メッセージ

予告編を見る限り宇宙人とのファーストコンタクト物っぽい感じだったので守備範囲外かなーと思っていたのですが、公開後に「ネタバレを見る前に映画観て」「イキウメっぽいSF」などのツイートを見かけたので興味がわいてきました。原作は未読ですがちょっと前に話題になったSF短編だったよなーとかそのくらいの認識で、あまり詳しくは調べずに映画館へ。

ある日突然世界の12ヶ所に現れた謎の物体。言語学者のルイーズは数学者イアンとともに米軍に呼ばれ調査を始める。謎の物体はどうやら宇宙船らしく、中には2体の地球外生命体。彼らをヘプダポッドと名付け、何の目的でやってきたのかを聞くために、ルイーズはまず簡単な言葉からコミュニケーションを取ることを始める。またこの頃からルイーズは幼くして亡くなった娘の思い出がフラッシュバックするようになる。ルイーズは少しずつヘプタポットとの意思疎通ができるようになってきたが、世界各地では暴動が起こり、中国のシャン上将は宇宙船に攻撃を開始することを発表する。残された時間がないことに気づいたルイーズはヘプタポットの元へ急ぐ……

以下、重大なネタバレになりますのでご注意を。


「言語によって思考は形成される」っていう伏線がこの映画のキモなのですが。たしかに「主語が曖昧でも成立する」「最後まで聞かないと肯定か否定かがわからない言語」の日本人が英語圏に行くと「はっきりと断定することを求められる」「英語で思考すると自己主張が強くなる」っていうような話は聞きますね。つまり宇宙人の言語を習得すると地球にはない宇宙人の概念を習得することができるようになる……と。確かにこのへんの設定、イキウメの「散歩する侵略者」をちょっと思い出します。

前半はわりとじっくりゆっくり物語が進む感じなので集中力が無い時に観るとうっかり寝てしまうやつですね。不安感をジワジワ煽る雰囲気もあり「地球外生命体は地球を侵略しにやってきたのでは?(SFの定番)」というミスリードを誘いながら物語は展開。ところがどっこい、終盤でヘプタポットの言語を習得したルイーズが「時は過去から未来へ流れるもの」という固定概念から解放され未来を見るようになり、「ルイーズの過去のフラッシュバックだと思っていた娘との記憶」は「ルイーズの未来」であったことがことが明らかになります。この瞬間の「すべてがひっくり返る感じ」を味わうための2時間、という感じの映画でした。原題の「ARRIVAL」がラストに出て物語の円環を完成させるのも「おお…」となりましたね。

やはり色々考えさせられるのは「夫とは上手く行かなくなり別居(離婚?)」する」「娘が若くして病気で亡くなってしまう」のがわかっていてルイーズがイアンのプロポーズを受け入れるところなのですが。まあでも実際に育児中の身としては「わかる」としか言いようがないんですよねえ。自分の娘があの年で死ぬとわかっていてそれでも産むか、って言ったら産むし、そのためには娘の父親と結婚する必要があるわけで。そんでもってもし娘が先に死ぬとわかっていて産んだら、変な話すごく優しくなれるだろうなと思うんですよね。「その先がない」ってことは「自分が死んだ後にひとりで生きていけるようにすること」を考えなくていいから、たぶん甘やかすだけ甘やかしてその瞬間を楽しむことだけを考えて親子の時間を過ごすだろうな、それはそれでもしかしたら甘く幸せな時間かもしれないな、とか、そんなことを考えていました。