宝塚花組「MESSIAHー異聞・天草四郎ー」「BEAUTIFUL GARDENー百花繚乱ー」

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出典:花組トップ明日海りお、求心力で「メサイア」天草四郎役:朝日新聞デジタル

 

花組・明日海りおさんトップ主演の大劇場作品も8作目となります。今回は天草四郎を題材にした作品とのこと。どうしても日本の史劇となると花組ファンのトラウマ「邪馬台国の風」を思い出す方も多かったようで、ツイート検索してると邪馬台国を引き合いに出して感想を語っている方も多かったです。そのせいですっかり「邪馬台国レベルの作品……テーブルクロス案件*1、か……」という覚悟をキメて行ったので、「あっ、そんなにひどくないじゃん!大丈夫、観られる観られる!」という気持ちになる現象が起きてしまい、この作品の完成度を客観的に観られない状態になっておりました。

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この「MESSIAH」における天草四郎は、「海乱鬼(かいらぎ)」=倭寇、つまり海賊であったという設定になっています。年齢は不詳、夜叉王と名乗って海賊の一団を率いてる描写が冒頭にあるので10代ってことはなさそう……な雰囲気ですね。若気の至りによる暴走族の一団、みたいなものだと捉えればまあギリ10代もあり……なのかな……。夜叉王は嵐で海賊船が転覆して仲間とはぐれ、天草・大野屋島に流れ着き、そこで世話をしてくれた一家の養子となって「天草四郎時貞」と名乗るようになる、というのが物語の発端。海賊の夜叉王が天草の民の純朴さや優しさに触れて彼らの窮状に肩入れするようになり、非人道的な重税を課す幕府に対し一揆を起こす……というのが主なストーリーライン。

初めはぶんむくれて心を閉ざしていた夜叉王が、次の登場ではすっかり天草に馴染んでいるのがちょっとフフっとなりました。この辺もうひとつふたつ心を開くまでのエピソードがあっても良いのかなーと思いましたけれどね。あまりにあっさり天草に馴染むので嵐で漂着したときに記憶喪失にでもなったのかな? と思いましたが後から登場する海乱鬼仲間の不動丸(飛龍つかさ)・多聞丸(一之瀬航季)のことはちゃんと覚えてましたし、ふたりに出会った瞬間言葉遣いも粗野になったりして、あの夜叉王ってヤツ信用できねえな、ってなるリノ(柚香光)=右衛門作エモサクについ感情移入したくもなります。さて一揆のシーンはどうなるのかと思って観ていたら

民衆「幕府ひどいわ マジつらい」
四郎「こんなときに何もしてくれない神様なんてPOISON」
民衆「やっぱ神はおらんのか おらんのやな つらい」
四郎「せやけど天草のみんなは優しかったで みんなの中に神はおるで」
民衆「まじか やっぱ神はおるんか」
四郎「ヘイヘイ野郎ども立ち上がろうぜー!」
民衆「せやなメサイアー!」

……といった流れで感動的な蜂起ソングを歌い始めるので「民衆のみなさんちょっと素直すぎやしませんか」「あんたたちの信仰はそんなに簡単に四郎の言葉にすり替えられてしまうものなのか」と危機感を感じてしまうのだけど(あ、すみません実際には真面目な台詞回しです。まあ言ってる内容はだいたいこんな感じですけど)、舞台の端に佇むエモサクだけは蜂起に乗らず懐疑的な表情を浮かべていて、この辺の描き方は良かったかなあと思います。思うけれど、その後の舞台進行的には四郎がど直球に正義のヒーロー、圧倒的センターとして描かれてるのがちょっと釈然としないものがありました。せっかくこのポジションにエモサクを置いて「キリスト教をきちんと学んだが故に四郎の言ってることに賛同しかねている」「四郎に賛同できないのは流雨への思慕があるからではないか、と自問自答している」という心情が表現されているのだから、もう少しエモサク側の視点に寄って四郎の主張を批判的に描いてもいいのではないかなーとちょっと思ったんですけれどね。宝塚だからってあんなに主人公をただの正統派ヒーローにしなくても、と。四郎をイエス、リノをユダ、に重ねてるんだろうなあとは思いましたが、このふたりの確執をもう少しバチバチさせて欲しかったなぁーと個人的には思いました。

ヒロインの流雨(るう=仙名彩世)もいまひとつしどころのない役なのがちょっと残念でした。四郎やエモサク、松倉勝家(鳳月杏)からそれぞれの形で思いを寄せられてはいるものの「美しくて愛される、苦労に耐え忍ぶ女性」という個性しか与えられず、これといった印象が残らなかったです。まあ旧来のヅカのヒロインてこういうのが正統派なんでしょうけれどね。私の中で原田先生は魅力的な女性キャラを描けないのでは疑惑が少し持ち上がってきました……神様、どうかゆきちゃんに当たり役を……!ポーの一族のシーラはハマり役だったと思いますが、あの作品におけるトップコンビはエドガー×アランだから……なんというかこう堂々たるヒロインポジションでの当たり役が欲しいというか……)

悪代官的なわかりやすい悪役を演じた鳳月さん、天真みちるさんの生き生きとした悪い小物っぷりが良かったです。ヅカ的にあの手の悪役ってあんまり美味しい役じゃないんですが、難しい役を上手く演じてたと思います。また幕府側の松平信綱(水美舞斗)、鈴木重成(綺城ひか理)、将軍家綱(聖乃あすか)の知性溢れるすっきりした佇まいも良かったですね。何よりTwitterの感想がみんな観劇後に「鈴木ー!」ってなってましたけど、観たら本当に「鈴木ーーーーッ!」って思いました。松倉の企みを見抜いただけでなく、あの状況でリノの絵を処分できずに残しておくとか! お前ほんと良いヤツな! と思っていたらwikipediaでその後の史実を知って盛大に凹みました。年貢米の減免を幕府に要請したが聞き入れられず訴状を残して抗議自殺……うう……鈴木……ッ!

ご存知のように島原の乱といえば民衆側全滅のバッドエンドなんで、ラストシーンではヅカお約束の「天国での幸せな姿」を見せて終わるはらいそエンドなわけですが。民衆たちのお衣装はそのままでトップコンビだけ黄金のきらびやかなお衣装なのが、宝塚のスターシステムのせいとはいえ「はらいそにもヒエラルキーが……!」と思ったりしました。せめて民衆も天国に行ったらきれいな格好にしてあげて下さい。あとさっき四郎が「神はあなたたちの中にある、ここがはらいそだ」みたいなこと言ってませんでしたっけ……? という気持ちにもなったり。原田先生はこういうとこヅカのシステムに対して真面目だな、もうちょっと描きたいように描けばいいんじゃないのかな、とそんなことを思いました。四郎とリノの関係性にもう少し切り込んだらもっとヒリヒリする名作になったんじゃないかのかなーと思うんですよね、「トップさんのヒーロー譚」で終わってしまったのがちょっと残念でした。

 どうしても日本の貧しい農民たちの一揆を描くとなると衣装が地味にならざるをえず、「宝塚の華やかさ」を求めていくとちょっと物足りないことは事実でして。幕府側はパリッとしたお衣装ではありますがそれでも青天(月代の部分が剃られて青いカツラ)ではなかなかヅカの魅力を味わうには物足りなく、私も正直「和モノ」は避けて通りたい気持ちがあります。あと、同じく九州地方の農民の一揆を扱った上田久美子先生の名作「星逢一夜」とどうしても比べてしまう気持ちはありましたね。メサイアのほうが視覚的に訴える見せ場は多かったかなと思いますが、ストーリーはもう一息かゆいところに手が届かない感じがありました。

 

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出典:ギャラリー | 花組公演 『MESSIAH(メサイア) −異聞・天草四郎−』『BEAUTIFUL GARDEN −百花繚乱−』 | 宝塚歌劇公式ホームページ

 

さてショー「BEAUTIFUL GARDEN-百花繚乱ー」。楽しかった!体感5分!
前評判から予想はしてましたが、野口幸作先生らしいショーで 「やりたいこと全部詰め込みました!」感は伝わってきます。前作の雪組「SUPER VOYAGER」同様、全体的な統一感には欠けるしシーン間のつなぎ目の温度差が激しすぎて戸惑うことも多いのですが、それでも場面ごとに見ればどの場面も見応えあって楽しいので、「楽しいのは正義!」とも思います。統一感はあるけどつまらないショーよりは、統一感無くても楽しいショーのほうが絶対に良いですもんね!

アナスイ風のお衣装で豪華絢爛なオープニング、羽根扇で三段ケーキみたいな盆回しの場面もまさに「百花繚乱!」って感じで素敵でした。花組男子は色気ダダ漏れ全開でウインクや投げキッス飛ばしてくるしもう最高オブ最高ですね。まずここで瀬戸かずやさんと目があってにっこりと微笑まれたので死にました(3列目だったんです)。黒と紫基調のお衣装、ほんと素敵でした。続いてロケットは蜂さんのような衣装を着た水美舞斗さんが飛んだり跳ねたり側転したり滞空時間の長いジャンプで筋力をアピールしてくるので下級生のロケットに目がいかなくてスミマセン。いやーマイティーほんとかっこいい……。

モノトーンの街並みに場面が変わって二番手・柚香光さん中心にしたダンスシーン。これも良かったですねえ。タンバリン持って踊るかわいい天真みちるさんに思わず「タソ……退団しないで……」と心でつぶやいてしまいます。カラフルな傘を使ったダンスが粋でオシャレ。「これはSUPER VOYAGERでいうところの海の見える丘にあたる場面だな……前回が『ラ・ラ・ランド』なら今回は『雨に唄えば』か……野口先生の中で二番手センターのイメージカラーは黄色なのだな……」などと色々雑念がよぎりますが、いい場面でした!

さて闘牛士のマノレテの場面。明日海りおさんがマタドールに扮し、闘牛を死の象徴的なダンサーとして水美舞斗さんが演じます。さっきの明るい蜂さんから一転、ロミジュリの「死」のダンサーのような雰囲気のマイティーがみりおに絡んでいく場面。官能的に迫る死の影、絡め取られそうになるトップさん、もう何度も観てきた構図ですがやはり良いですね。ここで仙名彩世さんと出会った明日海さんが彼女の上着を剥ぎ取って自分も上着を脱ぐのが大変エロくてよかったし、マイティーの手付きや表情もどエロくて最高でした。最終的に死に絡め取られたマノレテは倒れ、美しくも悲しい葬列が行き……と、この悲劇的な展開の直後にやってくるのがアロハシャツ着た無職ヒモ男が歌うTUBEのビーチタイムですよ。なにこの温度差! あまりの温度差で風邪引きそう! SUPER VOYAGERのときも朝美絢さんが銃殺された直後にラテンショーが始まって「温度差でグッピーが死ぬ」と評したブロガーさんがいらっしゃいましたが、その時以上の温度差でした。びっくり!「あっこれグッピーが死ぬやつ!」と思いましたよ。

そんなこんなでアロハシャツのどう見てもカタギじゃない人たちが歌うTUBEの「ビーチタイム」「シーズン・イン・ザ・サン」「夏を抱きしめて」、と続き、T.M.RevolutionHIGH PRESSURE」「HOT LIMIT」で客席降り。ちょうどはじっこ席だったので降りてきた生徒さんたちに次々タッチしていただきました。舞月なぎささんや真鳳つぐみさんだったかな。「ああっ来た……さ 触っていいの?」とドギマギして控えめな手の出し方になってしまいましたが、冷静に考えたらああいうときは客席もぐいぐい行ったほうが生徒さんたちも喜んでハイタッチしてくれるはずだなーと思いましたね。碧宮るかさん両手でおもいっきりハイタッチしてくれてありがとう。次に通路際座る機会があったらもっとグイグイ行きます。夏メドレーの〆は鳳月杏さんが銀橋で歌うTUBE「ジラされて熱帯」。アロハシャツガバっと脱いだ瞬間に客席から声にならない悲鳴が上がった気がします。ああ〜ちなつさん好き〜。

また場面が一転して今度は古代ローマグラディエーター(ここも落差が激しくて一瞬思考が追いつかなくなる転換)。支配者っぽい瀬戸かずや、その愛人っぽい女装の柚香光、その前で戦う明日海りお。どうやら明日海りおに惚れた柚香光は花を投げ込んで彼を助けるんだけど、それが面白くない瀬戸かずやは明日海りおに近づき殺す……のかと思いきや抱きしめたので「!?」ってなりましたね。えっ何が起こった。ここ誰と誰がどうなる展開なの。まあ最終的に柚香光が斬り殺されて終わるんですが、正直一回みただけでは人間関係がよくわからない場面でした。まあ見どころは明日海×女装柚香の絡み……ですかね……。

続いて仙名彩世さんがセンターで男役をずらりと侍らせて踊るガーシュインのスワンダフル。なんか既視感……と思ったらあれですね、雪組SUPER VOYAGERツアー版にあった真彩希帆ちゃんの「Diamonds Are A Girl's Best Friends」にあたる場面ですね。マニッシュな雰囲気のトップ娘役に男役たくさん、という構図。続いて「サマータイム」は柚香光さんのダンスがメインで飛龍つかさくんのソロ。つかさくんお歌うまいね! さらにガーシュインのアイガットリズムで男役がシルクハット&ケーンの群舞。これもSUPER VOYAGERで言うところのマスゲームの場面ですね……と、何かもう既視感通り越してセルフパロディみたいなので「うん、好き、好きだけど、野口先生の手数の限界が……」と思いました。いや楽しいからいいんですよ? いいんですけど、野口先生次の作品が心配です!

……と思っていたらこれに続くのが路線若手男役によるアイドルシーン。打ち込みでテンポの早い曲に乗せて柚香光×水美舞斗を中心に優波慧、綺城ひか理、飛龍つかさ、一之瀬航季、聖乃あすか……といった花男たちがMV風映像を背景にキレキレに歌い踊る場面。はいはいはいはい! SUPER VOYAGERでいうところの暴風雪ですね!(もうSVに置き換えるのやめたい)好きだけど、好きだけど! 前と同じだ! 野口先生ーーー!(でも柚香×水美の並びはありがたくいただきます。ありがとう野口先生)(同期コンビが小突きあってニヤッと笑ったりすんの本当に最高オブ最高です)

さてそろそろフィナーレですかね。すみれ色のお衣装でしっとりと美しい群舞からトップコンビのデュエットダンス。ここのリフトが「えっどうやったらその位置で!?」みたいな体制になるので「!?」と思いました。腕を絡ませてひっかけてるんでしょうけど仙名彩世さんがほぼ床に近い位置で体制を保つのほんとすごいなあと。

パレード。エトワールは天真みちるさんと若草萌香さん。男役たそとはこれでお別れなので思い切り拍手いたしました。優波・綺城・飛龍・聖乃が横並びで階段降りてきましたが、ここから頭一つ抜けるのは誰なんでしょうね。花組は人材が多すぎてもう。そして今回センター降りの水美舞斗さん、いやー今回はほんと印象に残りました! そういえば芹香斗亜さんが組替えで抜けてからの花組では最初のショーだったんですね。番手が上がったこともありますが、見せ場が多くほんとマイティーが印象に残る場面が多くて「5番手とか嘘だろ?」と思いました。バウ主演を経て一気に色気や存在感が増した気がしますね。鳳月杏、瀬戸かずや、柚香光と2~4番手は番手の変動なし。明日海さんトップ体制のうちはこのままなんですかね。花男みんな大好きなのでみんなに幸せになって欲しいのですが、そろそろ正三番手のポジションが気になるところではあります。

 

*1:つまらない芝居、虚無な芝居、ひどい芝居を指す隠語。あまりに虚無な舞台作品を見てしまったときにポジティブな感想を述べようがなく「テーブルクロスの柄が素敵でした」とだけ感想を残した観劇好きがいたというネット上の伝説に基づく。