ナイロン100℃「ちょっと、まってください」


出典:ナイロン100℃ 3年ぶりの新作『ちょっと、まってください』開幕 | SPICE - エンタメ特化型情報メディア スパイス

ナイロン100℃の2年ぶりの劇団公演、3年ぶりの新作……って、この歳になると2〜3年ではあんまり空いた感じがしませんね。「そういえばしばらくやってなかったっけな?」くらいの感じになってしまいます。ナイロンは年間何本も公演うつ劇団だからまあ2年でも結構な活動停止なんですけれど、スローペースな劇団だと通常でもそのくらいのところとかありますもんね……。
さて新作は「不条理喜劇」とのこと。架空の国のあるお屋敷とその庭を舞台に、あるお金持ち家族と乞食家族の奇妙な日常を描いていく物語。お金持ち一家はこれまで何度も聞いてきた父親の退屈な話を今日も聞いている。お屋敷は立派だが一家は借金を抱えていて、執事とメイドにも暗い影が。一方、そんなお屋敷の庭に流れ着いてきたある乞食の一家。乞食の娘はまだ知り合っていないお金持ちの息子と結婚するのだといって窓から屋敷に潜り込んでいき、一家は庭に家財道具を広げる。ふたつの家族は奇妙な形で混じり合っていき……。

今回は顔を白塗り&目の周りを黒くした「アングラ風メイク」でのこの世界観。常識や価値観そのものがどこかズレている世界での物語。ナイロンの過去作品でいうとフリドニアとかあのへんが近い世界観でしょうかね、そのちょっと風変わりな世界観の上に、別役実風の不条理劇がのっかっている感じでした。こまめに笑いが入ってくるので全編にわたって楽しくは観ていられるし嫌いな世界観ではないのですが、なんというか個人的には全体的に乗り切れない部分がありました。作品側の問題ではなく、私自身が「面倒な世界観を楽しめる心理状態ではない」「単純明快な娯楽作が観たい」時期だったので、この手の作品を面白がれる気分でなかったというか。普段なら好きなタイプの作品のはずなんですけれど。

しかし自分自身は楽しめなかったとはいえ、役者たちの演技も絶妙なラインでトーンが統一されているということだから、完成度としては高いのだよなあとも思いました。もともと狙った層にしかウケないタイプの間口の狭い作品だったと思います(KERAさんもツイッターで万人ウケはしないようなことをつぶやいていた気が)。芝居初心者の方などにはちょっと薦めにくい作品だなーと思いましたが、観客のウケはとても良かったのでナイロンのお客さんはよく鍛えられてるなーとも思ったり。私の周りのお芝居ファンにも評判がいいんですよね。なぜ私は楽しめなかったのか……

セットの使い方が良かったです。冒頭のお屋敷の場面、舞台全体を使ったセットなんですが「ずいぶん下手側の奥行きが浅いな?」「本多劇場ならもうちょっと奥に装置を作ってもいいんじゃ……」と思いながら見ていたら、扉のように壁が動いて下手側に屋外の庭のセットが登場。「あのセットの横にこれががあったのか!」と最初は驚きました。ベンチこそないけど電柱があるのが別役オマージュ。オープニングタイトルや演出中のプロジェクションマッピングは今回も登場、相変わらずカッコよかったです。