劇団☆新感線「髑髏城の七人 Season風」


出典:ステージナタリー 「髑髏城の七人」Season風、1人2役の松山ケンイチ「2幕がしんどいです」

ぐるぐる劇場こと「IHIステージアラウンド東京」での髑髏城の七人もいよいよ3作目。折り返し地点を過ぎた頃でしょうか。Season風は2ヶ月弱と他のシーズンに比べればちょっと短めの公演期間、とはいえ同一カンパニーの作品でこの長さはやっぱり他の作品に比べたらかなり長いですね。出演者の皆様は本当にお疲れ様です。豊洲に向かうのもこれで3度目なんですが毎回新鮮に豊洲、遠い……」「ほんっとうに何もねぇな……」と思いますね。12:30/18:00開演って、ご飯のタイミングと場所に困ります……。

さて今回の見どころは捨之介と天魔王をオリジナルの「一人二役」に戻したところ。構成もほぼ元に戻してくるはず……と思いきや、あれっ、冒頭の天魔王の登場も無し、後半の髑髏城で薬を盛られ沙霧たちに襲いかかる捨之介になぜか兜(あれは天魔王と捨之介をふたりに分けた時に追加されたオプションであってひとり二役なら必要ないはず)、など、「これやらないの?」「えっなんでこれやるの?」みたいな箇所がいくつか。せっかくのひとり二役が生かされてないのでは……という疑問点が少々ありました。冒頭で兜を取って「来い秀吉、髑髏城で待っている」が無いものだから、天魔王の顔が出るのは二幕に入ってからなんですよね。これだと一幕の中盤で天魔王が出て来て捨之介と対峙するときの緊張感(観てる側も)が一気に激減するような気がします。せっかくの「一人二役」なのに何故……感が。すみませんね、97年髑髏を愛する古参オタのこだわりなので軽く読み流していただければ。ただ後半の髑髏城で捨之介と天魔王が同時に出てくる場面での早替り、あれはまったく気づかなかったので驚きました。確か97髑髏でもアカドクロアオドクロでも無かった演出だったような気がするのでここの追加は良かったなーと。

さて役者について。松山ケンイチさん、身体のキレが素晴らしい! 予想以上に動けてるし余裕も感じられるしでアクションシーンに見応えがありました。健康的で情に厚いあんちゃんな捨之介。ただまあオリジナルの古田さんみたいな「女好き」な設定は主演キャラにあわせて消されているので、二幕で「捨之介は女を切ったりはしない」っていうあたりの説得力がイマイチだったりはするんですが。あと天魔王はかなり「世の中の人がイメージする信長像」に寄せてる感じがありましたね。花髑髏・鳥髑髏と「エキセントリック系天魔王」キャラが続いていたので、このスタンダードな天魔王感は「ああ……落ち着く……」という感じで好きだったんですが、やっぱり古田天・染五郎天に比べるとラスボス感や威圧感に欠けるというか。まああのふたりと比べるのは気の毒ではあるんですが、やっぱり二幕冒頭の蘭兵衛とのやりとり、「鉄砲三百丁、そんなものはいらぬ。俺がほしいのはただ一人。お前だ、森蘭丸」はもうちょっと有無を言わさぬ支配力とエロさが欲しいなー、と。

蘭兵衛役の向井理さん。顔ちっちゃぁーーーーーーーー! いや、初日から「小顔屋蘭兵衛」って単語がツイッターに湧いてたので「そうか、小顔か」とは思ってたんですけど、舞台で実際に見ると本当に顔がちっちゃい。ちっちゃすぎて他の登場人物と等身が違いすぎるものだから、「明らかに作画ミスの人がいる……(失礼)」という気持ちでいっぱいになってしまいましたよね。映像で観てる時は全然気にならなかったんですが、やっぱりこういう大きい舞台だと小顔でスタイルの良い役者さんより顔が大きい役者さんのほうが見栄えがいいな、と思いました。あとあまり芳しくない評判を前もって聞いていたので「想像してたよりは、まあ動けてる」と思いました。まあそもそも蘭兵衛に関しては別にそこまで身体がキレる設定の役でもなかったのに、ワカドクロ・花髑髏で早乙女太一くんが一気にハードルをあげてしまった感がありますね。山本耕史くんや太一くんみたいなゴリゴリの舞台役者の後で舞台経験の少ない俳優さんがこの役をやるのはさすがに荷が重そう、と思いましたよ。

極楽の田中麗奈さん、やっぱりキャラ的にも体格的にも「みんなの姐御!」感は薄かったですね。他の遊女と同列な雰囲気のキャラ作りだったんでしょうか。あと正直あの足が丸見えの衣装はちょっと安っぽく見えるから隠したほうが良かったんじゃないかなーと思いました。「夢を売っても身体は売らない」っていう無界の女ならあんなに安く足を出さないほうがいいんじゃないかしら、と。兵庫の山内圭哉さん、カッコいいーーーーー。今まで割りと「バカで直情的」だった兵庫のキャラですが、今回はバカ度ゼロ! まっすぐに極楽を思うストイックな兵庫にぐっと来ました。好き。そしてそれ以上に狸穴二郎衛門の生瀬さんがカッコいい。ていうか上手い、とにかくひたすら上手い。上手い人だなんて百も承知だったけど、過去最高の狸穴じゃないでしょうかね。正直いままで「ベテランなら誰がやっても格好が付く」くらいの役だと思ってたんですけど、あのほんの短い出番で表情に緩急つけてドラマを滲ませる生瀬さん、すごい。あまりのうまさに本当に舌を巻きました。

贋鉄斎は橋本じゅんさん、レミゼに似せた劇伴に乗せて登場(分かる人だけ分かれ、なヤツですね)。なんかイタリアンなキャラでボーノボーノ言ってましたね。まあじゅんさんとしては予想の範囲内の弾け方でした。芝居を壊さない程度に押さえたんでしょうかね(あれでも)。百人斬りは蕎麦屋の装置と共に動きながらという感じでさほど動きが無さそうだったので、今回はやっと捨之介のほうに注目できました。しかし毎回趣向を凝らさざるをえないこの枠、どんどんハードルがあがってしまいませんかね? 月や極ではどうするんでしょう。シンプルにアクションで見せてくれればそれでも良いんですよ……?

今回はかなり前列の方で観たので役者さんの表情はよく見えたのが良かったんですが、しかしやはりスクリーンの映像効果は後ろの席のほうが分かりやすいですね。劇場のアトラクション感を楽しむなら後方席のほうが良席である、という気がしました。