マシュー・ボーンの「シンデレラ」

f:id:lgmlgm:20181024155341p:plain出典:マシュー・ボーンの「シンデレラ」公式サイト

 

マシュー・ボーン率いるNew Adventuresの来日公演。「シンデレラ」の初演は1997年なんですね、21年も前の作品で、時期的にはあの「白鳥の湖」の次の作品だったようです。プロコフィエフの音楽にレス・ブラザーストンの美術と衣装、とカンパニー的には鉄板のスタッフ陣。キャストもあの「初代ビリー・エリオット」のリアム・ムーアが天使役として登場ということで楽しみにしておりました。今回は「シンデレラ」を第二次世界大戦中のロンドンに置き換えて演出するとのこと。継母や姉妹からいじめられる地味なシンデレラは、ある日パイロットと出会って恋に落ち、ダンスホール「カフェドパリ」で再会するというのが基本的なストーリー。
 

 

マシュー・ボーン作品、「白鳥の湖」はもう何度でも観られると思うくらい大好きですし、「The Car Man」「愛と幻想のシルフィード」とかも好きなんですが、作品によっては「決して悪くないんだけどハマるほどじゃない」という物も多々ありまして。まあやはり「白鳥の湖」が偉大すぎるせいで他が物足りなく感じるのは致し方ないところはあるのかなあと。今回の「シンデレラ」も、正直なところ私にとっては「悪くはないんだけど……うーんんん」という部類の作品でした。
 
いや、二幕のダンスホールの場面とかはとても楽しいし、マシュー・ボーンの振り付けのパ・ト・ドゥの美しさとかほんと絶品! と思います。リアム・ムーア演じる「天使」が「シンデレラ」における魔法使いのポジションだというのはわかるし、かぼちゃの馬車の代わりにサイドカー付のバイクで登場というのも良かったんですが。ただ、正直なところ一度観ただけでは「今のはどういう演出意図で?」と首をかしげるところが多かったんですね。近くのお客さんも観劇後に「何度見てもなーんかわかんないところがあるんだよね〜」と話していたし、ブログ検索しても同様の意見が散見していて、私だけではなかったのかなあ、と。「ここはこれこれこういう設定で」「ここのこれにはこういう時代背景があって」「ここで出てくるこの人は実は◯◯で」みたいな予備知識がちゃんとあった上で見ると「おお!」となるんだろうなー、パンフレット買えば書いてあるのかなー、と思ったりしました。あと、私は古典バレエ版のシンデレラを見ていないので、その辺の知識もあればまた違った感想になったのかもしれない、と思います。
 
冒頭、姉妹だけでなく兄弟もいるという設定に一瞬戸惑いましたし(しかもこの兄弟のひとりが髪の毛が脂っぽくぺったりしてるという絶妙なキモさを発揮していて「ここになにか意味が……」と考えてしまうという)、元ネタでは不在のはずのお父さんが車椅子で一緒に暮らしてるのもなんでだろーとその意味を考えてしまったり。二幕もダンスホールで空襲を受けた状態からスタートし、天使の魔法(?)で時間が巻き戻って人々が笑いさざめきダンスを楽しむ状態へ……となるので、なんとなく不穏な気持ちのまま見進めることに。三幕目でパイロットがシンデレラを探しに行く道中のストーリーももうちょっと解説が欲しい……と思いました。地下で娼婦との絡み、近くで子どもが見てたので「アーッ」と思いました。カフェドパリも実在のホールだしパディントン駅も出てくるしなので、ロンドンの土地勘があるとまたちょっと違った見え方ができるんでしょうけれども。病院での展開も「なぜわざわざ見舞いに来た母親がシンデレラを殺そうとするのか……」とかいろいろと疑問符が。こまけえことはいいんだよ場面の美しさを楽しめよ、と思わなくもないのですが、なにか意味がありげに演出されてる事象が多いのでどうしても首をかしげてしまいましたね。
 

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まあそれはそれとして本当に二幕カフェドパリの場面は本当に楽しかった! ここはただただ美しさに酔えた場面でしたね。マシュー・ボーンの振付、女性がリフトされた時にまるで重さが無いみたいに持ち上がってスカートがふわっと広がっるあの感じが好きなんです(伝われ)。戦時中の重苦しい空気の中のダンスホールの刹那的な空気とか「キャバレー」の影響もあるのかなあとちょっと思ったりしました。レス・ブラザーストンの舞台美術は今回も素敵でしたね。
 
そういえば2002年の「The Car Man」でルカ役、翌年の韓国公演「Swan Lake」で白鳥を演じたアラン・ヴィンセントさんが今回出演されてたんですが、主人公のお父さん役だったので「ええー!」と思いました。まあそりゃあ16年もたてば老け……げふんげふん、もとい、貫禄も出るなあ、と。白鳥役も韓国で見たんですが、ちょっと他にはない眼力と圧とマッチョな質感で印象的だったんですよね。役の違いはもちろん大きいのですが、雰囲気変わったなあー。
 
来年、New Adventuresはまた「白鳥の湖」が来日だそうです。新演出ということでどの程度変わっているのかが気になるところ。もう散々観たじゃん、お腹いっぱいでしょうとも思うんですが、あれは何度見ても飽きないんですよねぇ。Wキャストなのかトリプルキャストなのか、何回見ればいいのか……とその辺がちょっと気になっております。
 

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マシュー・ボーンの『シンデレラ』PV