にしたりテーブルにしたりベンチにしたりなどで暗転ナシで転換していました。このスツールが動く時にシャーッ、シャーッ、っといちいち音がするのがなんかいまいち耳障りだなー、もうちょっとスマートに転換できないのかな、動かしすぎじゃないかなー、もっとやりようがありそうだけど、とちょっと思ってしまったり。話が面白ければそんなに気にならなかったんでしょうけど、前述のような理由であまりのめり込めなかったもんだからこの演出もちょっと気になってしまいました。こういう「短いシーンを暗転ナシで繋いでいく」演出ではイキウメの前川知大さんの演出が圧倒的にスマートで上手いんですよね、装置をいちいち大きく動かさなくても、照明の切り替えだけで十分じゃないかな、ってちょっと思ってしまったりしましたよ。

まあそんなこんなで、私の中ではちょっと乗り切れないまま終わってしまいました。残念。