宝塚雪組「ひかりふる路 〜革命家、マクシミリアン・ロベスピエール〜/SUPER VOYAGER!」


出典:宝塚歌劇団公式サイト

望海風斗(のぞみふうと)さんトップ就任お披露目公演〜! というわけでご贔屓さんがついに大劇場でトップお披露目、首を長くしてこの観劇の日を待っておりました。タカラヅカニュースの映像やネットニュースの舞台写真を散々見た上に、Twitterの感想なんかも眺めていたので、なんかもう「既に観たかな?」くらいの気持ちになってしまっていましたけれど、まだこれが初見なんですよねー。普段は開演5分前くらいにバタバタと着席する東京宝塚劇場ですが、この日ばかりは開演1時間前に到着してキャトルレーヴ(グッズ売り場)を眺めてまわり、公演プログラムとショーで使うポンポンを入手し、開場してすぐに席に着くという落ち着かなさでございました(そこまでか)(きもちわるい)。ていうか前もって書いておきますが今日の感想、無駄に長文です。すみません。

まずは一幕のミュージカル『ひかりふる路(みち) 〜革命家、マクシミリアン・ロベスピエール〜』から。宝塚のフランス革命モノではよく脇役で登場してきたロベスピエールですが、革命前では高い理想をもつ善人役、革命後期では独裁者としての悪人役、みたいな描かれ方が多かったように思います。望海風斗さんはオーシャンズ11のテリー・ベネディクトとか“押し出しの強い悪役”が似合う人だっただけに、強い意思を持って粛清を進めていくような、ダークヒーロー的な描き方をするのかな、と開幕前は思っていたんですよね。しかしこの舞台でのロベスピエールは「高い理想を持ち、その理想を実現するために懊悩し、清廉潔白が過ぎるために融通がきかず、そのために大切な友人をも処刑に至らしめてしまう」というような人物として描かれています。ロベスピエールを狂信的に尊敬するサン・ジュストによって煽動されて、恐怖政治へ踏み出したものの、革命の象徴として祭り上げられ理想と現実の乖離に混乱している、そんな印象でした。twitterで誰かが「流され系総受けヒロイン」と書いていましたが、なるほどそんな感じのロベスピエールでしたね。自分の意志で困難を切り開いて行くというよりは、運命に翻弄されるタイプの主人公でした。

物語は革命初期、ルイ16世の処刑シーンから始まり、ジロンド派の陰謀によりジャコバン派ロベスピエールとダントン(彩風咲奈)が仲間割れし、革命の成就には恐怖政治が必要だとサン・ジュスト(朝美絢)たち急進派が暴走していく展開。それと平行して、革命で家族を殺されロベスピエールに殺意を抱いてパリへやってきた貴族の娘・マリー=アンヌ(真彩希帆)との出会い、ふたりが運命的な恋に落ちる様子が描かれています。史実に基づいたエピソードが多いのでしょうけれど、1時間35分ではやはり内容に対して尺が短いというか、じっくり二幕モノで観たいなーと思うような展開でした。駆け足過ぎて省略されてるエピソードや感情の流れを、想像で補うんじゃなくてもうちょっとちゃんと観たいというか。登場人物の行動もところどころ唐突に気持ちが変化したように思える部分もあり、その辺にはちょっと不満もありました。とはいえ、たくさんいる登場人物にきちんと見せ場を与えてくれてるのは組ファンとしては嬉しいところ。フランク・ワイルドホーン全曲書き下ろし、という贅沢な楽曲群も聴き応えがあってとても良かったです。ラストも牢獄で白装束のロベスピエールとマリー=アンヌが再会するところが白い衣装だったので「おっとこれはよくある二人で白装束昇天エンドかな?」と思いきや、ロベスピエールは断頭台へ登るもののマリー=アンヌは釈放され生きていくということで、ヅカにしては珍しい感じのラストだったなと。ロベスピエールのギロチンエンドはまあどうやっても避けられないので、マリー=アンヌだけでも生き残るのは希望のあるラストだったと思います。

ちょっとびっくりしたのは後半、親友ダントンを死に追いやった後のロベスピエールが「次は何すればいいの……?」ってすっかり虚ろな表情になっていて、「人民を再教育するには芝居だ!」みたいなサン・ジュストに乗せられて、変に宗教がかった妙な芝居の主人公として登場する場面でしたよね。古代風の衣装を着せられた主人公がものすごく愚かで滑稽にすら見えるという残酷(!)な演出で、芝居としてはものすごく面白いんだけど「わっタカラヅカで、トップさんのお披露目で、こんなことさせちゃうんだ!」って肝が冷えました。心なしか客席の温度もすうっと3度くらい下がって静まりかえっていたような。でもコレを成立させるのはやっぱり望海さんの芝居のウマさがあるからだよな、それを演出家が信頼してるってことだよな、とも同時に思いましたよね。ほんと後半は誰に感情移入してもツライ、みたいな重苦しい芝居だし、主人公が転落していきもがき苦しむ姿ばかりの展開なんだけれど、それを見たヅカオタや望海ファンの感想が「そうそうこういうだいもん(=望海風斗)が観たかった」「これだけいろんな表情のだいもんを見せてくれて生田先生ありがとう」「生田先生は本当にだいもんが大好きなんだな……」って感じだから業が深いというか。ドン・ジュアンの時もそうだったけど、主役が転落してブザマな姿をさらけ出す展開って、芝居としてはエモーショナルで面白いし私自身は大好物ですが、「タカラヅカ」の作品としてどうなんだ感があるじゃないですか。「ただただひたすらカッコいい男役トップ」を観たくて来る人にはこういうのどうなのかなー、好き嫌い別れるんじゃないかなー、という気もちょっとするんですが。ただTwitterで感想を検索する限りヅカファンにも概ね好評なようで、やっぱり観客側の意識も以前とは変わってるのかな、ヅカファンの懐も深くなってるのかなーと思いました。生田大和先生や上田久美子先生の作品は特にそういう傾向があるような気がするんだけど、こういう従来のヅカらしくない攻めた作品、私は好きなのでもっとやって欲しいな〜と思います。

さて役者について。ロベスピエール役の望海風斗さん、やーほんとお歌が上手い! 芝居が上手い! こういう重い芝居で苦しむ役を毎日2ステージやるのしんどいだろうなー!と思いますが、お陰様でファンは「理想と現実に苦しむだいもん」「恋に落ちるだいもん」「親友に裏切られるだいもん」「それでも親友を信じたくてサシで話をするけどやっぱり平行線でつらいだいもん」「腑抜けになっちゃうだいもん」「濡れた捨て犬状態で泣き濡れるだいもん」「死を前にしただいもん」などこういろんな表情を観ることができて本当にごちそうさまでした!と思いました(きもちわるくてすみません)。新娘役トップの真彩希帆ちゃん、いやーほんとお歌が!上手い! 高い音域まで出しても安定感があってトップコンビふたりのデュエットはもう本当に耳福。ふたりとも音を自由自在に操って歌いこなせる感じの歌声なので、何度でも聴きたいやつですね。しあわせ。今回のマリー=アンヌは殺意と恋の間で揺れ動くヒロインで難しかっただろうと思いますが、芝居も良かったです。やーほんとふたりで大型輸入物ミュージカルやってほしいなあ、さぞ聴き応えがあるでしょう。スカピンはこないだ星組がやっちゃったのでファントムとかねー。ねー。

そして二番手男役に就任したダントン役の彩風咲奈ちゃん! いやー豪放磊落なタイプの役ってはじめて観るけどすごい良かったですね。ダントンの家でロベスピエールと食事をする場面のがっつりサシで演技するとこ、ひりひりしていて見応えありました。なんかものすごく役の幅も広がって男ぶりが上がったような! この芝居の登場人物で結婚したい人ナンバーワン間違い無しです。愛妻家だしね。サン・ジュスト役の朝美絢さん、月組からの組替えで雪組大劇場初お目見えですが、良かったですねー。もうとにかく顔立ちが華やかで美しくて目をひきます。サン・ジュストロベスピエールに惚れ込むあまりダントンやマリー=アンヌに対する視線が冷たくて忌々しそうな顔してるのも萌えますし、銀橋でロベスピエールを後ろから抱きしめるあすなろ抱き、あれ事前情報無しに観てたら変な声出たかもしれません。彩凪翔さんのロラン夫人、きれいだったー。専科の夏美ようさんのタレーランがことあるごとにロラン夫人の身体に触ろうとしてて笑いました。ふたりともエロくて悪いお顔!

ギロチンをイメージしているのであろう斜めの線だけが入った幕のなんともいえない禍々しさと鋭さ、高さを使ったセットと演出、斜めの線が入ったお衣装など、ビジュアル面もとても良かったです。ギロチンのあの道具を出さずに背景の赤い絵で表現してた演出も良かったなーと。望海さんトップ就任の特番のインタビューで生田先生が「次はコメディやりたい!」って言ってたの「おいおいトップの大劇場作品なんてせいぜい4〜5本程度なのに次も自分でやるつもりかよ!」ってヅカオタの多くがつっこんだと思うんですけど(でも解る、こんな重いのやったら次は軽いのにしたいだろうとは思う)、生田先生の望海愛がこれでもかと伝わってくる入魂の一本だったと思います。なんかもう見てるあいだじゅう「みんな、こういう望海が観たかったんだろう……? 俺もだよ!」ってサムズアップする生田先生の笑顔が浮かんでしょうがない作品でした(注・妄想です)


出典:宝塚歌劇団公式サイト

はっ、気づいたら芝居だけで3千字超えてますね。まだショーの感想書いてないんですけどね。ということでショー「SUPER VOYAGER!」の感想行きます。いやー何がすごいって、野口先生の恥ずかしい歌詞が次々と繰り出されてきて、なんだかもう後半恥ずかしさがマヒして来ますね。「ようこそ俺の海へ 寒いだろうこっちへおいで ギュッと抱きしめてあげる オレとオマエのシークレットクルーズ(望海)」とか「愛の海でお前が溺れたら 俺が目覚めさせてやる MOUTH TO MOUTH 大好きだぞ泣き虫プリンセス(朝美)」とか「身体寄せ合って腰GUI GUI GUI(彩凪)」とか「心の垣根壊してやる 壁DON DON DON(彩風)」とかとかとか、もう言い出したらキリが無いんですが。野口先生あれマジでどんな顔で書いてるんですかね? 事前にtwitter情報でこのへんの歌詞は知ってましたけど、知っててもなお噴き出しますよね。あんなのBSで全国のお茶の間に放送して、正月に家族の前で観てるヅカオタがどんな顔で観ていいのかわかんないやつですよ!

プロローグはマリン系な青と白の衣装でまるでディズニーシーのパレードのよう。ポンポンを持って客席降り、観客参加型の演出でした。さほど推しの組でない時にこの演出があるとちょっと困りますが、贔屓のお披露目なのでご祝儀と思ってポンポン買って前のめりで参加してきました! でもグッズのポンポン1個なんですよね、あれ2個セットで売ってほしかったなー。振付も簡単で覚えやすかったです。楽しかった! プロローグの後は早くもロケット、この構成珍しいですね。組替えで星組からやってきた綾凰華ちゃんをセンターにしたラインダンス。銀橋でのロケットも珍しいような? 雪組いまちょっと人数少なめの上に休演者もいるんですが、銀橋でのせいか人数の少なさも感じませんでしたね。

そしてロケットの後は彩風さん中心のダンス! 海沿いの街の夜景と街灯を背景にカラフルな衣装で舞い踊る群舞、どうみてもラ・ラ・ランドですありがとうございます。このナンバーはひたすら5分くらい踊るやつなんですけど見応えありましたね! 脚の長い咲ちゃんとこちらも組替えで花組からやってきた朝月希和ちゃんとのダンス、とても楽しかったです。続いてマフィアな望海さんとジゴロな彩凪さんが女装した朝美さんを奪い合うという場面。今回のショーの中では唯一といってもいいアダルトな色気漂う場面でした。ラテン系の場面から中詰へと続き(ここでも真彩ちゃんの乗ってるセットがフロートっぽくてまるでディズニーシー)、大階段の白燕尾でダイナミックなマスゲーム。ここもすごく見応えありましたねー、さすがにここはトップさんよりも後ろの階段を観てしまいました。「どうやって階段のない稽古場でこの場面の稽古したんだろう?」とちょっと思ってしまったり。なめらかに陣形を変えていく組子たちの一糸乱れぬ動きに感心してしまいましたよ。しかしここの歌詞、ファンの間では有名な望海さんの日記のエピソード(まだいちヅカファンだった時代に『天海さんもそんなことある?』と日記で問いかけていたという話)が出てきて、なんかもう野口先生どんだけヅカオタなのよ……!と思いましたよね。

白い衣装の沙央くらまさんによるしっとりした卒業ソングに続いて、路線男役たちのアイドルショー「暴風雪」もインパクトありました。海賊風衣装でフラッグ振りながらGENERATIONSの「Hard Knock Days」歌って「二階ー!」と煽ってく場面、朝美・彩凪の美形コンビがシンメトリーで踊るっていうの、わかりやすくカッコいいですもんね。んーしかし打ち込みの曲が多いな〜もうちょっとショーでよくあるやつも観たい……と思ってた矢先にこの次に出て来るのが彩風さんのマタドールですよ。大階段に娘役に囲まれながら踊る彩風マタドール! ああーわかってらっしゃる。こういうの大好き! 続いて望海風斗さんをセンターに男役ががさっと出てくる「アンダルシアに憧れて」。いやーこの選曲いいんだけど、でも衣装がなー! 柄シャツではちょっとチンピラ風味すぎて! ちょっと安っぽいからもうちょっとなんかふつーにマフィア風スーツとかでお願いしたかった!ダンスはとても良かっただけに衣装だけが残念。望海&真彩の初デュエットダンスはダンスよりも歌中心でしたね、影ソロにのせてちょっと踊ったくらいで、どちらかといえばふたりの歌がメインでした。

はいそしてラストのパレード!(ぜえぜえ)ついつい階段降りの順番で番手のチェックしちゃいますけど、エトワール沙央くらま、永久輝、朝美絢、彩凪翔、彩風咲奈、真彩希帆、望海風斗の順番でした。ただまあ三番手以下は学年順でって感じでしょうかね。ショーや芝居の内容からすると朝美・彩凪の番手は微妙な気がしなくもない印象でした。永久輝さんもこの位置は安泰かと思ってましたけど組替えで綾凰華さんが来て近い学年にスター候補がいるからちょっとこのへんも緊張感漂いますね! 生徒個人のファンだとちょっと落ち着かないザワザワする感じもあるんでしょうけれど、組ファンとしては層が厚くなった感じで嬉しいです。トップさんも早霧さんから望海さんに代わり、組替えで来た生徒さんたちがそれぞれ目立つポジションに登用されていたので、なんだかガラッと雰囲気が変わった気がしますね。

野口先生のショーは若い先生らしく色々と意欲的な面があり楽しめました。打ち込みの曲が多いのは私もちょっと抵抗感があるのですが、全体的に退屈しないショーだったのは良かったです。野口先生のショーは組のカラーによっては合う合わないがありそうな……月とかは良さそうだけど花はどうかな?とか(なんとなく)。まあ、夏〜秋の花組大劇場のショーも楽しみにしています。