スリー・ビルボード




洋画沼のほうからは特に評判が聞こえてこないのに、演劇クラスタや劇作家からやたら「面白い」の声が聞こえてくるなー……と思ったらマーティン・マクドナーの作品なんですね。なるほど! マクドナー作品は「ウィー・トーマス」「ロンサム・ウエスト」あたりを観ましたかね。「ピローマン」はどうだったかな。どれも割と暗く着地点の見えないタイプの物語だなーという印象でした。通ウケするというか好みが別れるやつですね、演劇初心者にはちょっと薦めにくいけど好きな人はハマるタイプの作家だなあと。

今回の映画もまさに「一筋縄ではいかない」「着地点が見えない」ままどんどん転がっていくタイプの物語でした。「こういうテーマならこう展開するだろうなー」というお約束通りには物語は進まず、何回かびっくりして「ええーっ」って声に出そうになる場面がありました。差別意識に満ち溢れた閉塞感たっぷりの田舎町で起こる事件……という意味では20年くらい前の松尾スズキさんの作品観てる時に近い気分でしたね。「うわーミズーリ州ってこんな雰囲気なの?」って思いましたよ。ラストの着地点も着地したのかどうか、というところで終わってしまいます。大団円の物語が好きな人は「えっ何、終わり?ここで?」ってキョトンとするやつですね。でもあそこで観客にその後を委ねて終わってしまうの本当に正解だと思いますね、この作品はスッキリ解決したらむしろ気持ち悪いし問題提起がそもそものテーマという気がするので。


あらすじについてはwikipedeiaに詳細が載っていますが最後の最後まで詳しくネタバレしていますのでこれから映画をご覧になる方は読まないほうが賢明です。あとここから先は完全ネタバレで感想書きますので未見の方は引き返してくださいね!



ミルドレッドが歯医者の指にドリル突き立てるところあたりはまだ「ああーマクドナー節だね……」くらいでしたが、最初に「えー!」ってなったのはウィロビーが自殺したところでしたよね。まあ考えてみれば家族と楽しく過ごして思い出作りとか完全に死亡フラグでした。次に「えー!」ってなったのは粗暴な刑事ディクソンが広告屋のレッドを窓から投げ落としたとこ。いくら差別意識モリモリの頭の悪い警官だからってそこまでするー!?ってなるし、その後も新しい署長が来るまで首にならずに普通に勤めてるところが「田舎怖い」ってなりますよ。さらにそのディクソンが署内で手紙読んでる時にミルドレッドが火炎瓶投げ込むところで「やり過ぎーーーー!」ってなりますし。この調子でだんだん報復がエスカレートしていくのか……と思いきや、ディクソンは署長の手紙とレッドにオレンジジュースを差し出されたこと(ストローが刺さってるのが思いやり……!)ですっかり改心。ミルドレッドも看板を焼いたのは元夫チャーリーとしってこれは手にしたワイン瓶で殴り殺す流れ……!と思いきやワインを差し出して帰宅。ディクソンとミルドレッドもアンジェラの事件の容疑者を追う中で和解、アンジェラの事件とは無関係が分かったもののレイプの疑いのある男を殺そうと銃を持って車にふたりで乗り込むものの「あんまり気がのらない」「どうするかは道道決めよう」と話して幕切れ。ファー!そうくるか!

20年前の松尾スズキさんの作品のようだ、とも書きましたけど、発端から途中の展開はかなり共通項あると思うんですが、後味はまたちょっと違いますね。松尾さんの作品はもうちょっとクライマックスにぶわーっとカタルシスがあったので。マクドナー作品はもうちょっとモヤモヤ感が強いような。今回の作品も中盤は割りとバイオレンス感がマシマシになっていくわりに終盤はちょっと優しい視点が入ってきてふんわり軟着陸するイメージでした。しかし「スリービルボード(三枚の看板)」のタイトルは「三人の人物(ミルドレッド・ウィロビー・ディクソン)の表と裏」の象徴だと気づくと「あー!」ってなりますね。