宝塚宙組「神々の土地〜ロマノフたちの黄昏〜/クラシカル ビジュー」


出典:宝塚歌劇公式ホームページ

我らが上田久美子先生の新作が登場ー!ということで観てまいりました宙組公演。ロシア革命前夜のラスプーチン暗殺とロマノフ王朝の崩壊を描いた物語……と、ちょっとヅカ的にはやや馴染みの薄いテーマ。フランス革命と幕末ならもう散々履修してきたので今さら予習も必要ない気がするんですが、ロシア革命となると予習が必要? とwikipediaを眺めてみたものの、「トップ・朝夏まなと=ドミトリー」と「二番手・真風涼帆=ユスポフ公爵」がどうやら同性愛的な関係だった、ということしか頭に入ってきませんでした。煩悩が!邪魔を!
皇帝の従兄弟である軍人のドミトリー・パブロヴィチ・ロマノフと、皇帝一家やラスプーチンたちを巡る複雑な状況は冒頭の会話でだいたい説明されるのでまあ予習が無くても大丈夫といえば大丈夫なんですが、ここをボヤっと聴き逃しているとその後の芝居がまったく入ってこない状況になりますね。ドミトリーの亡くなった伯父の未亡人・イリナ(伶美うらら)とドミトリーの「関係性的にお互いに口には出せないけど想い合っている」という状況を詩情たっぷりに描いてるあたりがさすが我らがウエクミ先生といった感じです。ユスポフとドミトリーの関係については同性愛的な感じではほとんど描いてなくて、ドミトリーからユスポフへの感情は完全に「友情」って感じなんですが、ユスポフのほうからは友情以上の感情がありそうな雰囲気がチラホラ出てきます。ユスポフが「後で話の続きをしよう」と言って去り際にドミトリーの手を意味ありげにサワッ……と触った瞬間が萌えのハイライトでした(つまりそれ以上の描写はないということでもありますが)。

ラスプーチンを暗殺して島流しのようにペルシャに飛ばされるドミトリー、その前夜に一度だけイリナと夜を過ごし……という場面のなんともいえない情感も良かったですね。どうにもならない運命に絡め取られながらも自分の信念には忠実なドミトリーと、若くして未亡人となりながらも自分の信念に従って生きていくイリナが、一夜だけ情を交わすというのが切なくて良かった。どうにもならなさを前にして全てから逃げてお互いを焼き尽くすように砂漠に死んでいったのが前作「金色の砂漠」だったと思うのですが、今回はどうにもならなさを前にお互いの思いだけを確認してそれぞれの人生をいきていく、という大人の選択をしたのが今回の「神々の土地」なのだなあと。ウエクミ先生は本当にこの「どうにもならない悲恋」がお好きなのね……!と思ったり。いや、こっちも大好きですけれど!

雪原でドミトリーとイリナが踊る場面も、真っ赤な大階段で近衛兵たちが踊る場面も、ラスプーチンが大階段に倒れて死んでいく場面も、演出の絵ヅラが最高でした。「ああー絵になるなあ!」と感心してしまいますね。これがサヨナラ公演となる朝夏まなとさん、軍服姿も絵になりカッコ良かった。物語的には「歴史の大きなうねりに対して為す術もなくなく運命に絡め取られていく」といった流されていく印象の役なので、サヨナラ公演としてファン的にはどうなのかな、と思わなくもないのですが、良かったと思います。二番手ユスポフ役の真風涼帆さん、しどころの少ない「主人公のお友だち役」ポジションだし、軍服の並ぶ中ひとりスーツだしで難しい役だったと思いますが、ドミトリーへの想いや貴族としての立ち位置などうまく滲ませて存在感のある好演でした。怪僧ラスプーチンを演じた愛月ひかるさん、ルキーニに続いて狂気役者でした。宝塚的にはかなり異端な役ですががんばってたと思います。酒場のダンサーのひとり、歌手の弟役で目立っていたの誰かなーと思って同行者に聞いたら「またか!また95期か!」って返事が。そうですかアレが桜木みなとさん……横浜出身でみなとみらい&桜木町が名前の由来というアレですか……本当に95期はスター揃いですね……!イリナ役の伶美うららさんも大人の女性をしっとりと演じていて好演。これは本当にトップ娘役にならないままの退団が惜しいですね。オリガ役で次期トップの星風まどかちゃん、若い! 大人のイリナとの対比で若く可愛らしい役だったのだと思いますが、初々しく演じていました。かわいい。

上田先生の作品は宝塚らしい様式美もちゃんとふまえて絵面の美しい場面が多いのですが、しかし演技の部分では割とリアリズム追求というか、あんまりヅカにありがちな大味な芝居をさせないんですよね。あの大劇場で伝わるギリギリのところまで抑制した演技が良いなーと思います。Twitterでみかけた某生徒さんのお茶会トークによると、「何か宝塚っぽいんですよね、月組のAll for Oneみたい」という指摘があったとのことで「ヒェー!」と震えました。切れ味の尖すぎるダメ出しに震えると同時にすごく感心もしました。そういうとこ! ウエクミ先生の信頼できるところはそういうとこ!(All for Oneの芝居がダメだという話ではなく、作品カラーに応じた演出がありますからね)

さてショーは「クラシカル ビジュー」ということで宝石をテーマにしたショー。オープニングのお衣装もいつも以上にスパンコールでギラギラしていたような。同行者が「もうさー、ショーで『宝石』とか『酒』とかキレイなものをテーマにするの飽きてきたなー」とかボヤくので「でもそこに風穴開けようとすると月からBADDYがタカラヅカシティにやってきたりおかしなことになるんだよ……?」などと話しておりました。

トップ娘役が不在のためかデュエットダンスは男役トップ&二番手の朝夏まなとさん&真風涼帆さんで。宝塚大劇場公演ではかなりトリッキーなリフトがあったようなのですが(真風さんが朝霞さんを時計の針のようにぐるりと回すやつ)、安全を重視したのか東京公演ではなくなっていました。残念ですがまあそのほうが安心して観ていられますかね。終盤の黒燕尾男役群舞、やはり朝夏まなとさんは飾りのないシンプルな黒燕尾で登場。このシンプルな黒燕尾大好きなので堪能させていただきました。