宝塚月組「エリザベート」

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出典:ギャラリー | 月組公演 『エリザベート-愛と死の輪舞(ロンド)-』 | 宝塚歌劇公式ホームページ

 

行ってきました月組エリザ!

初演から20年以上がたち宝塚だけでも10回目の上演となる今回。もはやエリザは古典というか、演出も大きく変わらないので演者による個性の違いを味わう域の演目になってきました。今回もフィナーレの曲調や振付衣装がちょっと違うかなーという程度で、本編については特に大きな演出の変更はなかったように思います。
 
ただまあそうはいっても演者の違いで受ける印象はこうも異なるものだな、というのがこの作品の面白いところで。今回は「珠城りょう×愛希れいか」という、一期違いの「同士」感が強いトップコンビが演じているということもあってか、従来よりさらに「エリザベートのイマジナリーフレンドとしての死(トート)」という大枠が際立った気がしました。メインビジュアルも「エリザベートの鏡に映った姿がトート」ですものね。演出家の意図的なものかどうかはわかりませんが、エリザベートとフランツの間にも、フランツとルドルフの間にも、エリザベートとルドルフの間にも「似たもの同士の家族だからこそぶつかり合う葛藤」があるように思えました。それぞれが鏡にうつった似たもの同士感がありましたね。

 

トート閣下の珠城りょうさん。キャラ的にはトートと真逆、かと思っていましたが包容力溢れる珠城さんが演じることによって「死=最終的にたどり着く安寧の場、安らぎ」感が出るのが面白かったですね。「死は逃げ場ではない!」の説得力がすごい。いままではあのセリフのところ「今までさんざん死に追いやろうとしてたくせに唐突になんなの」って半笑いで観てたんですけれど、珠城さんが言うと「心から死を受け入れてないのならば、まだ死んではいけない」みたいに聞こえてすっと納得できるから不思議。まあでもせっかく珠城さんがやるんだから宝塚初の短髪トートも観たかったなあーとも思いますが。いやしかしかっこよかった。好き。(突然の告白)
 
フランツの美弥るりかさん、ロイヤル感さすが。マザコン感はそんなに強くなく、ゾフィ様というよりはゾフィに仕込まれた「王宮のしきたりや王族たるものの責任感」に従順な感じ。歌声も柔らかくて素敵、「エリザベート 開けてくれ……」って言われたら秒で開けたくなるところ。マダムヴォルフの場面も最初本気で「汚らわしい……」みたいな顔をしているのに説得力があってさすが。セクシー全開時の美弥さまなら全員抱けそうなのにね!
 
ルキーニの月城かなとさん。正直ルキーニには上品すぎるのでは……と配役発表の時には思いましたが、案外お似合いでした。時々みせる目を剥く表情とか怖くてよかったです。わかりやすい狂気のルキーニというよりは、狂言回しの役割に徹してる感じがしました。あとゾフィさんの憧花ゆりのさん、こえええー。おっかねえー(褒め言葉)。憧花さんも今回で退団ですね、おつかれさまでした。
 
ルドルフ役は役替りで風間柚乃さん。これが一番意外な役作りでしたね。ルドルフといえばどっちかっていうと「不安で壊れそうだ」の歌詞に象徴されるようなナイーブな子ども、トートに操られた悲劇の若者、という印象なんですけど、風間さんは芯が強く、己の信念に向かって突っ走った結果勢いつきすぎて自爆、というような印象のルドルフでした。トートには軽く背中を押された程度で、もしトートがいなくてもこの悲劇は起こっただろうなと思える役作りでした。「僕たちは似たもの同士」「僕はママの鏡だから」の歌詞が歴代で一番説得力あるルドルフだったように思います。フランツとも大変に似たもの同士で「国のためという信念は同じだけど手段が違ったが故の悲劇」という気がしますし、またエリザベートと同じようなエゴの強さがあるがゆえに、親子が「互いをうまく受け入れられなかったが故の悲劇」という感じで、フランツ、エリザベート、ルドルフの三者がそれぞれ鏡でお互いのエゴに反発して寄り添えなかった家族の悲劇だったのだな、という解釈で観ていました。こういうエゴの強そうなルドルフ像は初めて観たのでかなり新鮮でしたね! お歌も上手いし2階席まで迫力を持って届く声量もあって、研5(入団5年目)の若手とは思えないほどの活躍でした。*1
 
あと個人的にはマックスパパの輝月ゆうまさんにちょっと惚れました。主人公の父親役という単なる老け役じゃなくて「家庭教師と浮気してる現役感」がすごかったですね。バートイシュルの場面でシシィに「しーっ」って指を立てながらウィンクしてたのを遠目で被弾してしまい「あっ、好き」と思いました。色気とダンディさあふれるマックスでしたねー。BADDYでは宇宙人だったし、雨唄では大女優だったのにー。役者!
 
さてタイトルロールのエリザベート、愛希れいかさん。かっこよかった。エリザベートといわずこれまで観た全ての役がかっこよかった。三歩下がって男役に付き従い相手役を立てるような昔ながらの娘役ではなく、男役と対等にわたりあえる現代的な娘役像のロールモデルを、宝塚歌劇団に新たに作り上げたといっても過言ではないのではないでしょうか。少なからず時代のジェンダー観が宝塚のトップコンビには反映されるのではという気がしているのですが、そういう意味で「包容力あふれる理想の夫・珠城りょう」「自立した芯の強い娘役・愛希れいか」のふたりはまさに時代を反映した素敵なトップコンビだったと思います。もっと珠城さんとのオリジナル作品を観たかった、このふたりでないとできない演目が山ほどあると思います(バーフバリとか)(えっ)。これが最後だなんて本当に残念ですが、きっと退団しても素敵な女優さんとして活躍してくださるのではないかと思います。応援します。

*1:研5とは思えない……といえば、宝塚大劇場で美弥るりかさんが一週間ほど急に休演されたとき、代役が「フランツ=月城かなと」「ルキーニ=風間柚乃」という配役でヅカオタに衝撃が走りましたよね。休演される直前、お歌が吹き替えになっていたという美弥さまの体調も心配でしたが、れいこがフランツでルキーニがおだちんて! 風間さんが新人公演でルキーニを演じているからある程度段取りは入っているから、という判断なんでしょうけれど、それにしても新人公演ではカットされてる場面も多いと聞くし、なんかもう聞くだけで緊張感で吐きそうになる話でした。新人公演ではなく本公演で、3番手の大役を研5の若手が演じるのですものね。狂言回しで歌もセリフも多いので緊張感は半端なかったと思います。それでも評判は上々だったのでさすがというかなんというか。エリザベートはそもそも代役での通し稽古をやるという話なのでみなさん準備はあるんでしょうけれど、それでもファンとしては手に汗握ってしまう話です。無事に美弥さまが復活されてよかった……