ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ@シアターオーブ

f:id:lgmlgm:20191123143840j:plain
出典:ジョン・キャメロン・ミッチェル主演「ヘドウィグ」開幕、生みの親の熱唱にファン歓声 - ステージナタリー

あの! ジョン・キャメロン・ミッチェルの! ヘドウィグが! 日本で! 上演!
って、いくらなんでも「!」使いすぎなんですが、もう初めてこの情報を知ったときはリアルに「キェーーーーーーーー」って奇声を発してしまいましたし、まさかと思って何度か見直しましたよね。数年前に山本耕史くんのヘドウィグ上演時にゲストでいらっしゃったのを見逃したのを悔やんでいて、まさか生きてこの世で「オリジン オブ ヘドウィグ」のJCMがヘドウィグを演じる姿を観ることができるなんて思っていませんでしたからね! そりゃもう即座に「主催はどこ!チケットの扱いはどこで?」って観劇仲間と調べて回りましたもの。無事に確保したチケットを握りしめてこの日を待っておりました!
劇場ロビーに入るなりヘドウィグやイツァークのコスプレをしたお客さんがあちこちにいるし、昔の上演の時に配布された紙のヘドヘッドを付けてる人もいるわで、10年以上前からこの作品のファンだった、みたいな人たちばかりで埋め尽くされておりました。客席も開演前からすっかり暖まっていて、舞台作品の空気じゃなく完全にロック歌手を待ち受けるコンサート会場の雰囲気。客電が落ちれば歓声&拍手、バックバンドのメンバーやイツァークの中村中さんが登場すると歓声&拍手、とすっかり期待が高まったところで登場する我らがジョン・キャメロン・ミッチェル! キャー!


日本版ではそれぞれ衣装が変更になっていたヘドウィグですが、JCMのヘドウィグはこのオリジナルに近い雰囲気の衣装で登場。(文字のところはTOKYO、と書いてあったかもしれない)「本物のーー! ヘドウィグだーー!」と思う間もなく、流れ出す「Tear Me Down」のイントロ。サントラで何度聴いたかわからないくらい聴いたあの曲、まさにその同じ声でJCMが歌いだしたものだから、私だけでなく客席のうち何割かはもうこの時点で泣いてたんじゃないかと思います。遠い遠い世界のロックスターが目の前に降臨した、本当にそんな気分でした。ビートルズが初来日したときの客席もこんな空気だったんじゃないだろうか、なんてちょっと思いましたね。ヘドウィグを好きな人の多くはそうだと思うのだけど、この作品てちょっと特別なんですよね。確実に自分の一部を形成するパーツになっている、それくらい思い入れがある作品だから、その作品を生み出したJCMが目の前にいるだけで、もう教祖の姿をみた信者くらいの気持ちになっちゃうというか。

さて物語を進めるMC部分のセリフをどうするのかな、字幕処理かなと思っていたら、イツァーク役の中村中さんがセリフ部分を担当するという変則進行。時にヘドウィグの通訳の立場として、時にカツラをかぶってヘドウィグとして、さらにヘドウィグの母親として、ルーサーとして、トミーとして……とひとりで声色を使い分けながらすべての役のセリフを伝えるという大変な重責を背負っておられました。まあ最初は正直「ああーJCMはセリフ無しなのー?」とがっかりもしたのですが、この完全アウェイの状況で観客を巻き込みながら舞台を進める中村さんの力量にも感服しました。もちろんこの演出は賛否両論あるようなんですけれど、私はライブ感を損なわずストーリーを進める演出として「うまいこと考えたな!」と思いましたよ。客席の多くは映画も舞台も何度も観てきたような人たちだから正直字幕がなくても通訳がなくても全然平気な人ばかりでしょうけれど、そうじゃない人にも物語を伝える手段は必要でしょうからね。

MCの部分を担当しないかわりに、ジョン・キャメロン・ミッチェルはその都度お衣装を変更して登場。きゃあーーーーかわいい! ありがとう衣装部さん! って、50を超えたおっさんにカワイイも何も無いんですが、もう、カワイイとしかいいようがない。映画版ではもっと傲慢さや自分勝手さがあったと思うのですが、今回は中村さんがMC部分でヘドウィグを担当するためか「イツァークを虐げるヘドウィグ」の場面がほとんど無かったと思います。だからヘドウィグがとても可愛くキュートに見えるし、イツァークと歌う場面も仲よさげな雰囲気なので「あれっ今回の演出はヘドウィグとイツァークが片割れって解釈なのかな?」とすら思いましたよ。というかまあ演出上仕方ないんですけど、中村さんがヘドウィグも担当するために舞台におけるイツァークの存在がとても弱くなってしまっているのですよね。冒頭から金髪のウィッグをかぶって中村さんがヘドウィグや母親を演じるためにラストに重要な意味を持つ「ヘドウィグがイツァークにウィッグを渡す(=イツァークを解放してやる)」場面がどうしても薄くなってしまう。ちょっとその点では残念ではありました。

まあそんなこんなで「舞台作品」というよりは「ヘドウィグの物語をなぞりながらのライブ・ショー」といった感じの構成ではありましたが、まあそこは仕方ないことでしょう。向こうの演出やスタッフをそのまんまつれてくるのは難しいことだったでしょうし。今回始めてヘドウィグの舞台を観た、という方はぜひ映画版をみてストーリーを補完していただきたいと思います。まあなんにせよ今回はジョン・キャメロン・ミッチェルが日本にきてヘドウィグを演じてくれる、それだけでもう十分すぎるくらい十分満足しましたし、サントラで散々聴いたあの声でJCMが歌ってくれるだけでもう本当に幸せでした。

まあ舞台美術や映像の好き嫌いはあると思うし、そこは今までの日本版舞台でも色々言われてきたことだしそこはもう気にしないことにしたんですけれど。ただ縦書き字幕の長音が全部ズレておかしなことになってるのだけはちょっとどうかと思いましたね! あれはプロの仕事としてちょっとどうなんだーとそこだけは苦言を呈したいところではあります。

はーしかし本当に可愛かったですねジョン・キャメロン・ミッチェル……。もっとこう「カぁぁッコイイーーー!」みたいな感想になるだろうと思っていたのですが、観てる間ずっとこみ上げていたのは「か、カワイイ……どうしようJCMがカワイイ……あああしょんぼりして可愛そう……かわいそうかわいい……」という気持ちでございました……