十八世中村勘三郎七回忌追善 芸術祭十月大歌舞伎 夜の部

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仁左衛門さんの「助六」見たさに行ってきました歌舞伎座! 
助六というと成田屋さんのお家芸のイメージが強いので、公演概要が発表されたときは「えっ、仁左衛門さんが助六を?」とちょっと驚きました。京都では9年前に演じていらっしゃったようですが東京では実に20年ぶり(!)とのことなので、そりゃあ知らないわけだ、20年前はまだ歌舞伎見てなかったわ、と思いました。筋書きの上演記録を見たところ、20年前の仁左衛門さんの上演以降は東京では成田屋さんしか助六やってないんですもんね。

 

外題も成田屋さんがやるときは「助六由縁江戸桜(すけろくゆかりのえどざくら)」ですが、今回は「助六曲輪初花桜(すけろくくるわのはつざくら)」なんですね、google変換も前者は一発だけど後者は変換しません。wikipediaで改めて見ると、演じるおうちによってこの外題も変わるということでした(高麗屋さんの場合は助六曲輪江戸櫻、音羽屋さんの場合は助六曲輪菊、といった具合)。海老蔵さん襲名の時に見た時はずらりと河東節の方が並んでておおっと思ったものですが、今回は長唄を使うということでちょっと雰囲気も違いましたね。wikipediaによると河東節を使うのは成田屋さんのみということ。なるほど……。
 
ストーリー展開が派手なわけでもなく、場面も「三浦屋格子先の場」の一幕のみ。とはいえ「ああ!歌舞伎を見たなあ!」と思えるゴージャスさのある演目です。傾城(遊女)たちのお衣装がとにかく華やかだし(わーい芝のぶちゃんと鶴松くんもいるー)、それに付き従う禿たちも可愛いスタイリング。そして揚巻の七之助くんが、ひとり格上の風格を漂わせて登場。しかし見る度に思うけど揚巻のお衣装すごいよね! 前の帯は鯉の滝登りだし後ろには海老背負ってるし! 後半お衣装替えして出てきた時のあの七夕飾りの帯もすごい。なんかもうただひたすらお衣装の細部をオペラグラスでガン見してしまいます(ググってみたところ揚巻はお衣装だけで28.2kg、鬘と下駄をあわせたら総重量33.5kgですって。重い!)。そんな重さをものともせず悠然と歩く七之助くんの美しさよ……若さゆえの華ですね。ああきれい。
 
そして助六仁左衛門さんが、もう……御年74歳とは思えない若々しさとかっこよさ! 所作も美しくって江戸一番の伊達男、という設定になんの疑問もわかないレベルのイケメンぶり。私あの仁左衛門さんの手の動きが美しくて品があって大好きなんですけれど、あの爪の先まで完璧な所作、ほんとうに見る度にほれぼれしますね。“美しいものを見ることには価値がある”……という「神々の土地」のセリフをしみじみ思い出してしまいました。舞台写真でもどの角度から見てもカッコよくて「どうしよう!選べない!」ってなるレベルでしたよね、休憩時間ずっと写真売り場でオロオロする有様。あーもうどこからどう見てもかっこいい〜(語彙どこいった)。
 
助六の兄・白酒売新兵衛は勘九郎くん。揚巻の七之助くんといい、ほんと追善公演ゆえのこのキャスティング……中村屋ファン的にはたいへんありがたいです……。若衆艶之丞=亀蔵さんや通人里暁=彌十郎さんの配役もうれしい。通人彌十郎さんが勘三郎さんに呼びかけるような温かいセリフ、本当ならここ笑うはずの場面なのについ泣いてしまいますね。そして助六と新兵衛の母・満江がラスボス感漂う玉三郎さん! や〜贅沢〜。母親に気づいてあわあわする兄弟の仕草がほんとかわいくてクスクス笑ってしまいます。あの貫禄の母上には勝てないよなあ。特に助六なんてそれまで堂々としてただけに、あの慌てっぷりが可愛すぎて萌えます。
 
今回の助六仁左衛門さんが「集大成」と会見や取材でも話しておられたので、おそらく助六をやるのは今回が最後になるのでしょうけれど。それに間に合ってよかった、ちゃんと生で観られてよかった……とそんなことを思いました。 歌舞伎は同じ演目をくりかえし上演するから今回を逃してもまたそのうち観られる、と思ってしまいがちですが、玉三郎さんや仁左衛門さんが近年いくつかの演目で「この役を演じるのは今回が最後」とおっしゃっておられるので、ちゃんと見逃さないようにして記憶にとどめたいものだと思います。「まだまだいつでも勘三郎さんのお芝居は観られる」と思っていたのに、あの日から突然その機会を奪われて愕然としたこと、あの時の絶望と無念さと悔しさ、「もっとちゃんと観ておけばよかった」という後悔、忘れずにいたいと思います。