宝塚花組「はいからさんが通る」@日本青年館ホール


出典:Lmaga.jp「はいからさんが通る、宝塚歌劇が舞台化」

この公演ラインナップが発表された日、私の第一声ツイートが「ヅカではいからさん!れーちゃんが少尉!脚本が小柳先生!完璧だ!完璧ですよ!ありがとう!そしてありがとう!(スタッフキャスト演目の布陣だけで勝利が見える)」でした。「そういえば何で今まで宝塚で上演してなかったんだろう?」と思うくらい大和和紀さんの原作「はいからさんが通る」は宝塚との相性が良さそうだし、まして「日本人とドイツ人のハーフ」の設定の少尉役が、彫りの深い顔立ちの柚香光さん。そして作・演出を手がけるのが俺たちの小柳奈穂子先生ときたら、それはもう完全に成功が約束された公演だとこの時点で思っていました。近年ただでさえ激戦な宝塚チケットの中でも稀に見る激戦だった争奪戦をお友だちのおかげでくぐり抜け、無事日本青年館公演を見てきました。

もうね! 予想以上に! 漫画そのまま!

全てのキャラが勢揃いして歌い踊る顔見世的なオープニング、安易な言い回しですけど「漫画から抜け出して来た人たち」そのものでした。原作者が舞台を観て「もうね、生き少尉!」と興奮気味に感想を語っておられたというのがニュース記事にありましたけれど、まさに、「生き少尉」という感じ。ポージングや見せ方など相当研究したんでしょうね、二階席から見ても「どこをどう切り取ってもサマになる」伊集院忍少尉の立ち姿! はあー、眼福。さらに青江冬星編集長(鳳月杏)、鬼島森吾(水美舞斗)、蘭丸(聖乃あすか)と、こちらも原作そのままのイメージの姿で歌い継いでいくこのワクワク感。しかもここの振り付けが手をハート型にして胸から前に出す「ラブずっきゅん」なヤツで、「イケメンたちに何カワイイ振り付けさせてるんだ……!けしからん……!」と思いました。アニメソングのようなキャッチーで覚えやすいテーマソングに乗せてカワイイ振付で踊るオールスターキャスト、なんというかもうこのキュートで可愛らしいオープニングだけで「チケット代5000円のモトは取れた……!」と思いましたし、ここだけでもあと20回はリピートできる、というか開幕5分で「もっかい観たいチケット欲しい」と思いました。

はいからさんを舞台化するなら長い物語のどこか一部分だけをまとめるんだろうなと思っていたら、驚いたことに最初の出会いからクライマックスの関東大震災までをきっちり全編やりました。原作ファンが大好きな名場面の数々をきっちりと盛り込み、メインキャラはもちろん脇役の下級生まで見せ場を作りながら、漫画8冊分のエピソードを2時間10分にまとめるという脚色の素晴らしさに舌を巻きました。もちろんかなりのダイジェスト展開だし、原作を読まずに見ていたら終盤の展開に( ゚д゚)ポカーンとする可能性はあると思うし(でもあそこで震災が来るのも原作どおりだから仕方ない)、「もっと鬼島のエピソード見せて」「もっと編集長」って思う部分もあるのだけど、それでも予想以上に原作の魅力をぎゅうぎゅうに詰め込んだ舞台化だったと思います。

柚香光さんの伊集院少尉、良かったです。正直予想以上だった。柚香さん、華とオーラは文句無しだけどお歌がもう一息、とても目立つ存在感だけに技術力不足の部分が逆に目についてしまう、という部分がかつてはあったのですが、さすがに今回は新作だし歌いやすいキーなのか歌も全く危なげなし。そして予想以上に「大人の包容感」を説得力をもって見せていました。伊集院少尉って原作を読んでても後半のラリサと紅緒の間で優柔不断になってるイメージがあってついつい青江編集長に肩入れしそうになるくらいなんですが、そこを軟弱に見せずに「義に厚いが故の板挟み」にちゃんと見せていたのが良かったと思います。ラリサの場面を減らしたことで彼女を敵対キャラに見せない小柳先生の脚色も良かった(まあ「ラリサが死んだのに弔いもせずに紅緒の元に走る」ってのはさすがにどうなんだ感もあって内心ツッコミたくはなるんですけどもね)。祖母の決めた婚約者を受け入れるバックボーンに何があったのかを短い場面で納得させる過去エピソードのセリフも良かった。正直原作ではあまり印象に残ってない部分だったのですが、親に捨てられた過去の厳しさと祖父母への恩からの優しさ、紅緒に寄せる想いにも説得力のあるセリフだったと思います。ダンスの場面や伊集院邸のソファで紅緒を抱き寄せるシーンなども漫画みたいな手足の長さでまあ絵になること! マンガのコマ割りが目に浮かぶような紅緒への迫り方のアングル、萌えのあまり変な笑いが漏れそうになりました。舞台写真が軒並みソールドアウトになっているのも納得の絵面の美しさ。正直まだまだ若手だと思っていたしそこまで贔屓というわけではなかったんですが、今回の少尉役についてはもうオペラグラスでロックオンせざるをえなかったし、センターがこんなにも似合う風格が備わっていたことに嬉しい驚きがありました。これはもう、今日この瞬間をもって柚香光に落ちた、と思うくらいに素敵でした。か、カッコ良かった……。

タイトルロールでもあり実質主演の華優希ちゃん。かわいかったー。100期、研4の大抜擢とあってお歌もまだ不安定なところがあるし収録が入って緊張してたのか何度かセリフを噛む部分をありましたけど、破天荒な紅緒を嫌味なくキュートに演じていて愛らしかった! 柚香さんが稽古場でも華ちゃんから目を離せなくて次に何をやるのかずっと観察しちゃう、というようなことを言っていたのですが、そういう関係性が少尉&紅緒の関係性そのもので、暖かく見守られてるヒロイン感がありました。今後が楽しみです。

そして鳳月杏さんの青江冬星編集長。どう考えても少尉以上に三次元化の難しいビジュアルなのに、完全に漫画そのままだった! あんな淡色のスーツでほっそりして足を長く見せるなんてどういう体型……。少尉に身を引くことを告げて泣きながら帰ってきた紅緒を抱き寄せて言う「全部……忘れさせてやる……」のセリフの破壊力。はーん! これぞ! 少女漫画! もうほんと編集長のスピンオフくださいお願いしますという感じでした。一幕目はほとんど出番がないのにこの存在感。そしてもっと見せてもっと出番を、と思わせるキャラ造形。さすがです。

馬賊の衣装の鬼島役の水美舞斗さんも原作そのまま。仕方ないけど出番が少ないのが残念。少尉、紅緒、環と絡むシーン、もっと観たかった。蘭丸の聖乃あすかちゃん、お顔がキレイだし、「見た目は女だけど声が男役」で蘭丸の説得力あってすごく良かった。「紅緒さんのこと、ちゃんと守ってあげて!」っていう少尉への叫ぶようなセリフ、紅緒への思いと少尉への嫉妬と怒り、でも自分ではどうにもできないやりきれなさとその悔しさとが色々絡まり合って出てきた切迫感があってもう最高でした! あと下手すれば少尉や編集長以上に漫画そのままだったのが、車引の牛五郎=天真みちるさん。あの役を漫画そのままにやれるっていうのがすごい。女がやってるという痛々しさも違和感もないんですよ。前半は出番も多くインパクトありました。吉次や環などの娘役もピンポイントの登場とはいえ印象的。みんな本当に漫画そのままだったなあ!

というわけで休憩込み2時間半、原作の魅力をぎゅうぎゅうに詰め込んで一瞬も飽きる隙のないほんっとーに楽しい楽しい公演でした! これほんと「ベルサイユのばら」並に宝塚との親和性が高い物語なので、「オスカルとアンドレ編」「フェルゼンとマリー・アントワネット編」みたいに、ぜひ「少尉と紅緒編」「青江冬星編」「鬼島と環編」など次々と展開していって欲しいと思います。惜しむらくは本当にチケットが激戦でこれを観ることのできなかったファンが多かったということ。特に柚香光ちゃんのファンでこれが観られなかったのはもうなんていうか本当にもったいない。こんなにもハマり役でカッコいいれいちゃん今まで観たことなかったもの! もうコレを超える当たり役なんか無いんじゃないの、この先れいちゃんのどんな役を見ても少尉と比べたら物足りなさを感じるんじゃないの、というくらいの大当たりだったので、全てのファンに生で見てほしかった。話題性的にも集客的にも大劇場で良いような作品なのになんでキャパの少ない別箱公演なんでしょうね、やはりアニメ劇場版公開にタイミングを合わせたという大人の事情があったんでしょうか。なんなら柚香さんトップ就任の暁には、ぜひこれを大劇場サイズに改訂再演してお披露目演目にすべきだと思いましたよ。さらにコレいま柚香さんが三番手だからか、どうもDVD化されないって話なんですよね(二番手主演作はDVD化されるけど三番手主演作は無いらしい)。スカイステージでの放送はあるんでしょうけれど、ぜひともここは前例を覆してDVDを出して欲しいです。カメラ収録した千秋楽の日付ではもう芹香斗亜さんも宙組に移動した後だからいまギリギリ二番手じゃん? DVD、出そ? 買うからー!

花組公演 『はいからさんが通る』 | 宝塚歌劇公式ホームページ
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